第23話 祭りの終わり、魔王の威圧
【担当:慎也】
僕の日常がこれ以上壊れませんように……。
本編スタートです。
文化祭の盛り上がりは最高潮に達していた。
2年B組の『お化け屋敷』は、もはや単なる出し物の域を超えていた。
勝手に動く甲冑、ひとりでに閉まる扉、廊下を這う不気味な冷気。
客たちはそのリアリティに悲鳴を上げながらも、「すげぇ!」「プロの犯行だ!」と熱狂していた。
だが、その中心にいるキースラインだけは、冷や汗を流していた。
(まずい……。場の空気が『濃』すぎる)
キースラインは、花憐を背に庇いながら周囲を睨みつけた。
客たちの興奮、恐怖、熱狂。
それらの感情エネルギーが、俺の魂から漏れ出る魔力と結合し、ポルターガイスト現象を加速させている。
このままでは、ただの脅かし役(段ボール人形)が、本物の魔物に進化しかねない。
「きゃっ!?」
突然、花憐が悲鳴を上げた。
天井から、装飾用の巨大なシャンデリア(プラスチック製だが、魔力で硬化して鉄のように重くなっている)が、留め具を引きちぎって落下してきたのだ。
直撃すれば、花憐は大怪我を負う。
「――チッ!」
キースラインは反射的に動いた。
花憐を抱き寄せると同時に、落下してくるシャンデリアに向かって右手を突き出す。
(壊すか? いや、これ以上の破壊はパニックを招く)
(ならば――この場の魔力を、俺の『意志』でねじ伏せる!)
キースラインの感情が昂る。
「俺の女(参謀)に手を出すな」という、純粋かつ強烈な支配欲。
それが、暴走する魔力を一点に収束させた。
「……鎮まれ、下郎が」
ドォォォォン……!
衝撃音はない。
だが、その場にいた全員の心臓が、一瞬だけ止まるような威圧感が走った。
キースラインから放たれた覇気が、室内の空気を凍りつかせたのだ。
落下していたシャンデリアは、まるで透明な巨人の手で掴まれたかのように、空中でピタリと静止した。
ガタガタと震えていた甲冑も、騒がしかったラップ音も、全てが沈黙する。
主(魔王)の不機嫌を悟り、怪異たちが直立不動になったかのように。
「え……? 止まっ……た?」
花憐が、キースラインの腕の中で目を丸くした。
キースラインは空中のシャンデリアを無造作に掴み取ると、片手で軽々と床に置いた。
「……演出終了だ」
キースラインは、集まっていた野次馬(客たち)に向かって告げた。
「本日の営業はこれにて終了とする。……散れ」
低い、地を這うような声。
だが、そこには絶対的な王の命令権が含まれていた。
客たちは「ひっ」と息を呑み、蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。恐怖による逃走ではない。本能的に「逆らってはいけない」と悟ったのだ。
静寂が戻った教室で、キースラインは大きく息を吐いた。
(……危なかった)
――『やるじゃない』
神の声が響く。
(……やはり、原因は『熱狂』か)
――『正解。人間の強い感情は、あんたの魔力を引き出す呼び水になる。おまけに、あんた自身が興奮すると、それがトリガーになって現象化するわけ』
(面倒なことだ)
キースラインは、震えが止まらない花憐の頭をポンと撫でた。
「怪我はないか、花憐」
「う、うん……。齋藤くん、今の……」
「ただのトリックだ。少し仕掛けが暴走しただけだ」
彼は嘘をついたが、花憐はそれ以上追求しなかった。
ただ、彼に抱きしめられた感触と、あの瞬間に見せた「人知を超えた頼もしさ」に、顔を赤くして俯くだけだった。
(……この世界で平穏に暮らすには、俺自身が感情を制御し、周囲を熱狂させすぎないようにせねばならんのか)
キースラインは悟った。
皮肉なことに、この世界でも彼は「力を抑えて生きる」ことを強要されることになったのだ。
翌日。
2年B組のお化け屋敷は「ガチすぎてヤバい」「最後、齋藤くんが霊を成仏させた」という謎の伝説を残し、最優秀賞を受賞することになる。
【事後分析報告】
読んでくれてありがとうございます。慎也です。
また僕の体が物理法則を無視した動きをしていたようですが……楽しんでいただけたでしょうか?
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