第37話 2月14日の補給物資と、忠誠の証
【担当:慎也】
僕の日常がこれ以上壊れませんように……。
本編スタートです。
2月14日。
登校したキースラインは、校内の異様な雰囲気を察知していた。
甘ったるい匂い。女子生徒たちの高揚した視線。そして、男子生徒たちの悲壮な顔つき。
(……何だ? 毒ガスか? いや、カカオの香りだ)
キースラインが席につくと、そこには山のような「箱」が積まれていた。
下駄箱にも、机の中にも。
文化祭やお化け屋敷での活躍、そして最近の「俺様キャラ」が一部の女子に刺さり、ファンクラブが出来ていたのだ。
「ほう。これは……貢物か」
キースラインは冷静に分析した。
民が王に収穫物を献上するのは当然の理。
彼は隣の席の男子に聞いた。
「おい。今日は『納税の日』だったか?」
「お前なぁ……! 嫌味か!? それ全部チョコだよ! バレンタインだよ!」
「バレンタイン……。なるほど、カカオに含まれるテオブロミンと糖分を摂取し、兵士の士気を高めるための補給イベントか」
キースラインは納得し、積み上がったチョコを「軍用糧食」として鞄に詰め込んだ。
だが、一人だけ面白くない顔をしている人物がいた。
隣の席の天道花憐である。
「……ふーん。齋藤くん、モテモテね」
彼女の手元には、綺麗にラッピングされた小さな箱がある。
だが、キースラインが大量のチョコ(義理&ファン用)を無造作に回収しているのを見て、渡すタイミングを完全に見失っていた。
(あんなに貰ってたら、私の一箱なんて……その他大勢に埋もれちゃうじゃない)
花憐は唇を噛んだ。
中身は、昨日徹夜で作った「本命・ザッハトルテ(最高級ブランデー入り)」だ。
市販の義理チョコとは「重さ(物理的にも感情的にも)」が違う。
放課後。
キースラインは、花憐を屋上に呼び出した。
「どうした、参謀。今日は朝から殺気立っているぞ」
キースラインは金網に寄りかかりながら言った。
「……別に」
花憐は拗ねていた。
「どうせお腹いっぱいでしょ。みんなから『納税』されたチョコがあるんだから」
「ああ、あれか」
キースラインは鞄をポンと叩いた。
「あれは部下たちに配る予定だ。俺一人では消費しきれんし、資源は循環させてこそ意味がある」
「えっ? 食べないの?」
「毒味(味見)はしたが、質が均一化された大量生産品だ。……俺が求めているのは、もっと質の高い、信頼できる供給源からの物資だ」
キースラインは、花憐をじっと見た。
「……貴様は、用意していないのか?」
「っ……!」
花憐の心臓が跳ねた。
この男は、本当にズルい。欲しい言葉を、一番欲しいタイミングで言ってくる。
「……あるわよ。とびきり重いやつが」
花憐は背中に隠していた箱を差し出した。
「義理じゃないから。……私の、一番大事な気持ちだから」
キースラインは箱を受け取った。ずっしりと重い。
彼はその場でリボンを解き、箱を開けた。
艶やかな黒い輝きを放つ、濃厚なチョコレートケーキ。
「ほう……。見事な密度だ」
キースラインは手づかみで一切れを口に放り込んだ。
濃厚なカカオの苦味と、芳醇な酒の香り、そして強烈な甘さが口いっぱいに広がる。
「……美味い」
彼は短く感想を漏らした。
「市販のレーションとは次元が違う。……これを作ったのか?」
「うん。……口に合った?」
「合格だ。これほどの高エネルギー体なら、戦場でも生き残れる」
キースラインは箱を大事そうに閉じた。
「これは俺が全て食う。他の誰にもやらん」
独占宣言。
それは花憐にとって、「お前の愛は俺だけのものだ」という言葉と同義だった。
「……うん。全部、食べて」
花憐は真っ赤になって微笑んだ。
こうして、バレンタイン戦争は終結した。
大量の義理チョコはクラスの男子たちに配給(再分配)され、キースラインの支持率はさらに上昇。
そして花憐の激重チョコは、王の胃袋へと収まり、二人の「主従(恋人)関係」はより強固なものとなったのだった。
【事後分析報告】
読んでくれてありがとうございます。慎也です。
また僕の体が物理法則を無視した動きをしていたようですが……楽しんでいただけたでしょうか?
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