第21話 文化祭に顕現する魔城
【担当:慎也】
僕の日常がこれ以上壊れませんように……。
本編スタートです。
文化祭当日。2年B組の『お化け屋敷』は、異常な熱気に包まれていた。
廊下には長蛇の列ができ、教室からは絶え間なく悲鳴が響いている。
「おい聞いたか? 2Bの屋敷、マジでヤバいらしいぞ」
「なんでも、幽霊が『本物』みたいに追いかけてくるとか……」
「最新鋭のAR技術でも使ってるのか?」
噂が噂を呼び、待ち時間は3時間を超えていた。
その喧騒の中、現場指揮官であるキースラインは、眉間に皺を寄せていた。
(……おかしい)
彼は腕組みをして、教室の入り口を睨んでいた。
(俺が設計した順路や脅かし役の配置は完璧だ。だが……この『空気』の重さは何だ?)
肌にまとわりつくような湿り気。背筋が粟立つ感覚。
それは、魔王城の最深部や、古代遺跡でしか感じない「濃密な魔力の澱み」に似ていた。
だが、この世界に魔力はないはずだ。
「齋藤くん! お待たせ!」
そこへ、休憩時間に入った天道花憐がやってきた。制服の上にクラスTシャツを着て、少し浮かれた様子だ。
「約束通り、一緒に回ってくれるのよね? ……その、偵察任務として」
「ああ。ちょうどいい、参謀。一緒に中を確認するぞ」
キースラインは花憐を引き連れ、客の波を止めて内部へ入った。
内部は暗幕で覆われ、不気味な赤色の照明が灯っている。
そして、異変はすぐに起きた。
ガタガタガタ……!
通路の脇に置いてあった、段ボール製の「西洋甲冑」が、小刻みに震え始めたのだ。
「きゃっ!? す、すごーい! これ電動なの?」
花憐が目を輝かせる。
「……いや、動力など入れていない」
キースラインは即座に否定し、そして悟った。
(まさか……俺か?)
この世界に来て数ヶ月。彼の魂は、本来なら世界に存在しないはずの強大な魔力を帯びている。
普段は安定しているが、この文化祭という「数千人の興奮(感情エネルギー)」が触媒となり、俺の魔力が外部へ漏れ出しているのか?
それが、作り物(甲冑)に仮初めの命を与えた――つまり、ポルターガイスト現象だ。
グギギギ……!
甲冑が首を回し、虚ろな兜の奥からキースラインを睨んだ。
手には、プラスチック製の剣が握られている。
「ひっ!? 齋藤くん、こいつなんか動きがリアルすぎない!?」
花憐がキースラインの腕にしがみつく。
「離れていろ、花憐」
キースラインは彼女を背にかばい、前に出た。
(やれやれ。自分の魔力の後始末を自分でつけることになるとはな)
甲冑が剣を振り上げた。プラスチックとはいえ、魔力強化された一撃だ。当たれば骨が折れる。
「――消えろ、雑魚が」
ドォォン!!
キースラインの拳が、甲冑の胸板を貫いた。
段ボールとガムテープの塊が、内側から弾け飛ぶ。
物理的な破壊と同時に、拳に込めた「覇気(微量な魔力操作)」によって、憑依していたエネルギーを霧散させたのだ。
バラバラになった甲冑が床に散らばる。
「す、すごい……!」
花憐が拍手した。
「今のパンチ、演出!? まるでアクション映画みたい!」
「……まあな。客を飽きさせないための、即興のアトラクションだ」
キースラインは冷や汗を隠して答えた。
(危なかった……。完全に実体化していたぞ)
しかし、異変はこれだけで終わらなかった。
壁に描かれた肖像画が笑い出し、天井から吊るされた生首(風船)が一斉にこちらを向く。
お化け屋敷全体が、キースラインの魔力を吸って「魔城」へと変貌しようとしていた。
「ふふ、次はあっちね! 行きましょう、齋藤隊長!」
何も知らない花憐は、恐怖よりも興奮が勝っているようで、キースラインの手を引いて奥へと進んでいく。
「おい待て、そっちは危険だ……!」
その時、脳内に神の声が響いた。
――『あーあ、漏れてる漏れてる。あんたの魂、規格外だからなぁ』
(神か! 笑ってないで止めろ!)
――『無理よ。それはあんた自身の一部だもの。……向こうの世界でも、慎也くんが「物理法則」で魔法をねじ曲げてる頃かしらね。お互い様ってこと』
キースラインは舌打ちをした。
どうやらこの世界での生活は、ただの休暇では済まなくなりそうだ。
彼は、はしゃぐ花憐の手を強く握り返した。
「……離れるなよ。この迷宮、俺が守り抜いてやる」
「えっ……う、うん……///」
顔を真っ赤にする花憐と、殺気立った目で周囲を警戒するキースライン。
文化祭の狂騒は、奇妙な「非日常」を孕みながら更けていくのだった。
【事後分析報告】
読んでくれてありがとうございます。慎也です。
また僕の体が物理法則を無視した動きをしていたようですが……楽しんでいただけたでしょうか?
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