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第121話 公開コードレビュー(立会演説会)と、ヒューマンエラー処理の拡張実装(バージョンアップ)

【担当:慎也】

僕の日常がこれ以上壊れませんように……。

本編スタートです。



 11月中旬。


 学園の巨大な講堂メインサーバー・ルームは、全校生徒の熱気と静かな緊張感に包まれていた。次代の学園の舵取りを決める、次期生徒会役員選挙の立会演説会――慎也キースラインに言わせれば「次期OSの公開コードレビュー」が始まろうとしていた。


 現生徒会長である慎也と、副会長の花憐は、ステージ袖から演壇を見つめていた。


 マイクの前に立ったのは、二年生の篠原だ。彼女は単独での立候補(事実上の新システム移行テスト)であり、その視線はステージ袖の慎也を真っ直ぐに射抜いていた。


『皆さん、次期生徒会長候補の篠原です。私は今日、現生徒会――齋藤会長が構築したこの学園のシステムに対して、一つだけ明確な「アップデート」を提案するためにここに立ちました』


 凛とした声が講堂に響く。


『齋藤会長の徹底した無駄の排除は、学園の進学実績や行事の成功という素晴らしい結果を出しました。しかし、極限まで最適化されたそのシステムは、少しの失敗も許されないような「息苦しさ」を私たちに与えているのも事実です。私は、失敗や悩みを許容し、カバーし合うための「相談窓口とメンタルサポート機能」の拡充を提案します!』


 演説が終わると、講堂は大きな拍手に包まれた。現体制の「冷たさ」を指摘し、人間らしさ(情緒)を取り戻そうという彼女の訴えは、多くの生徒の共感を呼んだのだ。


「……」


 慎也は無言のまま立ち上がり、ゆっくりとステージの中央へ歩み出た。


 現行システムの管理者ルートユーザーによる、直接の審査バリデーションだ。講堂の拍手がピタリと止み、篠原が緊張の面持ちで慎也を見上げる。


「篠原。貴様は私のシステムを『息苦しい』と言ったな」

「……はい。数字とタスクの処理ばかりで、生徒の『心』への配慮が足りていないと思います」

「馬鹿め。表層(UI)しか見ていない素人の浅薄な分析だ」


 慎也はマイクを通さず、しかし講堂の空気を支配するような冷徹な声で言い放った。


「私が着任する前のこの学園の惨状を忘れたか? 『情』や『やりがい』という曖昧な変数に依存した結果、無駄な会議や部活動の居残りが横行し、真面目な生徒ノードばかりに負荷が集中してリソース(睡眠時間や学習時間)を奪われていた」


 篠原がハッとして息を呑む。


「私が徹底して業務を自動化し、無駄を削ぎ落としたのは、生徒を機械の歯車にするためではない。同調圧力や感情論という『悪質なマルウェア』から、生徒たち個人の時間と健康ハードウェアを保護するためだ。……私の冷徹な仕様ルールこそが、貴様らの『人間らしさ』を守るための最大のファイアウォールだったと理解できないのか?」


 圧倒的な論理。単なる「冷徹な効率主義」ではなく、人間の脆弱性を熟知しているからこその「厳格な最適化」だったのだ。講堂の生徒たちも、慎也の真意に気づき静まり返る。


「……そ、それは……」


 篠原は言葉に詰まった。現行システムを完全に誤読していたことに気づいたのだ。


「しかし」


 慎也は伊達眼鏡を中指で押し上げ、トーンを一段下げた。


「人間というシステムは、どれほど環境を最適化しても、内部から自発的なエラー(不安や悩み)を発生させる。貴様の言う『メンタルサポート機能(例外処理ハンドラ)』の実装自体は、システムの安定稼働において極めて有効なアプローチだ。……問題は、そのリソース(実行環境)をどこから持ってくるかだ」


 慎也は篠原に鋭い視線を突き刺した。


「前任のシステム(私のやり方)を否定して、また元の『情熱という名のブラック労働』に回帰させるつもりなら、貴様のアップデート申請はここでデリート(却下)する」


 数秒の沈黙。

 しかし、篠原は怯むことなく、しっかりと前を向いて答えた。


「回帰などしません! 齋藤先輩が構築してくれた『部活動費申請の自動化スクリプト』と『行事用備品の電子管理システム』をさらに横展開し、生徒会役員の定型事務作業をあと二割削減します! その浮いた工数(時間)を、全額メンタルサポートの運用に割り当てます!」


 感情論ではなく、明確なリソース再配分のロジック。


 慎也の残した遺産レガシーコードを破壊するのではなく、その上に新たな機能を追加する「正統な拡張スケールアウト」の提示だった。


「……フッ」


 慎也の口元に、確かな笑みが浮かんだ。


「要件定義に矛盾はない。ヒューマンエラーへの対応をシステム的に解決しようとするそのアプローチ、見事だ。……よって、貴様の次期OS(生徒会)へのアップデート申請を、正式に承認アプルーブする」


 慎也が明確な「合格」を出した瞬間、講堂は先ほど以上の、地鳴りのような大歓声と拍手に包まれた。篠原の目から、安堵の涙がポロポロとこぼれ落ちる。


 ――数日後、生徒会室。

 圧倒的多数の信任票を獲得し、正式に次期生徒会長に就任した篠原に対し、慎也は生徒会室の物理鍵(ルート権限のトークン)と、分厚いファイル(引き継ぎドキュメント)を手渡した。


「引き継ぎ(ナレッジトランスファー)は以上だ。明日から、私はこの部屋へのアクセス権を失う。あとは貴様が、この学園の新たなシステムを運用ドライブしろ」

「はい! 齋藤先輩、花憐先輩、今まで本当にお疲れ様でした!」


 荷物をまとめ、生徒会室を後にした慎也と花憐。

 秋の夕暮れが、廊下をオレンジ色に染めていた。


「……齋藤くん、やっぱりすごいよ」


 花憐が隣を歩きながら、尊敬の眼差しを向ける。


「みんな、齋藤くんが冷たいだけじゃないって、最後にはちゃんと分かってくれたね」

「他者の評価(外部ログ)などどうでもいい。私の目的は、あくまで『自身の受験勉強に最適な学習環境インフラ』を学園に構築することだったからな。……環境構築は終わり、有能な管理者に引き継ぎも完了した。これ以上、私が保守運用にリソースを割く理由はない」


 慎也は足を止め、窓の外の夕陽を見つめた。


「11月も中旬だ。……ここからは、我々にとっての最終決戦(本番リリース)。T大合格というメインタスクだけに、全リソース(CPU使用率100%)を集中させるぞ、花憐」

「……うんっ!」


 次代への円滑な権限委譲ハンドオーバーを終え、すべての足枷サブタスクを下ろした二人。


 「絶対的論理」と「最適化」を極めた二人の王は、いよいよ目前に迫る過酷な冬の最終スプリントへと突入していくのだった。


【事後分析報告】

読んでくれてありがとうございます。慎也です。

また僕の体が物理法則を無視した動きをしていたようですが……楽しんでいただけたでしょうか?


今後のデータの参考にするため、よろしければ「ブックマーク」と、下にある【★★★★★】で評価を入力していただけると助かります。


皆さんの応援エネルギーが、僕たちの生存確率を上げます。よろしくお願いします。


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