第3話 丁寧すぎる勇者
【担当:キース】
脆弱な頭脳で我が肉体を使いこなせるかな?
開戦だ。
「――模試の続きがぁぁぁ!」
絶叫と共に、齋藤慎也の意識は覚醒した。
ガバッ、と勢いよく顔を上げる。
「はっ……! すみません、寝てしまいました! 解答用紙は……!」
反射的に謝罪の言葉を口にしながら、慎也は手元を探った。
しかし、そこにマークシートはない。
あるのは――血濡れた巨大な『大剣』の柄だった。
「……え?」
慎也は瞬きをした。
いつもの癖で、眼鏡のブリッジを上げようと指を動かす。だが、指先は虚しく空を切った。眼鏡がない。それなのに、視界は恐ろしいほどクリアだった。
教室の壁も、黒板も、友人たちも消え失せている。
目の前に広がっていたのは、赤茶けた荒野と、ひっくり返った巨大な怪物の死骸。
そして、鼻をつく焦げ臭い匂い。
「き、キース様……?」
怯えたような、鈴を転がすような声が聞こえた。
恐る恐る振り返ると、そこにはファンタジー映画から抜け出てきたような、ローブ姿の美少女が立っていた。手には杖を持っている。僧侶だろうか。
彼女は青ざめた顔で、ガタガタと震えていた。
(あ……そっか。僕、入れ替わったんだ)
神の言葉が脳裏に蘇る。
『キースラインの体に入って、魔王を倒してもらう』。
夢じゃなかった。
慎也は自分の体を見下ろした。丸太のように太い腕、傷だらけの無骨な手、全身を覆う鈍色の鎧。
あのもやしっ子だった自分の体とは、エンジンの排気量が違うことが感覚でわかる。全身に力が満ち溢れていて、重いはずの大剣が羽根のように軽い。
「あの……キース様? お怒りになられているのですか……?」
黙り込む慎也を見て、僧侶の少女が悲鳴を上げんばかりに身を縮こまらせた。
ハッとして、慎也は彼女に向き直った。
そうだ、元の持ち主は乱暴者だったらしい。なら、まずは仲間を安心させなければ。
慎也は努めて穏やかな表情を作り、背筋を伸ばした。
「いえ、怒ってなんかいませんよ。ご心配をおかけして申し訳ありません」
ペコリ、と。
歴戦の勇者(の外見)が、直角に近い角度で綺麗な御辞儀をした。
「…………へ?」
少女の思考が停止した音が聞こえた気がした。
彼女だけではない。後ろに控えていた軽装の盗賊らしき男と、髭面の重戦士も、口をあんぐりと開けて固まっている。
「あ、急に黙り込んでしまってすみません。少し、考え事をしていて……。怪我はありませんか? 皆さん」
慎也は至って真面目に、クラス委員長のような口調で気遣った。
しかし、その言葉は彼らにとって、ドラゴンの咆哮よりも恐ろしいものだったらしい。
「ひっ……!?」
盗賊の男が腰を抜かした。
「あ、謝った……? あのキースが? 頭を下げたぞ!?」
「おい、まずいぞ! ギガントスの毒でも食らったか!? それとも、これは新しい処刑の前触れか!?」
「キ、キース様! お気を確かに! 私がすぐに浄化魔法を……!」
大パニックだった。
少女が涙目で杖を構え、男たちが武器に手をかける。
(ええ……どういうこと? 僕、普通に接してるだけなのに……)
慎也は困惑した。
この体の持ち主は、一体どれだけ普段の行いが悪かったのだろうか。
「あー……皆さん、落ち着いてください」
慎也はなだめようと、一歩足を踏み出した。
ドォォォン!!
ただの一歩。それだけで、足元の岩盤が蜘蛛の巣状に砕け散った。
「うわっ!?」
慌てて体勢を立て直そうと手を振ると、その風圧だけで近くの岩が吹き飛んだ。
「ひいいい! やっぱりお怒りだぁぁぁ!」
「ち、違うんです! 力加減がわからなくて!」
最強のステータスと、一般人の精神。
そのアンバランスさが生む恐怖と混乱の渦中で、元優等生の冒険が幕を開けた。
【総統通達】
読者諸君。我だ。
あの優男(慎也)め、相変わらず理屈っぽい戦い方をしていたな。我ならば一撃で粉砕していただろうに。
まあよい。今回の話に少しでも心が動いたならば、【ブックマーク】および、下部の【★★★★★】にて、我への忠誠を示せ。
良い評価は、次なる戦い(執筆)への糧となる。期待しているぞ。




