第16話 暴君の抜け殻
【担当:キース】
脆弱な頭脳で我が肉体を使いこなせるかな?
開戦だ。
戦闘は、一方的な蹂躙で幕を閉じた。
呆然とする慎也の横で、激昂したガルドが斧を振るい、盗賊たちを次々と肉塊に変えていったからだ。
生き残った盗賊はいなかった。ガルドが逃さなかったのだ。
静寂が戻った街道には、鉄と血の匂いが立ち込めている。
慎也は、動かなくなった老人の遺体の前で、膝をついたまま震えていた。
「……ごめんなさい……僕が……僕が油断したから……」
その背後に、荒い息を吐くガルドが立った。
握りしめた拳が震えている。
相手は、あの勇者キースラインだ。不敬な態度を取れば、即座に首が飛ぶかもしれない。
だが、ガルドは老人の遺体を見て、奥歯が砕けるほど噛み締めた。
「……なぁ、キース」
ガルドの声は震えていた。恐怖と、それを上回る怒りで。
「俺を殺したきゃ殺せ。だが……一発殴らせろ!」
ドゴッ!!
鈍い音が響き、慎也の巨体が吹き飛んだ。
ガルドは殴った体勢のまま、ギュッと目を閉じた。
(殺される……!)
反撃が来る。首を刎ねられるか、魔法で焼かれるか。
しかし、訪れたのは沈黙だけだった。
「……あ……」
恐る恐る目を開けると、吹き飛ばされた慎也が、腫れ上がった頬を押さえて呆然とこちらを見上げていた。
その目に、殺気はない。あるのは、ただ深い悲しみと後悔だけだった。
「な……なんでだよ……」
ガルドは後ずさった。
「なんで怒らねぇ? なんで殺しに来ねぇんだよ! お前、本当にあのキースか!?」
異常だ。
かつての暴君なら、殴られる前に相手を殺している。
それなのに、今のこいつは、まるで……子供のように怯え、傷ついている。
「……ガルドの言う通りです」
慎也が口を開いた。
「僕が……半端な情けをかけたせいで、あの方が死にました。殴られて当然です」
「はぁ!?」
ガルドと、後ろで見ていたエリスが息を飲んだ。
謝った。あの勇者が、自分の非を認めて。
エリスは眉をひそめ、冷徹な声で問いかけた。
「……キースライン。回心し、人が変わったとは思っていましたが……まさか、戦い方まで忘れたのですか? 敵を断つ覚悟もない。殺気もない。今の貴方は、ただの『抜け殻』です」
抜け殻。
その言葉が、慎也の胸に突き刺さる。
そうだ。中身はただの高校生。勇者の皮を被っただけの、無力な子供だ。
だが、もう逃げられない。
慎也は泥にまみれた聖剣を拾い、立ち上がった。
もう、保身のために誰かを犠牲にはしない。
「……教えてください」
慎也はガルドを真っ直ぐに見た。
「僕は……戦い方を忘れてしまいました。覚悟の決め方も、敵の殺し方も、全部」
「……あ?」
ガルドは毒気を抜かれたような顔をした。
「笑ってくれても構いません。でも……もう二度と、こんな思いはしたくないんです」
慎也は深く頭を下げた。
「お願いします。僕を、一から鍛え直してください」
長い沈黙が流れた。
ガルドは頭をガシガシと掻きむしった。
「……わけがわかんねぇ。頭でも打って記憶が飛んだか? それとも何かの呪いか?」
だが、目の前の男の目は本気だった。かつての傲慢な目ではなく、必死に何かにすがろうとする目。
「……チッ。いいぜ」
ガルドは斧を担ぎ直した。
「どうせこのままじゃ、次は俺たちが死ぬ。……俺が知ってる『戦場の常識』、骨の髄まで叩き込んでやる。文句言うなよ、元・最強の勇者様」
慎也は涙を拭い、強く頷いた。
ガルドたちの「不信感」は消えない。だが、少なくとも「共有すべき危機感」だけは生まれた。
ここから、元日本人の過酷な再教育が始まる。
【総統通達】
読者諸君。我だ。
あの優男(慎也)め、相変わらず理屈っぽい戦い方をしていたな。我ならば一撃で粉砕していただろうに。
まあよい。今回の話に少しでも心が動いたならば、【ブックマーク】および、下部の【★★★★★】にて、我への忠誠を示せ。
良い評価は、次なる戦い(執筆)への糧となる。期待しているぞ。




