第17話 文化祭という名の城塞構築
【担当:慎也】
僕の日常がこれ以上壊れませんように……。
本編スタートです。
季節は秋。学園は「文化祭」という祭典の準備期間に入っていた。
2年B組の教室は、段ボールとペンキの匂いに包まれていた。
「おい、そこ! 防壁(段ボール)の強度が足りんぞ! ガムテープを二重に貼れ!」
「は、はいっ! 齋藤隊長!」
教室の中心で腕を組み、的確な指示を飛ばしているのは、齋藤慎也(中身はキースライン)だった。
クラスの出し物は『お化け屋敷』。
しかし、キースラインにとって、これはただの遊戯ではない。
「敵(客)を恐怖のどん底に叩き落とすための、難攻不落の迷宮作成」である。
「いいか、人間の恐怖心は『死角』から生まれる。通路の角度を修正しろ。侵入者が角を曲がった瞬間、視界の全てを闇に覆うのだ」
「す、すげぇ……齋藤、マジでプロかよ……」
男子生徒たちは、キースラインの異常な熱量に圧倒されつつも、そのカリスマ性に惹かれていた。
かつての地味な慎也からは想像もできない統率力。
男子たちはいつしか彼を「隊長」と呼び、命令に従うことに快感を覚え始めていた。
「齋藤くん、休憩の差し入れよ」
そこへ、天道花憐がスポーツドリンクのボトルを持って現れた。
彼女の視線は、汗を流して指揮を執るキースラインに釘付けだ。
(みんなをまとめて、リーダーシップを発揮してる……。素敵……)
「感謝する、参謀」
キースラインはボトルを受け取り、一気に飲み干した。
「ふぅ……。この祭典、予想以上に骨が折れるな。だが、我が軍の士気は高い」
「ふふ、そうね。齋藤くんのおかげで、みんなやる気になってるみたい」
花憐は頬を染めて微笑んだ。
「……ねえ。文化祭当日、シフトの休憩時間……空いてる?」
それは、精一杯のデートの誘いだった。
だが、キースラインの脳内変換(翻訳)はズレていた。
(休憩時間? つまり、作戦会議の時間か)
キースラインは頷いた。
「無論だ。戦況の分析と、次の作戦(出し物巡り)について話し合おう」
「ほんと!? やった!」
花憐が小さくガッツポーズをする。
その様子を、天井付近から見下ろす視線があった。
――『はいはい、青春ですねぇ』
神様の呆れた声が脳内に響く。
(黙れ神。これは軍事演習だ)
キースラインは心の中で毒づいた。
(この『お化け屋敷』というダンジョンを完成させれば、俺の空間把握能力と指揮能力はさらに向上する。異世界に戻った時のための訓練だ)
――『お前、向こうで慎也くんが血反吐を吐きながらリアルな殺し合いを学んでるのに、こっちは随分と平和な修行ね』
(……あいつには同情する。だが、俺はこの世界のルール(平和)に従って、最強を目指すだけだ)
キースラインは、積み上げられた段ボールの城壁を見上げた。
剣を振るえなくても、敵を殺せなくても、俺は「王」になれる。
その自信が、彼の顔つきを以前よりも少しだけ穏やかに、しかし力強くさせていた。
「よし、総員配置につけ! 本番まであと三日、死ぬ気で作り上げるぞ!」
「「「イエッサー!!」」」
2年B組の団結力は、学園史上最高レベルに達しようとしていた。
【事後分析報告】
読んでくれてありがとうございます。慎也です。
また僕の体が物理法則を無視した動きをしていたようですが……楽しんでいただけたでしょうか?
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