第18話 偏差値70の戦闘理論
【担当:キース】
脆弱な頭脳で我が肉体を使いこなせるかな?
開戦だ。
早朝の森に、激しい金属音が響き渡っていた。
「おらぁ! どうした勇者様! 動きが硬いぞ!」
ガルドの巨大な戦斧が、風を切り裂いて迫る。
慎也は聖剣を盾にして、その一撃を受け止めた。
ガギィィン!!
凄まじい衝撃が腕を走る。だが、以前のように吹き飛ばされはしない。
(……来る。右足への重心移動。肩の回転角30度)
慎也の眼鏡のない瞳が、ガルドの動きを冷静にスキャンしていた。
(斧の軌道は放物線を描く。初速度と質量から予測される落下地点は――ここだ!)
慎也は半歩だけ右に退いた。
ヒュン!
ガルドの斧が、慎也の鼻先数ミリを掠めて地面に突き刺さる。
「なっ!?」
ガルドが目を見開いた。
完璧な見切り。しかも、無駄な回避行動が一切ない。
以前のキースラインなら、咆哮と共に力任せに弾き返していただろう。だが今の彼は、まるで精密機械のように攻撃を「処理」している。
「……反撃開始」
慎也は小さく呟いた。
(てこの原理を利用。支点は左足、力点は腰。ベクトルを剣先に集中させて……運動エネルギー最大化!)
「F = ma(力とは質量×加速度である)……!」
慎也は謎の呪文(物理公式)を口ずさみながら、聖剣を振るった。
それは剣術の型とは程遠い、最短距離の突き。
しかし、勇者のステータスという「莫大な質量」に、理論に基づいた「最適な加速」が乗った一撃は、凶悪な威力を生んだ。
ズドン!!
剣の腹で叩かれたガルドが、巨木のように吹き飛び、背後の木に激突した。
「ぐはっ……!?」
ガルドは地面に転がり、呻き声を上げた。
「い、ってぇ……。なんだ今の? 剣術じゃねぇぞ……タイミングだけで俺の力を利用しやがった……」
見守っていた聖女エリスが、目を輝かせて駆け寄ってきた。
「すごいですキースライン! あのガルドを一撃で! 今のは新しい剣技ですか?」
「い、いえ。ただの……物理演算です」
慎也は肩で息をしながら答えた。
「ブツリエンザン……? やはり、古代の秘術ですか……」
エリスは感心してメモを取っている。
慎也は自分の手を見つめた。
キースラインのような野性的な勘は、自分にはない。
人を傷つけることへの忌避感も、まだ完全には消えていない。
だからこそ、慎也は戦いを「数式の処理」に置き換えることにしたのだ。
敵を「倒すべき物体」として捉え、最適な解(攻撃)を算出する。そうすることで、恐怖心を理性で抑え込むスタイルだ。
「……気持ち悪い戦い方しやがる」
ガルドがふらつきながら立ち上がった。その顔には、呆れと同時に、隠しきれない戦慄が浮かんでいる。
「ブツブツ変な数字を呟きながら、機械みたいに正確に急所を狙ってきやがる。……前の暴れん坊だった頃より、底が知れなくて不気味だぜ」
「ありがとうございます。……最高の褒め言葉です」
慎也は真面目な顔で一礼した。
ガルドの目には「不気味」と映ったかもしれないが、慎也にとっては、これが生き残るための唯一の武器なのだ。
「よし、休憩終わりだ! 次は二対一(俺とエリス)でやるぞ!」
「えっ、エリスさんもですか!?」
「当たり前だ! 魔法攻撃への回避計算とやらもやってみせろ!」
再び始まる地獄の特訓。
しかし、今の慎也の目に迷いはなかった。
日本の受験戦争を勝ち抜いた頭脳は、異世界の戦闘においても強力な武器となる。
「インテリ勇者」の爆誕である。
【総統通達】
読者諸君。我だ。
あの優男(慎也)め、相変わらず理屈っぽい戦い方をしていたな。我ならば一撃で粉砕していただろうに。
まあよい。今回の話に少しでも心が動いたならば、【ブックマーク】および、下部の【★★★★★】にて、我への忠誠を示せ。
良い評価は、次なる戦い(執筆)への糧となる。期待しているぞ。




