第27話 商業要塞(モール)への潜入査察
【担当:慎也】
僕の日常がこれ以上壊れませんように……。
本編スタートです。
日曜日。駅前の時計台の下に、一人の男が立っていた。
齋藤慎也(中身はキースライン)である。
彼は腕を組み、仁王立ちで周囲を警戒していた。その姿は、待ち合わせというよりは「要人警護のSP」に近い。
(……平和だ。だが、油断は禁物。いつ敵(不良)が襲ってくるか分からん)
「さ、齋藤くん! お待たせ!」
そこへ、天道花憐が小走りでやってきた。
いつもの制服ではない。清楚なニットのワンピースに、ベレー帽。
学年トップの才女が、年相応の少女らしい「勝負服」で現れたのだ。
「遅いぞ、参謀」
キースラインは時計を見た(集合時間5分前だが、軍人は10分前行動が基本だ)。
「す、ごめんなさい……。変かな、この服?」
花憐が恥ずかしそうに上目遣いで尋ねる。
キースラインは、彼女を頭からつま先までジロジロとスキャンした。
(ふむ。装甲(防御力)は薄いが、機動性は高そうだ。それに、周囲の風景に溶け込む迷彩効果(可愛らしさ)も高い)
「悪くない。敵の警戒心を解くには最適な偽装だ」
「ぎ、偽装……? (か、可愛いってことよね!?)」
花憐はポジティブに翻訳し、頬を染めた。
「さあ行くぞ。今日は貴様の案内で、この地域の『商業要塞』を視察する」
***
ショッピングモールに到着したキースラインは、その物量に圧倒されていた。
「ほう……食料、衣料、武器(雑貨)が全て一つの建物に収まっているとは。この国の兵站管理はどうなっているんだ?」
「へ、兵站? ただのお店だよ?」
キースラインは、ウィンドウショッピングすらも「敵情視察」として楽しんでいた。
そして二人は、ゲームセンターへと足を踏み入れた。
「なんだ、ここは……」
キースラインの目が輝いた。
電子音が鳴り響き、光が点滅する空間。そこには、銃を撃つゲームや、太鼓を叩くゲームなど、擬似的な「訓練装置」が並んでいる。
「齋藤くん、これやってみない? クレーンゲーム!」
花憐が指差したのは、可愛いクマのぬいぐるみが山積みになった筐体だ。
「ほう。アームを操作し、物資を奪取する訓練か。……いいだろう」
キースラインは百円玉を投入した。
ウィーン、とアームが動く。
(……甘い。アームの握力が脆弱すぎる。設計ミスか?)
通常なら獲れない設定だ。だが、元勇者は諦めない。
(握力が足りないなら、物理で落とすまで!)
彼はアームの「爪」ではなく「本体」をぬいぐるみの頭に押し付け、その反動(押し込み)で強引に雪崩を起こした。
ドサドサドサッ!!
雪崩のように、大量のクマが排出口に落ちてくる。
「えええええ!? ぜ、全部取れちゃったよ!?」
花憐も店員もドン引きだ。
「ふん。容易い任務だったな」
キースラインは、その中から一番大きなクマを拾い上げ、無造作に花憐に押し付けた。
「戦利品だ。貴様にくれてやる」
「えっ……私に?」
「俺には不要だからな。……それに、その熊、貴様の今日の服と色が似ている」
つまり「似合っている」と言いたかったのだが、表現が不器用すぎた。
だが、花憐には十分だった。
彼女はぬいぐるみをギュッと抱きしめ、花が咲くように笑った。
「……ありがとう! 大切にするね!」
その笑顔を見た瞬間。
ドクン。
キースラインの胸が、妙な音を立てた。
(……なんだ? 不整脈か? 敵の精神攻撃を受けたような衝撃が……)
勇者は自分の動揺に気づかず、咳払いをして誤魔化した。
***
帰り道。夕焼けに染まる公園のベンチで、二人はクレープを食べていた。
「甘い……。この国の兵糧は、なぜこうも中毒性が高いのだ」
文句を言いながらも、キースラインは完食した。
「ふふ、齋藤くんって甘党だよね」
花憐が隣で笑っている。
二人の距離は、出会った頃よりずっと近づいていた。
「……なぁ、花憐」
キースラインは、沈む夕日を見つめながら口を開いた。
「俺は……いつか、遠くへ行くかもしれん」
ふと、元の世界のことを思ったのだ。
いつか戻る時が来る。その時、この「参謀」とも別れることになる。
「えっ……?」
花憐の動きが止まった。
「遠くって……転校とか?」
「もっと遠くだ。……だが」
キースラインは花憐を見た。
「貴様が望むなら……俺は、貴様を連れて行ってもいいと思っている」
それは、彼なりの最大級の賛辞だった。
異世界へ連れ帰りたいほど、お前は優秀な部下だ、という意味で。
しかし。
ラブコメ脳全開の花憐には、こう聞こえた。
『将来、どこへ行こうとも、君とずっと一緒にいたい(プロポーズ)』。
「っ~~~~!!!」
花憐の顔から湯気が出た。
彼女は真っ赤な顔で、蚊の鳴くような声で答えた。
「……い、行く。どこまでも、ついていくから……!」
「そうか。頼もしいな」
キースラインは満足げに頷いた。
片や「異世界への勧誘」。片や「愛の誓い」。
致命的なすれ違いを残したまま、デートは幸せな雰囲気で幕を閉じた。
神様が空の上で「あーあ、罪な男」と爆笑していることも知らずに。
【事後分析報告】
読んでくれてありがとうございます。慎也です。
また僕の体が物理法則を無視した動きをしていたようですが……楽しんでいただけたでしょうか?
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