第34話 魔大陸の重力定数
【担当:キース】
脆弱な頭脳で我が肉体を使いこなせるかな?
開戦だ。
船は、どす黒い霧を抜けて、荒涼とした海岸に漂着した。
ついに魔王城のある大陸――魔大陸への上陸だ。
タラップを降り、大地に足をついた瞬間。
ズシリ。
慎也の膝がわずかに沈んだ。
「……む?」
慎也は眉をひそめ、何度かその場で足踏みをした。
そして、落ちていた石を拾い上げ、軽く放り上げた。
石は放物線を描き、予想よりも「早く」落ちた。
「どうしたキース? 上陸の感激に浸ってる場合じゃねぇぞ」
ガルドが斧を担いで降りてくる。
「いえ……ガルドさん、エリスさん。体の重さを感じませんか?」
「ん? まあ、鎧を着てるしな。空気が少し重い気はするが」
二人はあまり気にしていない様子だ。肉体感覚で戦う彼らにとって、多少の環境変化は誤差の範囲なのだろう。
だが、慎也にとっては違う。
(……計算終了。重力加速度(g)、地球比で約1.2倍。大気密度は1.1倍)
この大陸は、魔力の影響で物理法則がわずかに歪んでいる。
たかが1.2倍だが、コンマ秒を争う戦闘においては、このズレが命取りになる。
「……パラメーターの書き換え(アップデート)が必要です。少し時間をください」
「あ? 何の書き換えだ?」
その時だった。
ヒュンッ!!
風切り音と共に、漆黒の槍が飛来した。
狙いは慎也の心臓。
「敵襲!」
慎也は反応した。
いつもの感覚で、槍の軌道を予測し、最小限の動きで回避しようとする。
(速度、角度……ここだ!)
――違う。
重力が強い分、槍の落下軌道が鋭い。
慎也の予測よりも、槍先は「低く」沈み込んだ。
シュッ!
回避したはずの頬を、槍の穂先が切り裂く。
鮮血が舞う。
「くっ……!?」
慎也はバックステップで距離を取った。
(深い……! 計算式が合わない!)
岩陰から現れたのは、整然とした隊列を組んだ兵士たちだった。
リザードマンの重装歩兵。統率された動きは、これまでの野盗や魔物とは次元が違う。
魔王軍正規兵だ。
「侵入者を確認。排除せよ」
隊長の号令と共に、リザードマンたちが一斉に襲いかかる。
「キース! ぼっ立ちしてんじゃねぇ!」
ガルドが飛び出し、敵の盾を斧で叩き割る。
エリスも支援魔法を放つが、大気中の魔素が濃いためか、魔法の制御が難しそうだ。
「魔力の通りが悪いです……! 威力が安定しません!」
慎也は聖剣を構えたまま、冷や汗を流していた。
全ての感覚がズレている。
剣の重さ、振るう速度、踏み込みの反動。
このままでは戦えない。また「エラー」が出る。
(落ち着け。……僕は科学の子だ)
慎也は深呼吸をした。
物理法則そのものが消えたわけではない。定数が変わっただけだ。
ならば、頭の中の数値を入れ替えればいい。
g=9.8 ➔ 11.76
空気抵抗係数補正……完了。
「……再起動」
慎也の瞳から迷いが消えた。
襲いかかるリザードマンの剣。
重力に引かれて鋭く落ちるその軌道を、慎也の脳は正確に「新しい軌道」として描写し直した。
ガキィン!!
聖剣が、敵の剣を完璧な角度で弾き返す。
重力の強さを利用し、上から叩き落とすようなカウンター。
「ここの重力は、武器の重さを増すだけじゃない……」
慎也は踏み込んだ。
地面への反作用もまた、強く返ってくる。
「加速力も増す!」
ドォォォン!!
以前よりも鋭い踏み込み。
慎也の突きが、リザードマンの堅牢な鱗を貫き、吹き飛ばした。
「なっ……速い!?」
敵兵が驚愕する。
環境に適応できていないはずの人間が、魔族以上の速度で動いている。
「悪いが、もう計算は終わった」
慎也は眼鏡を上げる仕草をして、残りの敵を見据えた。
「この世界の『ルール』は把握した。……かかって来い」
魔大陸の重力すらも味方につけたインテリ勇者。
その適応力こそが、この過酷な敵地で生き残るための最大の武器だった。
【総統通達】
読者諸君。我だ。
あの優男(慎也)め、相変わらず理屈っぽい戦い方をしていたな。我ならば一撃で粉砕していただろうに。
まあよい。今回の話に少しでも心が動いたならば、【ブックマーク】および、下部の【★★★★★】にて、我への忠誠を示せ。
良い評価は、次なる戦い(執筆)への糧となる。期待しているぞ。




