第40話 熱衝撃と、砕け散る鉄壁
【担当:キース】
脆弱な頭脳で我が肉体を使いこなせるかな?
開戦だ。
その瞬間は、静かに、しかし劇的に訪れた。
ブゥゥゥン……。
数週間にわたり、慎也たちが設置した巨大音叉が、城壁に微弱な振動を与え続けてきた。
そして今、その振動が「臨界点」を超えた。
ピキッ。
高さ50メートルを誇る黒鉄の城壁に、一本の亀裂が走った。
それは瞬く間に蜘蛛の巣のように広がり――。
ズズズ……ドォォォォン!!
轟音と共に、絶対防御を誇った要塞が、自らの重みに耐えきれず崩落した。
魔法による爆破ではない。ただの「揺れ」によって、分子レベルの結合を解かれたのだ。
「す、すげぇ……」
ガルドが口をあんぐりと開けている。
「本当に、音だけで壊しちまった……」
土煙が晴れると、瓦礫の山の上に一人の男が立っていた。
四天王最強の守護者、鉄壁のグランツだ。
彼は崩れ去った自慢の城壁を見て、全身を怒りで震わせていた。
「おのれェェェ!! 人間風情が、我が鉄壁を小細工でェェ!!」
グランツが咆哮する。
彼は全身を、城壁と同じ素材の「超硬度魔鋼」のフルプレートメイルで包んでいた。
その防御力は城壁以上。生ける要塞そのものだ。
「潰れろォ!」
グランツが跳躍し、隕石のように落下してくる。
ズガァァァン!
慎也たちは左右に散開して回避するが、衝撃波だけで吹き飛ばされそうになる。
「クソッ、硬ぇ!」
ガルドが背後から斧を叩きつけるが、カーン! と軽い音がして弾かれた。
刃が欠けている。
「ダメだ! 俺の全力でも傷一つつけられねぇ!」
「無駄だ! この鎧は物理も魔法も通さぬ! 貴様らが息絶えるまで、すり潰してくれるわ!」
グランツが暴れまわる。単純だが、それゆえに手強い質量攻撃だ。
慎也は瓦礫の影に身を隠し、眼鏡を押し上げた。
(……観察終了。装甲厚、推定5センチ。材質は極めて硬いが、柔軟性がない)
「エリスさん、ガルドさん。プランBです」
慎也が叫ぶ。
「あの鎧を『金属疲労』と『熱衝撃』で破壊します!」
「熱……?」
「ええ。硬いものは、急激な温度変化に弱い。……エリスさん、僕の合図で最大火力の炎を! その直後に、絶対零度の氷をお願いします!」
「は、はい! 分かりました!」
作戦開始。
まずはガルドが囮になり、正面から挑発する。
「やーい、この鉄屑野郎! 中身も空っぽなんじゃねぇか!?」
「何だとォ!?」
グランツがガルドを追う。その隙に、慎也が背後へ回り込んだ。
「今だ! エリスさん!」
「《ヘル・フレア》!!」
エリスの杖から、紅蓮の炎が噴出した。
グランツの全身が高温の炎に包まれる。
「ぬるい! ぬるいわ! この程度の熱、我が魔鋼は溶けぬ!」
グランツは炎の中で高笑いする。
確かに、融点には届かない。だが、慎也の狙いはそこではない。
(金属は熱せられれば膨張する。……分子間の距離が開いた今が好機!)
「次! 最大冷却!」
「はいっ! 《コキュートス・ブレス》!!」
間髪入れず、極低温の吹雪がグランツを襲った。
ジュウウウウッ!!
猛烈な蒸気が上がり、赤熱していた鎧が、一瞬にして凍りつく。
「な、なんだ!? 寒暖差攻撃か? だが、これでも我が鎧は……」
グランツが腕を動かそうとした、その時。
ピキッ。
鎧の関節部分から、乾いた音がした。
急激な膨張と収縮。そのストレスに耐えきれず、最強の金属に「歪み」が生じたのだ。
「――そこだ」
慎也が飛び出した。
手には聖剣。だが、斬撃ではない。
彼は剣の柄頭を握り、切っ先を一点に集中させた。
狙うは、熱衝撃で最も脆くなっている胸部装甲の一点。
「構造力学崩壊突き(クラック・インパクト)!」
カィィィィン!!
澄んだ音が響いた。
一瞬の静寂。
そして――。
パリーン!!
ガラスが砕けるように、グランツの無敵の鎧が粉々に弾け飛んだ。
「な……ば、馬鹿な……!?」
剥き出しになったグランツが、信じられないものを見る目で後退る。
「我が最強の鎧が……砕けた……?」
「硬すぎるものは、脆いんですよ」
慎也は静かに告げた。
「柔軟性を持たない強さは、環境の変化に耐えられない。……物理学の常識です」
鎧を失ったグランツに、もはや勝機はなかった。
ガルドの強烈なラリアットが決まり、巨体は沈黙した。
「……勝負あり、だな」
ガルドが息をつく。
「へへっ、またお前の訳分からん理屈に助けられたぜ。『あつあつ』にして『ひえひえ』にすれば割れるなんざ、鍛冶師でも思いつかねぇよ」
「料理やお風呂と同じ原理ですよ」
慎也は、疲労困憊のエリスを支えながら微笑んだ。
「お疲れ様でした、エリスさん。貴方の正確な温度管理のおかげです」
「い、いえ……! 慎也さんの指示通りにしただけです……」
崩れ去った要塞と、倒れた守護者。
その向こうには、禍々しい魔王城への道がまっすぐに続いていた。
「行きましょう。……次こそ、最後です」
最強の矛(科学)を手に入れた勇者一行は、ついに魔王の間へと足を踏み入れる。
【総統通達】
読者諸君。我だ。
あの優男(慎也)め、相変わらず理屈っぽい戦い方をしていたな。我ならば一撃で粉砕していただろうに。
まあよい。今回の話に少しでも心が動いたならば、【ブックマーク】および、下部の【★★★★★】にて、我への忠誠を示せ。
良い評価は、次なる戦い(執筆)への糧となる。期待しているぞ。




