第28話 創作再開~Side黒~
数日後の夕方。白石の家。
「付箋方式、めちゃくちゃいい」
白石が嬉しそうに言う。
「間違えた問題だけ繰り返すから、効率がいいの。同じ時間でも、前より進む量が全然違う」
……だろうな。
白石は真面目だけど、勉強の仕方を工夫してこなかったタイプだ。努力だけで乗り越えてきた。
だからこそ、工夫すれば伸びる。
「この調子なら、成績戻せそう」
白石が笑う。
「……よかったな」
「あんたのおかげよ」
「別に。やってるのはお前だろ」
「でも、教えてくれなかったら気づかなかった」
「ありがとね」
……なんだろう、この感じ。
ずっとライバル視してきた相手に、勉強のことで感謝される。不思議だ。
でも、嬉しい。
感謝されるのって、こんなに嬉しいんだ。
ずっと一人でやってきた。勉強も、小説も。
誰かに教えるなんて、面倒だと思ってた。
でも、自分のやり方が誰かの役に立った。それだけで、胸の奥がじんわり温かくなる。
……白石と組んでから、こういうの増えたな。
「……どういたしまして」
我ながら、照れくさい返事だ。
俺の方も、ルーチンが回り始めた。
勉強は5時まで。それ以降は創作。
別の日の夕方。自室。
午後5時、自習が終わって帰宅。
夕飯までの時間。
第2作『雨宿りの君へ』の制作を再開。
ノートPCを開く。
現在の進捗:ネーム18ページ完成。
目標:24ページ。
残り:6ページ。
締切:次のコミティア。あと数週間。
ネームを早く終わらせないと。白石のペン入れ時間を確保しないと。
1時間1ページ。1日3時間で3ページ。2日あればネームは終わる。
……いける。
白石とメッセージで進捗報告。
『ペン入れ12ページまで進んだ』
『お、早いな。ネームは18ページ。あと6ページ』
『順調ね。このペースなら間に合いそう』
『ああ。ネーム終わったら背景とトーン手伝う』
『ほんと?助かる』
『当たり前だろ。共同制作なんだから』
『……うん。ありがと』
でも、ふと思う。まだ決して余裕がある状況ではない。
そして、もう一つの問題がある。
……認知。
前回のコミティアを思い出す。
4冊しか売れなかった。隣のサークルは完売。
サークルスペースの前を通る人たち。でも、俺たちの本は手に取ってもらえなかった。
……何が違ったんだろう。
本のクオリティ?
いや、それだけじゃない。
他のサークルは、ポップが派手だった。「新刊!」「完売御礼!」。SNSのアカウントも書いてあった。
……宣伝不足?
みんな、俺たちのサークルを知らなかった。
Pixivのフォロワーを確認。
白石のPixiv:フォロワー200人。
俺のなろう:読者100人。
……少ないな。
人気サークルは、フォロワー数万人。
……どうすれば、もっと知ってもらえる?
SNS?
でも、どうやって?
スマホが震える。佐々木からメッセージ。
『そういや、そろそろ夏コミだけど、お前行かねえの?』
佐々木は知ってる。俺が同人活動してること。4冊しか売れなかったことも。
『行ったことない』
即売会は、佐々木に紹介されたコミティアしか知らない。
『マジで?もったいねー。つーかそもそも夏コミって知ってる?』
『名前だけ。コミケの夏版だろ?』
『まあそうだけど、そういう意味じゃなくて……コミックマーケット、通称コミケは、コミティアと規模が全然違うんだよ。コミティアって何サークルくらいか知ってるか?』
たしか──
『3000くらい?』
『だろ?夏コミは3万サークル以上。3日間で来場者数50万人超え』
『……桁が違う』
『しかも歴史も長い。1975年から続いてて、世界最大の同人誌即売会。オタク文化の聖地みたいなもん』
『そんなにすごいのか』
『だから一度は見ておいた方がいいって。次のコミティアも出るんだろ?』
『ああ。第2作作ってる』
『お、いいな。今度こそもっと売れるといいな』
『そうだな。もっと売りたい』
『じゃあ尚更だよ。お前さ、他のサークルって見たことある?』
『……調査目的で電子で買って読んだりはしてるけど』
『そうじゃなくて、リアルに売ってる様子。印刷だったり、ポップだったり、売り子だったり』
『ほとんど見れてない。前回のコミティアは自分たちのことで精一杯で』
実際は、売れなさすぎて落ち込んでいた。他のサークルを見る余裕なんてなかった。
『それが問題なんだよ。売れてるサークルがどう本作ってるか、どう見せてるか、見ないと分からないだろ。それこそ、宣伝とかもさ、みんなどうやってるか知ってる?』
『……いや』
『夏コミは二次創作メインだけど、売れてるサークルの見せ方とか、ポップの作り方とか、めちゃくちゃ参考になるぞ』
……確かに。
他のサークルがどうやってるか、この目で見てくる。それは必要かもしれない。
『行ってみる』
『おお、いいね。絶対勉強になるから』
『そうそう。百聞は一見に如かず』
……佐々木には感謝だな。
俺が同人始めたのも、佐々木がコミティア教えてくれたからだ。
いつも、いいタイミングで背中を押してくれる。
週末。白石の家。
打ち合わせ。
第2作の進捗確認。
「ペン入れ、18ページまで進んだわ」
「ネーム終わった。24ページ全部渡せる」
「じゃあ、あと6ページね。なんとか、間に合いそう」
「……ああ」
そして、俺は切り出す。
「……あのさ、白石」
「ん?」
「夏コミ、行ってみないか?」
白石が顔を上げる。
「……夏コミ?」
「ああ。佐々木に勧められた」
「市場調査になるって」
「売れてるサークルのやり方、見てこようって」
白石が考える。
「……確かに」
「あたしたちと、売れてるサークルの何が違うのか、見てみたいわ。ポップの作り方とか、配置とか、SNSの使い方とか」
俺は頷く。
「……ああ」
白石が真剣な顔になる。
「あたしも、Pixivのフォロワー200人しかいない」
「人気サークルは、数万人」
「どうやって増やしてるのか、知りたい」
「じゃあ、今度の日曜日」
俺が提案する。
「別々に出かけて現地集合」
「10時、ビッグサイトで」
白石が笑う。
「いいわね、市場調査」
「勉強になりそう」
「……ああ」
二人で計画を立てる。
「スケッチブック持っていくわ。ポップのデザインとか描き写してくる」
「俺はメモを取る。値段とか、配置とか」
「これで、次のコミティアに活かせるわね」
「……ああ」
帰り道。
夏コミか。
白石と二人で、売れてるサークルの秘密を見てくる。
前回は4冊。次は、もっと売りたい。
……楽しみだな。




