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ライバル優等生とエロ漫画描いたら恋に落ちた  作者: ほしみん


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第30話 夏コミ~Side白~(後編)

 オリジナルのエロ同人コーナーに移動する。


 ここが、あたしたちの戦場。


 プロレベルの作品がずらり。


 表紙が美しい。装丁も綺麗。


 なにより、思わず目を惹かれてしまう。


 ああ、これが表紙買いか。


 気づいたら見本誌を手に取っていた。


 ペラペラと漫画をめくる。


 ……すごい。


 あたしたちの本と、全然違う。


 画力。構図。


 全部が、上。


 でも、落ち込んでる場合じゃない。


 観察する。市場調査が目的。


 スケッチブックを開く。


 売れてるサークルのポップを描き写す。


 A4サイズ、カラー。キャッチコピーが大きく書いてある。


「新刊!」「R18」「年上お姉さん×年下男子」


 キャラクターのイラスト。値段が見やすい位置に。


 SNSのアカウント。QRコードまで貼ってある。


「……見て、蓮。このポップ」


 蓮も見る。


「遠くからでも目に入るわね。人混みの中でも、ここにサークルがあるってわかる」


「……確かに」


 蓮が頷く。


「キャッチコピーも大きくて、何の本かすぐわかる」


「『雨の日のドキドキ』って」


「内容が想像できる」


 蓮が頷く。


「……確かに」


 あたしもスケッチする。色はメモで書き添える。あとで再現できるように。


 蓮はメモを取ってる。


「値段、いくらが多い?」


「……500円か600円が多いな」


「800円もあるけど、ページ数が多い」


 なるほど。だいたい500円~800円。


 あたしたちも前回のコミティアでは500円に設定していた。価格帯は間違ってなかったんだ。


 配置も観察する。


 表紙を立てかけてる。サンプル見本を開いて置いてる。お釣りを準備してる。


 値札も大きい。遠くからでも見える。


「……なるほど」


「ちゃんと考えてるわね」


 SNS戦略も確認。


 サークルのポップに「Twitter @〇〇」「Pixiv検索:〇〇」。


「新刊情報はSNSで!」


 QRコードまで貼ってる。


 試しにスマホでQRコードを読み取ってみる。


 サークルのSNSアカウントが表示された。フォロワー3万人。


 投稿を遡ってみる。


 1ヶ月前。ラフ画を公開。「夏コミ新刊、進捗です」。いいねが500以上。


 2週間前。完成した表紙を公開。「表紙できました!」。いいねが2000以上。リポストも多い。


 1週間前。サンプルページを公開。数ページ分。「こんな感じの内容です」。


 3日前。「夏コミ○日目、スペースは○○です!」


 当日の朝。「今日はよろしくお願いします!」


 ……なるほど。


「蓮、見て」


 スマホを蓮に見せる。


「1ヶ月前からラフ公開して、2週間前に表紙、1週間前にサンプル。3日前にスペース番号告知して、当日の朝に挨拶……すごい。計画的に読者の期待を高めてる」


 蓮が頷く。


「……これだ」


 あたしたちに足りなかったのは、これだ。


 作品を作るだけじゃダメ。知ってもらう努力をしないと。


「あたしたちも、ちゃんとやらないと。次のコミティアまでに」


 蓮が言う。


「表紙とサンプルページを上げる」


「コミティア1週間前から」


 あたしが続ける。


「3日前にもリマインド」


「当日にスペース番号告知」


「……わかった」


「ちゃんとやろう」


 会場を見渡す。まだまだ見きれていないサークルがたくさんある。


「広いわね……全部回るの無理そう」


「……手分けするか」


 蓮が提案する。


「俺はこっち側を見てくる。白石は向こう」


「3時に、入口で待ち合わせ」


「……わかった」


 蓮と別れる。


 一人になった途端、気が楽になった。


 ……さっきは蓮がいたから、恥ずかしくて見られなかったけど。


 二次創作のエリアに戻る。


 さっき逃げ出したサークル。もう一度見てみる。


 ……やっぱり、すごい。


 絵がうまい。構図がエロい。表情の描き方が、プロ。


 気づいたら、買ってた。


 他のサークルも回る。


 ふと、隣のエリアが目に入る。


 看板。「BL」。


 ……ボーイズラブ。


 ちょっと覗いてみるだけ。あたし、別にそっちの趣味はないし。


 でも、表紙の絵がすごく綺麗で。


 ……ちょっとだけ。


 足を踏み入れる。


 すごい熱気。女性ばかり。みんな真剣な目で本を選んでる。


 ふと、見覚えのあるキャラクターが目に入った。


 あの漫画の。あたしが好きな漫画の。


 主人公と、ライバルキャラ。


 二人が表紙で見つめ合ってる。


 ……え?


 この二人って、そういう関係だったの?


 いや、違う。これは二次創作だ。原作ではそんな描写ない。


 でも。


 ……でも。


 表紙の二人の距離感。見つめ合う目。


 なんか、わかる気がする。


 原作でも、この二人って妙に距離近かったし。ライバルなのにお互いのこと意識しすぎだし。


 手に取る。ページをめくる。


 ……。


 ……っ。


 なにこれ。


 主人公がライバルに押し倒されてる。


「お前のことが気になって仕方ない」


「俺も……だ」


 ……解釈、一致してる。


 この二人の関係性、こうだったんだ。原作で感じてたあのモヤモヤ、これだったんだ。


 気づいたら、買ってた。


 次のサークル。同じカップリング。


 でも、攻めと受けが逆。


 ……逆?


 さっきのは主人公が受けだった。こっちはライバルが受け。


 どっちが正解なの?


 ページをめくる。


 ……あ、これもアリかも。


 ライバルが素直になれなくて、でも主人公に押し切られて。


「お前、いつもそうやって強引だな」


「嫌か?」


「……嫌じゃない」


 ……いい。すごくいい。


 買おう。


 次。別のカップリング。


 主人公と、幼馴染キャラ。


 ……幼馴染? いや、この二人は原作でそんなに絡みなかったような。


 でも、表紙の幼馴染の表情がすごくいい。切なそうな目。


 手に取る。


「ずっと見てたんだ、お前のこと」


「……知らなかった」


「知られたくなかったから」


 ……ああ。


 片想いの幼馴染。報われない想い。


 これは……これは切ない。


 涙腺が緩む。


 買おう。


 次。主人公と先輩キャラ。


 先輩が主人公を導くシチュエーション。


「俺についてこい」


「……はい」


 ……年上攻め。包容力。


 いい。すごくいい。


 買おう。


 次。主人公と後輩キャラ。


 後輩が先輩である主人公に憧れてて、でも憧れが恋に変わって。


「先輩のこと、尊敬してます」


「……それだけか?」


「……それだけじゃ、ないです」


 ……後輩攻め。いや、これは後輩受けか。


 どっちでもいい。尊い。


 買おう。


 次。敵キャラと主人公。


 敵同士なのに惹かれ合う禁断の関係。


 ……背徳感。いい。


 買おう。


 次。モブと主人公。


 ……モブ?


 モブおじさんと主人公が絡んでる。


 なんでモブ……?


 でも、列ができてる。需要があるんだ。


 ……世界は広い。


 あたしの知らない世界が、こんなにもある。


 元のエリアに戻ろうとして、ふと紙袋を見下ろす。


 パンパンになってる。


 ……は。


 なにやってんの、あたし。


 BL、買いまくってる。


 あたしたちの本、男女カプなんだけど!?


 全然関係ないジャンルじゃない!


 い、いや。男の体の描き方の参考に……そう、筋肉の描き方とか、表情とか。


 それに、関係性の描き方は参考になる。ライバルから恋人への変化とか。


 ……あたしと蓮も、ある意味ライバルだし。


 って、なに考えてんのよ!


 顔が熱くなる。


 深呼吸。落ち着け。


 ……市場調査。そう、市場調査。


 女性向け市場の調査。これも立派な市場調査。


 言い訳を心の中で唱える。


 誰に言い訳してるのよ、あたし。


 オリジナルのエロ同人コーナーにも寄る。


 ここは完全に競合分析。あたしたちの戦場。


 深呼吸。冷静になれ、あたし。


 表紙を見る。どれもエロい。レベルが高い。


 手に取る。ページをめくる。


 ……女の子の表情がすごい。こういう顔、あたしも描きたい。


 買おう。


 次。これもいい。買おう。


 次。これも……。


 ふと、隣のエリアが目に入る。


 表紙に描かれてるのは……触手?


 ぬるぬるした何かが、女の子に絡みついてる。


 ……っ。


 ゾワッとした。


 なにこれ。こういうのが好きな人、いるの?


 でも、列ができてる。サークルの前に、人だかり。


 いるんだ。たくさん。


 隣を見る。スライムもの。女の子がスライムに包まれてる。


 その隣。植物もの。蔦が女の子を拘束してる。


 その隣。機械もの。ロボットアームが……。


 ……世界は広い。


 あたしの知らない性癖が、こんなにもある。


 そしてそれぞれに、熱狂的なファンがいる。


 ……同人って、深い。


 元のエリアに戻る。


 気づいたら、紙袋がもう一つ増えてた。


 BLと男性向けエロ同人が混在してる、カオスな紙袋。


 触手は買ってない。さすがにあれは無理。


 ……まあいいわ。全部市場調査だから。




 3時。入口で蓮と合流。


 蓮も紙袋を抱えてた。


「……買いすぎたわね」


「……お前もだろ」


 お互いの紙袋を見て、苦笑する。


「……市場調査だから」


「……そうね、市場調査」




 夕方。ビッグサイトを出る。


 疲れた。でも、充実してる。


 リュックにはスケッチがぎっしり。蓮のメモ帳もいっぱい。そして、二人とも紙袋を抱えてる。


「……すごい勉強になったわね」


「……ああ」


「ポップ、あたしが描くわ」


「A4サイズ、カラー」


「キャッチコピーも考える」


 蓮が言う。


「SNSもちゃんとやろう」


「Pixivに表紙とサンプルページ上げる」


「コミティア1週間前から」


 蓮が頷く。


「……俺も、なろうのプロフィールに書いておく」


「『コミティア参加します』って」


「『サークル「黒白」で新刊出します』って」


 あたしが笑う。


「あんたらしいわね」


「サークル『黒白』」


「あたしと蓮」


 ……なんか、嬉しい。


 りんかい線に乗る。


 電車は空いてる。座席に並んで座る。


 ……疲れた。


 歩き回ったから、足が痛い。


 目が重い。


 電車の揺れが心地いい。


 ……眠い。


 次のコミティアのこと、考えないと。


 ポップのデザイン。SNS戦略。値段設定。


 ……でも、眠い。


 今日は楽しかったな。


 蓮と一緒に……。


 ……。


 ……温かい。


 なんだろう、この心地よさ。


 ふわふわした感覚の中で、何かに包まれてる気がする。


 安心する匂い。


 ……。




「……白石」


 蓮の声。近い。


「着いたぞ」


「……ん」


 目を開ける。


 あれ。いつの間に寝てたんだろう。


 ……なんか、体が傾いてる。


 慌てて姿勢を正す。


 蓮の方を見る。蓮は何事もなかったように立ち上がろうとしてる。


 でも、なんか、耳が赤い?


 気のせいかな。


「……ごめん、寝ちゃった」


「……いや、いい」


 蓮の声が、いつもより低い気がする。


 あたしも立つ。


 ……あれ。


 さっき寝てた時、なんか温かかったような。


 何かに寄りかかってたような。


 ……まさか。


 蓮の背中を見る。


 いや、まさかね。電車の窓に寄りかかってただけよね。


 ……きっとそう。


 駅で別れる。


「……今日はありがとう」


「……ああ」


「市場調査、成果あったわね」


「……そうだな」


「次のコミティア、頑張りましょう」


「……ああ。それと」


 蓮が足を止める。


「コミティアで結果出せたら、冬コミ、出そう」


 ……え?


「……本気?」


「まだ4ヶ月ある」


 冬コミ。あの規模のイベントに、サークル参加。


 ……できるのかな。


 でも、蓮がそう言うなら。


「……そうね。目標は高い方がいい」


 蓮が少し笑った。


 蓮が改札を通っていく。


 あたしも反対方向の改札へ。


 帰り道。


 ……今日は、いい一日だった。


 市場調査、成功。


 ポップの作り方、わかった。


 SNS戦略も、わかった。


 次のコミティアで、結果を出す。


 蓮と一緒に。


 スマホを見る。蓮にメッセージを送る。


『今日はありがとう

 すごい勉強になった

 次のコミティア、絶対結果出そうね』


 すぐに返信。


『ああ

 ポップとSNS、ちゃんとやろう』


『うん』


 ……蓮と一緒なら、大丈夫。


 次は、4冊じゃない。


 もっと、たくさんの人に読んでもらう。




 家の前に着く。


 ……あ。


 紙袋を見下ろす。同人誌がぎっしり。しかも中身はエロ本。


 朝、母さんに「勉強しにいく」って言ったんだった。


 帰ってきたら、エロ同人誌の紙袋を抱えてる娘。


 ……まずい。


 リュックに詰め込もうとする。入らない。買いすぎた。


 仕方ない。紙袋を服で隠すように抱える。


 玄関を開ける。


「おかえり、遥」


 母さんの声。


「お、おかえり……ただいま」


 噛んだ。


「勉強、どうだった?」


「す、すごく勉強になった……!」


 嘘は言ってない。嘘は言ってない。


「そう、よかったわね」


 母さんは気づいてない。よかった。


 足早に自分の部屋に向かう。


 ドアを閉める。


 ……セーフ。


 紙袋をクローゼットの奥に隠す。


 ……市場調査の成果。絶対に見つかってはいけない市場調査の成果。


 ベッドに倒れ込む。


 今日は、本当にいろいろあった。


 でも、楽しかった。ものすごい熱気で、熱に浮かされた夢のような体験だった。


 ……次のコミティア、この体験を活かして、絶対結果を出してやる。


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