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第12話 現代魔法『物理』の個人授業

【担当:慎也】

僕の日常がこれ以上壊れませんように……。

本編スタートです。



 放課後の図書室。

 夕日が差し込む窓際で、異様な個人授業レクチャーが行われていた。


「……つまり、物は『重力』という目に見えない鎖で地面に縛り付けられている、と?」

「え、ええ。まあ、鎖というか引力なんだけど……」


 キースラインは、物理の教科書を魔導書のように睨みつけていた。

 彼の隣には、天道花憐が座っている。

 彼女は顔を真っ赤にして、教科書の端をギュッと握りしめていた。


(近い……! 顔が近いのよ、齋藤くん……!)

 キースラインに悪気はない。ただ、教科書の図解を詳しく見るために身を乗り出しているだけだ。


 だが、その鋭い眼光と、整った顔立ち(元から素材は良かったが、勇者の自信が加わって精悍になっている)が至近距離にある状況は、免疫のない花憐には劇薬だった。


「素晴らしい」


 キースラインは感嘆の声を漏らした。


「詠唱も魔法陣もなく、ただ数字という言語だけで世界のことわりを記述するとは……。この『ニュートン』という男、過去の大賢者か?」

「え、えっと、科学者だけど……偉人には違いないわね」

「ふむ。この世界は魔法がない不便な場所だと思っていたが、訂正しよう。貴様らは、魔力を使わずに魔法以上の法則を操っているのだな」


 キースラインは熱っぽい瞳で花憐を見た。

 知識への渇望。未知なる力への興奮。

 だが、花憐のフィルターを通すと、それは「熱烈な愛の眼差し」に変換された。


「そして、この難解な理論を理解している貴様もまた、稀代の才女だ」


 キースラインは自然な動作で、花憐の手を取り、教科書の上に重ねた。


「俺の目に狂いはなかった。貴様の頭脳は、俺の覇業に必要不可欠だ」

「ひゃうっ!?」


 花憐の喉から変な声が出た。

 覇業? 必要不可欠?

 つまりそれは、将来を誓い合うパートナー(妻)になれということ!?


「ど、どうしよう……まだ高校生なのに……でも、こんなに熱烈に求められたことなんて……」


 ブツブツと妄想の世界に入り込む花憐。

 その様子を見て、キースラインは首をかしげた。


「おい、聞いているのか? 次はこの『微分積分』という術式について解説しろ」

「は、はい! 喜んで!」


 花憐は弾かれたように背筋を伸ばした。

 声が裏返っている。


「え、えっとね! これは曲線の傾きを求める計算で……!」


(ふむ、素直で良い部下だ)

 キースラインは満足げに頷いた。

 前の世界では、部下といえば筋肉だるまの戦士か、理屈っぽい魔法使いばかりだった。このように顔を赤らめて従順に従う参謀というのは、悪くない。

 彼は、花憐が必死にノートに書く数式を眺めながら、ふと呟いた。


「……貴様の手、小さいな」

「へっ!?」

「こんな細い腕で、よくペンなどという武器を振るえるものだ。俺が守ってやらねば、すぐに折れそうだな」


 これは純粋な感想だった。戦士基準で考えれば、彼女の腕は木の枝より脆い。戦闘になれば自分が前に立つ必要があるだろう、という戦術的な判断だ。


 しかし。

 バタン!

 花憐が机に突っ伏した。限界だった。


「も、もう無理……! 守るって……そんな、サラッと言わないでよぉ……!」


 耳まで真っ赤にして震える彼女を見て、キースラインは眉をひそめた。


「おい、どうした? 敵襲か? それとも空腹か?」


(神よ、この女はどうしたのだ? 急に発熱したようだが、未知の病か?)


 ――『恋の病ね。お前が重症化させたんだけど』


(恋? くだらん。俺はただ、物理の授業を受けていただけだぞ)


 ――『無自覚なタラシって、魔王よりタチが悪いわよ……』

 神の呆れた声などどこ吹く風。


 キースラインは「虚弱体質な参謀には、肉でも食わせて体力をつけさせるか」と、至極真っとうな(ズレた)配慮を思いつくのだった。


【事後分析報告】

読んでくれてありがとうございます。慎也です。

また僕の体が物理法則を無視した動きをしていたようですが……楽しんでいただけたでしょうか?


今後のデータの参考にするため、よろしければ「ブックマーク」と、下にある【★★★★★】で評価を入力していただけると助かります。


皆さんの応援エネルギーが、僕たちの生存確率を上げます。よろしくお願いします。


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