第24話 実地訓練:対物理特化部隊
【担当:キース】
脆弱な頭脳で我が肉体を使いこなせるかな?
開戦だ。
荒野の街道を、慎也たちは進んでいた。
歩きながらも、慎也は聖女エリスから渡された分厚い医学書(異世界の解剖図鑑)を読み込んでいた。
「……なるほど。オークの骨格強度は人間の約3倍。ただし関節の可動域は狭い」
ブツブツと呟く慎也。
回復魔法が効かない以上、怪我をしないためには「敵の動き」と「人体の構造」を完全に理解し、物理的に回避・防御するしかない。
これは彼なりの、生存への必死なアプローチだった。
「真面目なのはいいがよぉ……」
ガルドが呆れたように言う。
「本ばかり読んでて、足元の石に躓くなよ? 擦り傷一つでも、お前にとっちゃ大怪我になりかねねぇんだからな」
「分かっています。……だからこそ、理論を頭に叩き込んでいるんです」
その時だった。
ズズズ……と地響きが鳴った。
魔法による攻撃ではない。純粋な質量を持った集団が、猛スピードで接近してくる振動だ。
「敵襲!」
ガルドが叫ぶと同時に、街道の左右から巨大な影が飛び出した。
身長3メートルを超える巨躯。岩のような筋肉。手には丸太のような棍棒。
重装オーガの群れだ。しかも五体。
「グオオオオ!」
オーガたちは雄叫びを上げるが、魔法を放つ気配はない。
ただひたすらに、その暴力的な筋肉で押し潰そうと突進してくる。
(……魔法使いがいない? 物理攻撃のみ?)
慎也は瞬時に違和感を覚えた。
通常、魔王軍の編成は魔法支援を伴うはずだ。
だが、今回は違う。
「ベルグ様の命令だ!」
オーガの隊長が唸る。
「『奴は奇妙な術で魔法を消す。ならば、純粋な質量で圧殺せよ』とな!」
対策されていた。
慎也の「魔法無効化」を見抜き、あえて魔法を捨てた「物理特化部隊」をぶつけてきたのだ。
これなら、慎也の「科学による否定」は発動しない。
棍棒で殴られれば骨は砕けるし、回復魔法は効かない。
慎也にとって、相性最悪の敵だ。
「キース! 下がってろ! こいつらは俺が……」
ガルドが前に出ようとするが、慎也はそれを手で制した。
「いえ、いい機会です」
慎也は本を閉じ、鞄にしまった。
眼鏡のない瞳が、冷静にオーガの群れをスキャンする。
「ガルドさん、言いましたよね。『実戦に勝る訓練なし』と」
慎也は聖剣を抜かず、素手で構えた。
「彼らは、僕の『回避運動』と『運動エネルギー制御』のテスト相手にちょうどいい」
「テストだと……? 死ぬぞお前!」
止める間もなく、先頭のオーガが棍棒を振り下ろした。
風切り音を伴う豪速の一撃。直撃すればミンチ確定。
(速度、秒速40メートル。角度、垂直。……見えている)
慎也は動かなかった。棍棒が頭蓋骨に触れる寸前まで。
そして、インパクトの瞬間に半歩だけ軸をずらした。
「最小回避」。
ドゴォォォォン!!
棍棒が地面を叩き割り、土砂が舞い上がる。
慎也の体は無傷。爆風で髪が揺れただけだ。
「なっ!?」
オーガが硬直した隙を見逃さない。
慎也はオーガの太い腕に手を添えた。
「慣性の法則。および、てこの原理」
慎也はオーガが棍棒を引き上げようとする力ベクトルに、自分の力を同調させ、さらに「ひねり」を加えた。
グリンッ!
「グギャァァァ!?」
自らの怪力と慎也の誘導により、オーガの肘関節があらぬ方向へねじ切れた。
解剖学的な弱点への、精密な破壊工作。
「次」
慎也は悲鳴を上げるオーガを盾にして、後続の突進を受け止めた。
ドスッ!
仲間同士が激突し、体勢を崩す。
「質量と速度が大きくても、重心がブレればただの肉塊です」
慎也は淡々と解説しながら、戦場を舞った。
剣を使わないのは、刃こぼれや手首への負担(怪我のリスク)を避けるためだ。
相手の力を利用し、関節を外し、同士討ちをさせる。
それはまるで、巨人を手玉に取る合気道の達人のようであり――同時に、感情のない機械のようでもあった。
数分後。
地面には、五体のオーガが転がり、呻いていた。
慎也は息一つ乱さず、服の埃を払った。
「……計算終了。被弾ゼロ。制圧完了」
「…………」
ガルドとエリスは、言葉を失っていた。
強い。確かに強い。
だが、その強さは勇者の「熱い戦い」ではない。
徹底的にリスクを排除し、数学的に敵を無力化する、冷徹*「処理作業」だった。
「……合格だ」
ガルドがぽつりと呟いた。
「合格だがよ……お前、本当にどんどん人間離れしていくな」
「そうですか? 人体の構造を勉強した成果が出ただけですよ」
慎也はニコリと笑ったが、その笑顔はどこか張り付いたようにも見えた。
回復不能という恐怖が、彼を「完璧主義」へと駆り立てている。
それは成長であると同時に、人間らしい「隙」や「遊び」が消えていく過程でもあった。
【総統通達】
読者諸君。我だ。
あの優男(慎也)め、相変わらず理屈っぽい戦い方をしていたな。我ならば一撃で粉砕していただろうに。
まあよい。今回の話に少しでも心が動いたならば、【ブックマーク】および、下部の【★★★★★】にて、我への忠誠を示せ。
良い評価は、次なる戦い(執筆)への糧となる。期待しているぞ。




