第39話 微細なる暗殺者と、献身の参謀
【担当:慎也】
僕の日常がこれ以上壊れませんように……。
本編スタートです。
2月下旬。
季節の変わり目、かつ学年末試験の前日。
キースラインは、教室で突如として机に突っ伏した。
「……ぐぅ」
「さ、齋藤くん!? どうしたの!?」
隣の席の天道花憐が慌てて駆け寄る。
キースラインは、脂汗をかきながら顔を上げた。顔が真っ赤だ。
「……敵襲だ、参謀。……見えない敵に、体内へ侵入された……」
「えっ、敵!? どこ!?」
「……俺の、粘膜から……熱い……」
保健室に運ばれた結果、ただの「風邪(知恵熱含む)」と診断された。
最強の将軍も、日本のウイルスと受験勉強のストレスには勝てなかったのだ。
***
放課後。
キースライン(慎也)の自宅マンション。
両親は共働きで不在の中、インターホンが鳴った。
「……入れ。鍵は開いている」
ベッドの中から、死にそうな声で応答する。
ドアが開くと、そこにはマスクをして、買い物袋を抱えた花憐が立っていた。
「お邪魔します……。大丈夫? 齋藤くん」
彼女はプリントを届けるという名目で、お見舞いに来たのだ。
初めて入る男子の部屋。いつもならドキドキするところだが、主の衰弱ぶりにそれどころではない。
「……無様だな。この俺が、細菌兵器ごときに後れを取るとは」
キースラインは額に冷えピタを貼りながら、悔しそうに唸った。
熱は39度。意識が朦朧としている。
「細菌兵器じゃなくて、風邪よ。……もう、頑張りすぎなのよ」
花憐はテキパキと動いた。
着替えを手伝い(キースラインは抵抗する気力もない)、スポーツドリンクを飲ませ、キッチンで消化の良いおかゆを作り始めた。
トントントン……。
包丁の音が心地よく響く。
キースラインは、ぼんやりと天井を見つめていた。
(……この感覚。かつて戦場で負傷し、野営地で寝ていた時と同じだ)
孤独と寒さ。死への恐怖。
だが、今は違う。
キッチンから漂う出汁の香りと、彼女がいるという気配。
それが、高熱で浮かされた意識を不思議と安らげていた。
「できたよ。……食べられる?」
花憐が、湯気の立つおかゆを持ってきた。
卵とネギが入った、優しい黄金色のおかゆだ。
「……すまん。腕が上がらん」
「じゃあ……あーん、して?」
花憐はスプーンにおかゆをすくい、ふーふーと息を吹きかけた。
ベタすぎる展開。だが、弱った元勇者に拒否権はない。
パクッ。
「……どう?」
「……悪くない。……五臓六腑に染み渡る、回復魔法だ」
キースラインは素直に認めた。
美味い。そして、温かい。
半分ほど食べたところで、キースラインは再び眠気に襲われた。
花憐は食器を片付けると、ベッドの脇に椅子を置いて座った。
「寝てていいよ。ご両親が帰ってくるまで、私ここにいるから」
彼女の手が、そっとキースラインの熱い手を握った。
「……花憐」
うわ言のように、彼は呟いた。
「……俺が倒れたら、軍の指揮権はお前に移譲する。……頼んだぞ」
「はいはい。指揮権預かりました。……だから安心して休んで、司令官殿」
花憐は、汗ばんだ彼の前髪を優しく撫でた。
いつも強気で、偉そうで、自信満々な彼が、今はこんなに弱々しく自分に頼ってくれている。
それがたまらなく愛おしく、母性本能をくすぐられた。
(……早く良くなってね。いつもの『俺様』に戻らないと、調子狂っちゃうから)
数時間後。
帰宅した母親が見たのは、手を繋いだまま椅子でうたた寝している美少女と、その横で安らかに眠る息子の姿だった。
翌日、熱が下がったキースラインは、母親からの尋問と冷やかし攻勢という「第二の戦場」に直面することになる。
【事後分析報告】
読んでくれてありがとうございます。慎也です。
また僕の体が物理法則を無視した動きをしていたようですが……楽しんでいただけたでしょうか?
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皆さんの応援が、僕たちの生存確率を上げます。よろしくお願いします。




