第33話 白銀の機動演習と、氷雪の幻影
【担当:慎也】
僕の日常がこれ以上壊れませんように……。
本編スタートです。
冬休みも残りわずか。
キースラインと天道花憐は、スキーリゾートに来ていた。
もちろん、宿題は初日で殲滅済みである。
「見て、齋藤くん! 一面の銀世界よ!」
カラフルなウェアに身を包んだ花憐がはしゃぐ。
「うむ。視界不良かつ足場は不安定。……だが見晴らしはいい。敵の接近を察知しやすい地形だ」
キースラインは純白のウェア(迷彩のつもり)で、鋭い眼光を放っていた。彼にとってスキーとは、「雪上高速機動訓練」以外の何物でもない。
リフトで山頂へ。
そこから二人は滑り出した。
「わぁっ! 齋藤くん、速い!?」
花憐が驚くのも無理はない。
キースラインは直滑降で、弾丸のように斜面を駆け抜けていく。
体重移動とエッジの角度を完璧に制御し、空気抵抗を最小限にする姿勢。それはオリンピック選手も裸足で逃げ出すレベルの機動だった。
「遅いぞ、参謀! 雪上での遅れは死に直結する!」
「待ってよぉ~! デートなんだからゆっくり滑ろうよぉ!」
***
夕暮れ時。
天候が急変し、吹雪いてきた。
コースアウトしたわけではないが、視界が悪くなり、周囲に他の客の姿はない。
「さ、寒い……。急に気温が下がったみたい」
花憐が震えだす。
キースラインは眉をひそめた。
(……不自然だ。ただの気象変化ではない。この冷気……魔力を帯びている?)
ふと、脳内に神の声が響く。
――『あーあ。あんた、またやっちゃったわね』
(神か。何の話だ?)
――『この山には昔から「雪女」の伝承があるのよ。客たちの「遭難したらどうしよう」「怖い」っていう畏怖の念が、あんたのダダ漏れ魔力と反応して……ほら、出たわよ』
ヒュオオオオ……。
風の音が、女の悲鳴のように聞こえる。
そして、舞い上がる雪が人の形を成し始めた。
透き通るような白い肌、長い黒髪、そして着物姿の美女。
【雪女(魔力製)】の顕現である。
「う、うそ……幽霊!?」
花憐が悲鳴を上げて腰を抜かす。
雪女は虚ろな瞳で二人を見つめ、氷のように冷たい息を吐いた。
『……寒イ……デショ……? 眠リナサイ……永遠ニ……』
周囲の空気が凍結し、樹木が瞬時に氷漬けになる。
本物の怪異だ。花憐のような一般人が触れれば、心臓麻痺を起こしかねない。
だが、キースラインは動じなかった。
彼はスキー板を外し、雪女に向かってザッザッと歩み寄った。
「おい、貴様」
キースラインは、雪女の目の前で仁王立ちした。
『……?』
「装備はどうした?」
『……ハ?』
「その薄着だ。気温マイナス10度の雪山で、着物一枚とは何事だ。低体温症で死にたいのか?」
まさかの説教。
雪女(の形をした魔力)が、困惑で点滅する。
花憐もポカンとしている。
「それに、民間人がこんな吹雪の中を徘徊するな。遭難救助隊の手を煩わせる気か」
キースラインは、自分が着ていたダウンジャケットを脱ぐと、バサッと雪女に被せた。
「貸してやる。麓のロッジまで送ってやるから、大人しくついてこい」
『……ア……タタカイ……』
雪女が目を見開いた。
ジャケットに残っていたキースラインの体温――いや、「あふれ出る生命エネルギー(魂の熱量)」。
それが、冷たい魔力だけで構成されていた彼女の核を、内側から温めたのだ。
シュゥゥゥ……。
雪女の体が、湯気を立てて溶け始めた。
退治されたのではない。「満足」してしまったのだ。
強大な陽のエネルギーに触れ、陰の存在が中和され、昇華していく。
『……アリガトウ……強キ……オ方……』
雪女は頬を染めて微笑み、光の粒子となって消滅した。
後には、キースラインのジャケットだけが雪の上に残された。
「……消えた?」
キースラインは首を傾げた。
「逃げ足の速い女だ。礼も言わずに行くとは」
「……齋藤くん」
花憐が、震える声で呼びかけた。
「今の人……絶対、この世の人じゃないよね……?」
「ん? そうなのか? ただの遭難者に見えたが」
「遭難者が空中に消えたりしないから!!」
花憐は涙目になりながら、ジャケット一枚(下は薄着)になったキースラインに抱きついた。
「バカ! 風邪ひくでしょ! なんで幽霊に上着貸しちゃうのよ!」
「む……貴様がいるから寒くない」
「えっ……?」
「貴様の体温が高いからだ。……カイロ代わりになる」
キースラインは悪気なく言ったが、花憐の顔はさらに沸騰した。
「……もう! バカ! 大好き!」
結局、キースラインは「雪山で謎の美女に上着を貸して消えられた男」という新たな都市伝説を作り、花憐との熱い抱擁で暖を取りながら下山した。
雪女すらも惚れさせ(成仏させ)、ヒロインとの仲も深める。
元勇者の機動演習は、今回も完全勝利(Sランク評価)で幕を閉じた。
【事後分析報告】
読んでくれてありがとうございます。慎也です。
また僕の体が物理法則を無視した動きをしていたようですが……楽しんでいただけたでしょうか?
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