第22話 科学の子、魔法を殺す
【担当:キース】
脆弱な頭脳で我が肉体を使いこなせるかな?
開戦だ。
国境を越え、一行は深い森の中にある古代遺跡を探索していた。
そこは「魔術師団の隠れ家」として知られる危険地帯だ。
「侵入者だ! 焼き尽くせ!」
遺跡の広間に踏み込んだ瞬間、待ち構えていた黒ローブの集団――闇魔術師たちが杖を掲げた。
十数人の魔術師による一斉攻撃。
空中に無数の火球と氷の矢が出現する。
「マズい、数が多い! エリス様、障壁を!」
ガルドが叫び、エリスが防御魔法の詠唱を始める。
だが、それより早く敵の魔法が放たれた。
標的は、先頭に立っていた慎也だ。
「死ねぇぇぇ!!」
轟音と共に、炎と氷の奔流が慎也に殺到する。
逃げ場はない。直撃すれば灰も残らない飽和攻撃。
(……質量保存の法則無視。エネルギー源不明。熱力学第二法則に違反している)
死の直前、慎也の脳裏をよぎったのは、恐怖ではなく冷静なツッコミだった。
日本の教室で学んだ物理法則。
彼の魂に深く刻まれた「世界の常識」が、無意識に目の前の現象を否定した。
――そんなこと、ありえない。
シュンッ……。
異変は一瞬だった。
慎也の体に触れる寸前、火球は煙のように掻き消え、氷の矢はただの水滴となって弾け飛んだ。
爆発も、熱波も起きない。
ただ、「無」になったのだ。
「……は?」
魔術師たちが口をあけて固まった。
「な、なんだ!? なぜ消えた!? 我らの魔法が……失敗したのか!?」
「馬鹿な、詠唱は完璧だったはずだ!」
慎也自身も、自分の体を見下ろして呆然としていた。
「……え? 消えた?」
だが、驚いている暇はない。
ガルドが吠えた。
「何やってやがるキース! 今が好機だ、突っ込めぇ!」
「は、はい!」
慎也は地面を蹴った。
慌てふためく魔術師たちは、もはや敵ではなかった。
慎也の拳(物理)が鳩尾に突き刺さり、ガルドの斧が杖ごと敵を吹き飛ばす。
戦闘はあっけなく終了した。
***
「……いったい、何が起きたんですか?」
戦闘終了後、エリスが青ざめた顔で慎也に詰め寄った。
「あんな規模の魔法が、貴方に触れた瞬間に霧散しました。貴方、アンチマジックの結界でも張っていたのですか?」
「いえ、僕は何も……。ただ『燃えるわけないな』と思っただけで……」
慎也も首を傾げる。
その時、慎也の頬に、先ほどの戦闘でできた小さな切り傷があるのに気づいた。瓦礫の破片が掠めたようだ。
血が滲んでいる。
「あら、お怪我を。じっとしていてください」
エリスが優しく手をかざした。
「《ヒール》」
淡い光が慎也の頬を包み込む。
聖女による最高位の治癒魔法。こんな擦り傷など、瞬きする間に塞がるはずだ。
――しかし。
パリン。
ガラスが割れるような小さな音と共に、光が弾け飛んだ。
傷は、そのままだった。
「……え?」
エリスが目を見開く。
「失敗……? いえ、そんなはずは。もう一度。《ヒール》!」
パリン。
やはり弾かれる。まるで、慎也の体が「魔法など存在しない」と拒絶しているかのように。
(……そうか)
慎也は、背筋が凍るような感覚を覚えた。
さっきの敵の攻撃が消えた理由。そして今、回復魔法が効かない理由。
根源は同じだ。
(僕が、この世界のルール(魔法)を受け入れていないからだ)
科学の世界で育った僕の魂が、周囲の現実を「書き換えて」しまっている。
その結果、敵の攻撃魔法も無効化できるが――
「……キースライン、貴方……」
エリスの声が震えていた。
「私の魔法が、届きません。……これでは、もし貴方が深い傷を負っても、私は治せない……!」
その事実に、ガルドも息を飲んだ。
この世界での戦いにおいて、回復魔法の恩恵を受けられないということは、死に直結する。
骨折すれば数ヶ月は動けない。内臓を傷つけば、そのまま死ぬ。
ゲームなら「回復不可」のハードモードだ。
「……どうやら、僕は人一倍、怪我に気をつけなきゃいけないみたいですね」
慎也は努めて明るく振る舞い、鞄から布(包帯代わり)を取り出して頬に貼った。
原始的な応急処置。これしか、彼を治す手段はない。
「……無茶だ」
ガルドが呻くように言った。
「最強の盾を持ってる代わりに、回復薬が飲めねぇ体ってことかよ。……お前、本当にどこまで茨の道を歩けば気が済むんだ」
慎也は苦笑した。
だが、その瞳には新たな覚悟が宿っていた。
守られることはできない。傷つくことも許されない。
ならば、答えは一つ。
「当たらなければ、どうということはない」 の領域まで、技を極めるしかない。
「行きましょう。……僕の『物理』で、全部ねじ伏せてみせますから」
魔法を殺す少年。
その異質な力は、魔王軍にとって最大の脅威となり、同時に慎也自身をも孤独な戦いへと追い込んでいくのだった。
【総統通達】
読者諸君。我だ。
あの優男(慎也)め、相変わらず理屈っぽい戦い方をしていたな。我ならば一撃で粉砕していただろうに。
まあよい。今回の話に少しでも心が動いたならば、【ブックマーク】および、下部の【★★★★★】にて、我への忠誠を示せ。
良い評価は、次なる戦い(執筆)への糧となる。期待しているぞ。




