第116話 ボットネット(操り人形)の無力化と、広帯域ジャミング(妨害電波)による通信遮断
【担当:キース】
脆弱な頭脳で我が肉体を使いこなせるかな?
開戦だ。
深夜の宿屋。
扉や窓を打ち破り、雪崩れ込んできた魔族の住人たちは、一切の感情を失った虚ろな瞳で勇者一行に襲いかかっていた。手には包丁や農具が握られ、その動きには一切の躊躇がない。
「ギ……ガァァァッ!!」
「……チッ。完全に思考ルーチンを乗っ取られているな」
慎也は聖剣を抜き放つが、刃を返すことはせず、峰打ちと体術のみで迫り来る住人たちを弾き飛ばしていた。
背後では、時限発動型のマルウェア(ロジックボム)によって魔力回路をショートさせられたエリス、ガルド、ナイルが床に倒れ伏し、苦悶の表情を浮かべている。
(一般市民(非武装NPC)を感染して操るボットネット。そして、それを利用した物理的なDDoS攻撃(物量戦)……。広域殲滅魔法(AoE)でまとめてデリート(殺戮)するのは造作もないが、そんな非道な処理を行えば、エリスの精神に致命的なバグを残すことになる)
慎也は狭い室内で殺到する市民の波を捌きながら、冷徹に「解決のアルゴリズム」を構築していく。
(……考えろ。あの鐘の音はあくまで『起動』だ。数千人規模のボットをこれだけ正確に連携させて動かすには、必ずどこかに『コマンド&コントロール(C&C)サーバー』が存在し、継続的に制御信号(魔法波)を送っているはずだ)
慎也は伊達眼鏡の奥で目を細め、超高速で空間の魔力波長をスキャンした。
微弱だが、ある。市民たちの脳内に直接書き込みを行っている、極めて高周波な不可視の魔力ネットワークが。
「……見切ったぞ。アクセスポイント(操り糸)の周波数を特定した」
慎也は迫り来る数人の市民を足払いで転倒させると、新調したばかりの自身の防具――王都の老鍛冶師に作らせた『動的周波数変調モジュール』に魔力を流し込んだ。
「元々は私の魔力を偽装するためのハードウェアだが……出力を反転させれば、立派な『ノイズ発生器』になる」
慎也は聖剣を床に突き立て、自らの冷気の魔力をモジュールへと一気に注ぎ込んだ。
「実行。……『アクティブ・ノイズキャンセリング(広帯域ジャミング)』!!」
バァァァァァァァァァンッ!!!
慎也の防具の核から、敵の制御信号と「全く同じ波長」でありながら「完全に逆位相」の魔力波が、爆発的な勢いで全方位へと放射された。
二つの波が衝突し、互いのエネルギーを相殺する。空間に張り巡らされていた不可視の制御ネットワークが、物理的なノイズによってズタズタに引き裂かれた。
「ガ……ッ!?」
「あ……れ……?」
ピタリ、と。
制御信号を失った市民たちの動きが停止した。彼らは憑き物が落ちたように虚ろな目を瞬かせると、次々と糸の切れた操り人形のようにその場に倒れ込み、深いスリープモード(気絶)へと移行していった。
「……よし。ボットネットとの通信遮断に成功した」
慎也はシステムが正常に停止したことを確認すると、すぐに背後のエリスたちのもとへ膝をついた。
彼らを苦しめているのは、体内に残留したロジックボムの残滓だ。
慎也はエリスの背中にそっと手を当て、極めて純度の高い、澄み切った魔力を流し込む。
「エリス。私の波長をガイドにして、乱れた回路を再起動しろ。……セーフモードでの立ち上げだ」
「……あ……、キースライン、様……」
慎也の冷たくも安定した魔力供給(クリーン電源)を受け、エリスの顔に少しずつ赤みが戻ってくる。ガルドとナイルの荒い呼吸も、次第に落ち着きを取り戻し始めていた。
「……申し訳ありません。敵の未知の罠を検知できず、足手まといに……」
エリスが涙声で謝罪するが、慎也は静かに首を振った。
「謝る必要はない。未知のバグが発生するのはシステムの常だ。重要なのは、それをどうリカバリーし、二度と同じ手口を許さないかだ」
慎也は立ち上がり、窓の外――大都市の奥にそびえる、ひときわ巨大な領主の館を睨みつけた。
「……ボットたちとの通信が途絶したことで、敵の管理者もこちらの異常(パッチ適用)に気づいたはずだ。……待たせるのも失礼だろう」
慎也は聖剣を引き抜き、冷酷な光を宿した瞳で夜の街を見据えた。
一般市民を盾にした卑劣なサイバー攻撃(精神攻撃)。そのやり口は、システムエンジニアとしての慎也の「最も嫌悪するバグ」だった。
「……エリス、ガルド、ナイル。再起動が完了しだい、敵のC&Cサーバー(中枢)へ物理的排除を仕掛ける。……この街の腐った管理者を、完全にデリート(消去)するぞ」
未曾有の危機を機転と最新ハードウェアで乗り越えた勇者一行は、怒りの炎を静かに燃やしながら、罠を仕掛けた黒幕の元へと歩みを進めるのだった。
【総統通達】
読者諸君。我だ。
あの優男(慎也)め、相変わらず理屈っぽい戦い方をしていたな。我ならば一撃で粉砕していただろうに。
まあよい。今回の話に少しでも心が動いたならば、【ブックマーク】および、下部の【★★★★★】にて、我への忠誠を示せ。
良い評価は、次なる戦い(執筆)への糧となる。期待しているぞ。




