第31話 除夜の鐘と、神域の暴走
【担当:慎也】
僕の日常がこれ以上壊れませんように……。
本編スタートです。
12月31日、深夜。
キースラインは、近所の寺院にいた。
凍てつくような寒さの中、彼は長い行列に並んでいた。隣には、厚着をした天道花憐がいる。
「……寒い。この国の民は、なぜ好んで寒空の下に並ぶのだ?」
「もう、文句言わないの。これをしないと年は越せないわよ」
やがて順番が回ってきた。
目の前には、巨大な梵鐘がつるされている。
「さあ、齋藤くん。煩悩を払うつもりで、突いてみて」
(煩悩? 精神干渉系の儀式か?)
キースラインは訝しみつつ、撞木の紐を握った。
物理的な破壊なら容易いが、音を響かせるとなると……。
彼は軽く息を吸い、腰を入れて撞木を振るった。
ゴォォォォォォン……。
重厚な音が、夜の闇に波紋のように広がった。
その瞬間。
ビリビリビリッ!
キースラインの全身に、電流のような衝撃が走った。
(な、何だ……!?)
物理的なダメージではない。
だが、その音色は骨の髄まで浸透し、魂にこびりついた「戦場の殺気」や「血の記憶」を、震わせて洗い流していくようだった。
「……すさまじい」
キースラインは呆然と鐘を見上げた。
「音響兵器かと思ったが……違う。これは『魂の洗濯』だ。回復魔法でもポーションでも治せない、精神の澱が消えていく……」
異世界には、戦うための魔法はあっても、心を鎮めるためのこれほど洗練された装置はなかった。
キースラインは、日本の精神文化の深さに戦慄し、そして少しだけ涙ぐんだ。
「……悪くない響きだ」
***
そして翌朝。1月1日。
今度は地元の大きな神社へ「初詣」に向かった。
寺院とは打って変わって、境内はすし詰め状態。数千人の参拝客がごった返している。
「すごい人……。はぐれないようにしてね、齋藤くん」
晴れ着(振袖)姿の花憐が、袖を掴んでくる。
「ああ。……見事な装束だ、花憐。防御力は皆無だが、美しさという一点において最強の装備だな」
「もう、素直に可愛いって言ってよ……///」
二人は本殿へと進む。
だが、キースラインの表情が次第に険しくなっていった。
(……空気が重い)
文化祭の時と同じだ。いや、それ以上か。
周囲に渦巻くのは、数千人の「願い」。
『合格したい』『金が欲しい』『健康でいたい』。
それらの強烈な欲望(祈り)が、この場に満ちている。
そして、そのエネルギーの中心にいるのが、規格外の魂を持つ勇者(俺)だとしたら?
――『あ、これヤバいわね』
神様の警告が聞こえた瞬間だった。
ガタガタガタガタッ!!
突然、参道の両脇に鎮座していた石像――狛犬が、激しく振動し始めた。
「えっ!? 地震!?」
「いや、違う! 見て、狛犬の目が光ってる!」
参拝客が悲鳴を上げる。
それだけではない。境内の木々が風もないのにざわめき、おみくじ掛けの紙片が吹雪のように舞い上がった。
人々の「祈り」を燃料に、キースラインの魔力が共鳴し、ポルターガイストを引き起こしたのだ。
「キャァァァッ!」
パニックになりかけた群衆が将棋倒しになりそうになる。
花憐も波に飲まれかけた。
「――静まれ!!」
キースラインは、本殿の前で柏手を打った。
パンッ!!
破裂音と共に、彼は体内の魔力を逆流させ、周囲のエネルギーを強制的に霧散させた。
「覇王色の神気(ただの魔力威圧)」
一瞬にして、舞い上がったおみくじが着地し、狛犬の振動が止まる。
シーンと静まり返る境内。
キースラインは、冷や汗を隠して厳かに告げた。
「……神が、新年の挨拶に来られたようだ。皆の願い、しかと天に届いたぞ」
適当なハッタリだった。
だが、その堂々たる姿と、異常現象がピタリと止んだ事実が、群衆に奇妙な説得力を与えてしまった。
「お、おお……神様の奇跡だ……!」
「ありがたや……!」
人々が拝み始める。
キースラインは、なぜか「生き神様」のような扱いを受けながら、心の中で頭を抱えた。
(……除夜の鐘で心を洗った直後に、これか。やはり俺には、平穏な祈りなど似合わんらしい)
「齋藤くん……今の、何?」
花憐だけが、疑いの眼差し(と、少しの畏敬)を向けている。
「……気にするな。神の気まぐれだ」
キースラインは強引に花憐の手を引き、その場を離れた。
賽銭箱に投げ入れた五円玉に、「これ以上、変なことが起きませんように」と切実に願って。
【事後分析報告】
読んでくれてありがとうございます。慎也です。
また僕の体が物理法則を無視した動きをしていたようですが……楽しんでいただけたでしょうか?
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