第13話 聖女の観察日記 ~清貧なる勇者~
【担当:キース】
脆弱な頭脳で我が肉体を使いこなせるかな?
開戦だ。
翌朝。
聖女エリスは、キースライン(慎也)が宿泊している部屋の前で張り込んでいた。
(あの傲慢な男が、一夜にして改心するなどありえません。きっと何か裏があるはず……)
彼女は聞き耳を立てた。
勇者といえば、朝は昼過ぎまで寝ていて、起こしに来た従者を怒鳴りつけるのが常だった。
だが、今の時刻は早朝5時。まだ太陽も昇りきっていない。
部屋の中から、衣擦れの音が聞こえる。
(……起きている? こんな朝早くから?)
不審に思ったエリスは、そっとドアの隙間から中を覗いた。
そして、我が目を疑った。
部屋の中では、巨漢の勇者が、ベッドのシーツをピンと伸ばして整えていた。
それだけではない。脱いだ鎧は綺麗に磨かれて壁に立てかけられ、乱雑に置かれていた備品も整列している。
最後に彼は、窓を開けて朝日を浴びながら、奇妙な動きを始めた。
腕を大きく振り、屈伸し、体を捻る。一定のリズムで繰り返されるその儀式。
(な、何……? 何の儀式なの!?)
エリスは戦慄した。
あれは、未知の武術の型か? それとも邪神への祈りか?
――いいえ、違う。
彼の表情を見て、エリスは息を飲んだ。
朝日を見つめるその瞳は、あまりにも純粋で、清々しい。まるで、世界の平穏を願う聖職者のようだ。
(まさか……『ラジオ体操』……?)
もちろん、彼女はその名称を知らない。
だが、その規則正しい動きから、何か神聖な規律を感じ取ってしまったのだ。
ガチャリ。
一通りの儀式(第二まで)を終えた慎也が、ドアを開けた。
「うわっ!? せ、聖女様!?」
目の前にいたエリスを見て、慎也は飛び上がった。
「ど、どうされたんですか? こんな朝早くから……」
「それはこちらのセリフです。貴方こそ、何をしていたのですか?」
「え? ああ、整理整頓と……ラジオ体操ですが」
「ラジ……オ?」
「はい。体をほぐして、今日一日を健康に過ごすための……まあ、習慣のようなものです」
習慣。
その言葉に、エリスは衝撃を受けた。
かつて酒と暴力に溺れていた男が、早起きして身の回りを清め、健康を祈る儀式を「習慣」にしているというのか。
「……部屋も、貴方が掃除したのですか?」
「はい。立つ鳥跡を濁さず、と言いますし。お店の人に迷惑をかけたくないので」
慎也は照れくさそうに頭をかいた。
「それに、僕みたいなのが泊まった部屋なんて、ちゃんと掃除しないと気持ち悪いでしょうから……」
(なんてこと……)
エリスの胸に、ある感情が去来した。
彼は、自分の「汚れ(罪業)」を自覚しているのだ。
だからこそ、こうして部屋を清め、自らを律することで、過去の罪を償おうとしているのではないか?
あの土下座も、恐怖からではなく、真の「悔い改め」から来るものだったとしたら?
「……キースライン」
「は、はい! すみません、勝手に体操して!」
ビクつく慎也を見て、エリスの瞳から険しさが消えた。
「いえ……。貴方の心がけ、しかと見届けました」
「え?」
「ですが、油断は禁物です。その殊勝な態度が本物かどうか、これからも厳しくチェックさせてもらいますからね」
そう言いながらも、エリスの声色は昨日よりも少しだけ柔らかかった。
彼女の中で、キースラインの評価が「危険な暴君」から「回心しつつある求道者(ただし挙動不審)」へと書き換わりつつあった。
一方、慎也は首を傾げていた。
(……なんか、怒られなかった? ラジオ体操って、異世界でも通用するのかな?)
こうして、すれ違いの溝は、なぜか良い方向へと深まっていくのだった。
【総統通達】
読者諸君。我だ。
あの優男(慎也)め、相変わらず理屈っぽい戦い方をしていたな。我ならば一撃で粉砕していただろうに。
まあよい。今回の話に少しでも心が動いたならば、【ブックマーク】および、下部の【★★★★★】にて、我への忠誠を示せ。
良い評価は、次なる戦い(執筆)への糧となる。期待しているぞ。




