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第29話 聖夜の誤算、将軍の誓い

【担当:慎也】

僕の日常がこれ以上壊れませんように……。

本編スタートです。



 12月24日。クリスマスイブ。

 街はイルミネーションに彩られ、恋人たちの熱気で包まれていた。

 キースラインと天道花憐もまた、光の並木道を歩いていた。


「綺麗だね、齋藤くん……!」


 花憐は白いコートに身を包み、幸せそうに微笑んでいる。

 以前の「どこまでもついていく」という発言以来、彼女は自分たちが相思相愛の恋人同士だと信じて疑っていなかった。


「……うむ。光源の配置は見事だが、電力の浪費だな」


 キースラインは無粋な感想を漏らしつつも、隣を歩く花憐の歩調に合わせていた。


 今日は「聖夜の視察」という名目で連れ出されたが、花憐が楽しそうなので、まあ良しとしていた。

 広場のベンチに座った時、花憐が意を決したように切り出した。


「ねえ、齋藤くん。……確認なんだけど」

「なんだ?」

「私たちって……その、付き合ってるのよね?」


 直球の質問。

 花憐は期待に瞳を潤ませている。

 だが、キースラインの脳内辞書に「付き合う(交際)」という恋愛用語の定義はなかった。彼の解釈はあくまで「行動を共にし、契約を結んだ関係」だ。


「……付き合う? 妙なことを聞く」


 キースラインは眉をひそめた。


「俺とお前は、もっと実利的な関係だろう」

「……え?」


 花憐の笑顔が凍りついた。


「じ、実利的って……?」

「俺の覇業に必要な頭脳と、それを支える契約。いわば『主従』に近いビジネスパートナーだ。……恋人ごっこのような甘い言葉で縛るつもりはない」


 キースラインとしては、「あやふやな感情論ではなく、もっと強固な信頼関係だ」と言いたかった。

 だが、その言葉はあまりにも冷たく、事務的に響いた。


「ビジ……ネス……?」


 花憐の目から光が消えた。

 あの「ついてこい」も、あの「ぬいぐるみ」も、全部……私が便利だから?


 好きだからじゃなくて、ただの……道具として?


「……そっか。そうなんだ……」


 花憐が立ち上がった。俯いた顔は見えない。


「ごめん、私……勘違いしてたみたい」

「おい、どこへ行く?」

「帰る! 齋藤くんのバカ!」


 花憐は脱兎のごとく駆け出し、人混みの中へ消えてしまった。


「……は?」


 残されたキースラインは呆然とした。


(なぜ怒る? 俺は彼女を『対等以上のパートナー』として認めたつもりだったのだが……?)

 ――『あーあ。あんた、ホント女心分かってないわね』

 神様の呆れた声。


(黙れ。何がいけなかったのだ!)

 ――『「ビジネス」なんて言われたら、「愛はない」って言われたも同然よ。……追いかけなさい。部下の士気低下を見過ごすのが将軍?』


「……チッ!」


 キースラインは舌打ちをし、走り出した。

 


 ***


 人通りの少ない公園の片隅で、花憐は泣いていた。

 恥ずかしかった。勝手に舞い上がって、勝手に期待して。


「うぅ……バカみたい……」

「見つけたぞ、参謀」


 息を切らせたキースラインが現れた。


「来ないでよ! ビジネスなんでしょ!?」

「訂正する!」


 キースラインは大声で遮った。

 彼は花憐の肩を掴み、真っ直ぐにその濡れた瞳を見つめた。


「言葉の選択を誤った。……俺にとって、お前はただの道具ではない」

「じゃあ何よ……」

「俺は……元の世界でも、数多の部下を率いてきた。だが、背中を預けたいと思ったのは、ガルドのような屈強な戦士だけだった」


 キースラインは、花憐の冷えた手を強く握った。


「だが、お前は違う。戦士でもない、魔法使いでもない。か弱い少女だ。……それなのに、俺はお前を『隣』に置きたいと思っている」

「……え?」

「俺の覇道には、お前の描く地図が必要だ。……他の誰でもない、天道花憐という『個』が、俺には不可欠なのだ」


 キースラインは、真剣な眼差しで告げた。


「これを『愛』と呼ぶのかは知らん。だが……俺はお前を、誰よりも高く評価し、誰よりも丁重に扱うと誓う。……これでも不服か?」


 不器用すぎる弁明。

 だが、それは「お前がナンバーワンだ」という、彼なりの最上級の告白だった。


 花憐は瞬きをし、そして涙を拭って吹き出した。


「……ほんと、不器用。……評価し、扱うって……物の言い方が堅すぎよ」

「む……善処する」

「でも……『不可欠』って言葉は、合格点をあげる」


 花憐は、握られた手をギュッと握り返した。

 やっぱり、この人はズルい。

 突き放したかと思えば、こんなに熱烈に必要としてくれる。


「……仕方ないから、これからも『参謀』として側にいてあげる。……覚悟してね、将軍様?」


 悪戯っぽく微笑む花憐。

 その笑顔を見て、キースラインは安堵の息を吐いた。


(やれやれ。魔王軍との和平交渉より難解だったぞ)

 空からは、白い雪が舞い始めていた。


 すれ違いかけた二人の距離は、この騒動を経て、より強固な(そして相変わらず勘違いを含んだ)絆へと進化したのだった。


【事後分析報告】

読んでくれてありがとうございます。慎也です。

また僕の体が物理法則を無視した動きをしていたようですが……楽しんでいただけたでしょうか?


今後のデータの参考にするため、よろしければ「ブックマーク」と、下にある【★★★★★】で評価を入力していただけると助かります。


皆さんの応援エネルギーが、僕たちの生存確率を上げます。よろしくお願いします。


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