第41話 白き日の返礼と、拠点共有権
【担当:慎也】
僕の日常がこれ以上壊れませんように……。
本編スタートです。
3月14日。ホワイトデー。
この日、2年B組の教室は、朝から戦場と化していた。
「――配送員、搬入開始だ」
キースラインの号令と共に、教室に台車を押した業者が入ってきた。
積まれているのは、山のような段ボール箱。
「えっ、何これ? 齋藤くん?」
女子たちがざわめく中、キースラインは箱を開けた。
中には、高級菓子店のクッキー缶や、駄菓子問屋から仕入れた大量のスナック菓子が詰め込まれている。
「先日の『納税』に対する、王からの褒美(還付金)だ」
キースラインは腕を組んで宣言した。
「我が軍の士気向上を目的とし、等価以上の物資を用意した。……受け取るがいい!」
「す、すごーい! これ一人一箱!?」
「齋藤くん、太っ腹ぁ!」
女子たちが歓声を上げる。
キースラインは満足げに頷いた。これで民の心は掴んだ。統治は盤石だ。
だが、天道花憐だけは、複雑な顔でそれを見ていた。
(……また、みんなと同じ扱いなのかな)
バレンタインでは特別扱いしてくれたけれど、お返しも特別だとは限らない。
彼女の机の上には、まだ何も置かれていなかった。
放課後。
ホームルームが終わると同時に、キースラインが花憐の席の前に立った。
「……来い、参謀。作戦会議だ」
それだけ言うと、彼は教室を出て行った。
花憐は心臓を跳ねさせながら、彼の背中を追った。
***
連れてこられたのは、夕日が差し込む渡り廊下。
誰もいない静かな場所だ。
「……あの、齋藤くん?」
「花憐」
キースラインが振り返った。逆光で表情が見えないが、声は真剣そのものだ。
「先月、貴様から受領した物資。……見事だった」
「う、うん……」
「あの質量、あの密度。まさに俺への忠誠心(愛)の塊だった。……ならば、王たる俺も、それ相応の『対価』を支払わねばならん」
キースラインはポケットから、小さな包みを取り出した。
手のひらに収まるサイズ。
アクセサリーか何かだろうか?
「手を出せ」
言われるままに両手を出すと、コトリ、とそれが置かれた。
「……開けてみろ」
花憐は震える手で包みを開いた。
中から出てきたのは――宝石の指輪でも、ネックレスでもなかった。
銀色に輝く、一本の「鍵」。
「……え?」
花憐は目を丸くした。
「これって……鍵?」
「ああ。俺の拠点の合鍵だ」
キースラインは平然と言い放った。
「あ、あ、合鍵ィッ!?」
花憐の声が裏返った。
合鍵。それは恋人たちにとっての最終到達点。半同棲の許可証。
「な、なんで!? お菓子じゃなくて!?」
「菓子などでは、貴様の重い想いとは釣り合わん」
キースラインは一歩近づき、花憐の目を見つめた。
「俺は、いずれこの国を統べる王(総理大臣)になる男だ。その背中を預ける参謀は、貴様しかいない」
彼は言葉を紡ぐ。
「だから、俺のテリトリー(プライベート)への無制限アクセス権を譲渡する。……いつでも入って来い。俺が寝ていようが、勉強していようが、貴様なら歓迎する」
それは、「俺の人生に踏み込んでいいのはお前だけだ」という、最大級の信頼の証だった。
指輪よりも実用的で、言葉よりも重い、物理的な「繋がりの証」。
「……っ~!!」
花憐の顔が、夕日よりも赤く染まった。
嬉しすぎて、思考回路がショートする。
(合鍵……いつでも行っていい……それって、もう結婚前提ってことだよね!?)
「……受け取ってくれるか?」
キースラインが不安そうに尋ねる。
「こ、困るか? 迷惑なら返却して……」
「返すわけないでしょバカァ!!」
花憐は鍵を握りしめ、キースラインの胸に飛び込んだ。
「絶対離さない! 一生使うから! 毎日入り浸ってやるんだからぁ!」
「うおっ!? ……ふっ、そうか」
キースラインはよろけながらも、彼女を受け止めた。
「ならば、俺の身の回りの世話も頼むぞ。……最近、家事(兵站管理)が追いつかん」
「任せなさいよ! 奥さん(予定)の腕の見せ所ね!」
「? よく分からんが、頼もしいな」
こうして、ホワイトデーの返礼は「合鍵の譲渡」という、高校生にしては重すぎる結末を迎えた。
翌日から、花憐がキースラインの家でエプロン姿で料理を作り、それをキースラインが「美味い」と平らげるという、事実上の新婚生活(ただし勉強会)が始まることになる。
二人の「勘違い」は、もはや「既成事実」へと進化していた。
【事後分析報告】
読んでくれてありがとうございます。慎也です。
また僕の体が物理法則を無視した動きをしていたようですが……楽しんでいただけたでしょうか?
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