「こまんお〜」が言えない王子
この国では、補助輪なしで自転車に乗れるレベルのことらしい。
「アルト殿下! もう一度です。せーのっ!」
「こ、こま……おま……こ、ま……」
「違いますっ! “こまんお〜”ですっ! “ん”を抜かさない!」
「んを入れると、変な音になるんだよぉ!」
ネレアは額を押さえた。王族専用の発音教室には、悲鳴と笑い声がこだましている。
この国「コマンオ王国」では、朝のあいさつも、国会の開会宣言も、外交条約の締結もすべて「こまんお〜」で始まる。
言い間違えるなど、国家反逆罪レベルの恥である。
「アルト殿下、これはただの発音訓練ではありません。王の器を問われる一大事です!」
「そんなのわかってる! でも俺の口が勝手に……“おま○○”とか言っちゃうんだ……!」
「放送禁止ですっ!!!」
ネレアは反射的に鐘を鳴らした。
「ピーッ!」と音が鳴る魔法鐘――不適切発言を感知する国家機密アイテムである。
今日だけで20回鳴った。
「はぁ……殿下、もう一度。“こ”を柔らかく。“ま”は優しく。“ん”で止めて、“お〜”で流す。」
「……こ、ま、ん、お〜……?」
「できましたぁぁぁ!!!」
ネレアは涙を流して拍手した。
執事も侍女も兵士も、王城全体が歓声に包まれた。
……しかし翌日。
王城バルコニーから国民に向かって王子が高らかに言う。
「国民の皆! こま……こま……お…ん○〜っ!」
静寂。
そして鐘が鳴る――ピーーーーーーー!!!!!
「アルトおおおおおおおおおお!!!」
ネレアの絶叫が王都に響いた。
***
それから十年。
王子アルトはついに王位についた。
開会の儀で、深呼吸して言う。
「国民の皆、こまんお〜!」
会場がどよめき、拍手喝采。
ネレアは涙ぐみながら、そっとつぶやいた。
「……本当に、立派になりましたね。こまんお〜、陛下。」




