第11話 聖女エリスの困惑
【担当:キース】
脆弱な頭脳で我が肉体を使いこなせるかな?
開戦だ。
宿屋の一室で、慎也は頭を抱えていた。
村人たちが怖がって部屋から出てこないため、せっかくの異世界観光ができないのだ。
(うぅ……どうしてこうなった。僕、そんなに怖い顔してるのかな……)
鏡を見る。そこには、歴戦の傷跡が残る精悍すぎる顔と、凶悪な目つきの男が映っていた。
(……うん、これは怖い。夜道で会ったら財布を投げ出すレベルだ)
その時、宿屋の外が騒がしくなった。
「キースライン! いらっしゃいますか!」
凛とした、よく通る女性の声だ。
慎也が窓から覗くと、純白の法衣に身を包んだ、金髪の美しい女性が立っていた。背後には数名の聖騎士を従えている。
彼女は、この国に数人しかいない最高位の神官――聖女エリスだった。
(うわっ、なんか偉い人が来た! もしかして、僕を捕まえに来た警察的な!?)
慎也はパニックになった。
昨日のオーク討伐(地形破壊)が器物破損罪に問われたのか、それとも村人への恫喝(誤解)が通報されたのか。
どちらにせよ、日本の善良な高校生にとって「お上の御用」になることほど恐ろしいことはない。
バン! と扉が開かれ、エリスが部屋に踏み込んできた。
「やはりここにいましたね、キースライン! 貴方がまた騒ぎを起こしていると聞いて、飛んできました!」
エリスは柳眉を逆立てて、慎也を睨みつけた。
「報告は聞いていますよ。村人に金貨を投げつけ、恐喝したそうですね? 『後でトラブルにならないように』などと脅して、何を企んでいるのですか!」
「ひいっ!?」
完全に誤解されている。
かつてのキースラインなら、「うるさい女だ、消えろ」と一蹴していただろう。
だが、中身は齋藤慎也だ。
彼は、怒れる権力者を前にして、日本人のDNAに刻まれた最強の防御姿勢をとった。
ザッ!
慎也は膝をつき、両手を床につき、額を擦り付けた。
流れるような、完璧な土下座である。
「も、申し訳ありませんでしたぁぁぁ!!」
「――は?」
エリスの説教が止まった。
彼女は目を丸くし、自分の前で小さくなっている巨漢を見下ろした。
あの傲慢不遜、唯我独尊のキースラインが?
教皇猊下の前ですら頭を下げなかった男が?
床に? 額を?
「な、なんの真似ですか……? 新手の煽りですか? それとも、床に罠でも?」
エリスは警戒して杖を構えた。
「違います! 反省しているんです!」
慎也は顔を上げず、必死に弁明した。
「村の方々を怖がらせるつもりはなかったんです! お金も、ただの正規料金の支払いで……! 領収書をもらったのも、経費計上のためで……!」
「けいひ……けいじょう……?」
聞き慣れない単語に、エリスは困惑した。
「貴方、本当におかしくなったのですか? 頭でも打ちました?」
「い、いえ、頭は大丈夫です! 多分!」
慎也はガバッと顔を上げた。その目には、怯えと誠実さが同居していた。
「あの、お茶を淹れます! 粗茶ですが!」
「はあ!? いりませんよ!」
慎也は恐縮しながら、以前の村で買った安物の茶葉とお湯を用意し、聖女に差し出した。
「ど、どうぞ。毒とか入ってないんで」
「……当たり前です」
エリスは毒見をするように恐る恐るカップに口をつけた。
普通だ。ただの薄いお茶だ。
だが、あのキースラインに茶を淹れさせたという事実は、天地がひっくり返るほどの異常事態だった。
(……これは、相当な事態だわ)
エリスの中で、推測が駆け巡る。
これは、魔王の精神攻撃を受けたのか? それとも、神の試練による回心(神の方へ心を向ける)
なのか?
どちらにせよ、この「奇妙に礼儀正しいキースライン」を野放しにはできない。
「……わかりました。とりあえず、貴方の言い分は聞きましょう」
エリスはカップを置いた。
「ですが、信用したわけではありませんよ。私がこの目で監視させていただきます。……いいですね?」
「はい! ありがとうございます! 助かります!」
慎也は心の底から安堵した。
(よかった……。常識人っぽい人がパーティに入ってくれた。これで通訳してもらえる!)
エリスの冷ややかな視線に気づかず、慎也は希望を見出していた。
この聖女が、自分の味方ではなく「監視者」であることなど、今の彼には些細な問題だったのだ。
【総統通達】
読者諸君。我だ。
あの優男(慎也)め、相変わらず理屈っぽい戦い方をしていたな。我ならば一撃で粉砕していただろうに。
まあよい。今回の話に少しでも心が動いたならば、【ブックマーク】および、下部の【★★★★★】にて、我への忠誠を示せ。
良い評価は、次なる戦い(執筆)への糧となる。期待しているぞ。




