表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

 イノチ、カガヤク

作者: 宮城 英詞

※初めに

このお話は。取り扱いの非常に難しいモノを扱っております。


もし、このお話を読んで、神の名前が頭に浮かんでも。


決してSNS,感想欄でその「名」を語らないでください


それによって、言霊が動き出し、

あなたに不利益な出来事が起きたとしても。

こちら側では一切責任を取ることができませんのでご了承ください。

 蒸し暑い、夏の日。


 俺は短期の夜間警備のアルバイトの仕事をしていた。

 夜になったら、施設内の敷地を回り、あちこちの扉の施錠を確認する。

 あとは、定期的に施設内を見回りして、他のメンバーと交代で仮眠でも取っていればいい。

 昼夜逆転してしまうのが辛いが、関係者じゃない場所を夜中に見て回れるのは面白いものだ。徹夜に強い俺にとってはちょろい仕事である。

 この時、俺はそんな事を考えていた。


 だが、俺はこの時、重要な事を考えていなかった。


 なぜ、こんな仕事が俺になんかに回ってきたのか、という事を……。


 最初は、一本の空になったペットボトルだった。


 施設が閉まる際完璧に掃除したはずなのに、それは屋外の通路のど真ん中に無造作に転がっていた。

 誰かが捨てていったのか?

風で飛んできたのか?

俺は舌打ちをしながらそれを拾い上げた。

基本的にゴミは見つけたらごみ箱に捨てることになっている。

ましてやペットボトルだ。ちゃんと分別して捨てなければならない。

だが、俺が見回っている施設は広大だ。

新人なので。ごみ箱がどこにあるかよくわからない。

かといって、巡回は始まったばかり。

ペットボトルを持って歩き回るのはひどく面倒に思えた。

多分これを捨てた人も同じだったのだろう。

「めんどくせぇなぁ。」

 俺は、そう呟くと、近くの草むらの中にペットボトルを投げ捨てた。

 これで良し。

 あとは、明るくなったら、掃除のスタッフが見つけてくれるだろう。

 俺は、そう頷くと、先を急いだ。


 ぽこん


 数歩、歩いたところで後ろから、何か音がする。


 振り返ると、そこには先ほど捨てたはずのペットボトルが転がっている。


 え?


 俺は違和感を覚えて、そのペットボトルを拾い上げた。


 おかしい。


ペットボトルはこれ一つだけだったはずだ。

それは、俺が草むらに投げ捨てたはずで……?


何かの見落としかな?


俺はもう一度、草むらにペットボトルを投げ入れた。

結構見落としがあるものだ。

俺はそう頷くと、先を急ごうとした。


ぽこん。


そして、また、あの音が響いた。

振り返れば、また道にペットボトルが転がる。


俺は、それに動悸が激しくなるのを感じた。


今、俺は見た。


先を急ごうと瞬間。

横目だったが、ペットボトルが草むらから「飛んできた」のだ。


その草むらの中に、何かいる。


俺はそっと、懐中電灯を向け、ゆっくりと草むらに近づいた。

「誰かいますか?」

 そう声をかけても返事はなかった。

 不審者か?

 息を飲みゆっくり近づく。

 そして草むらまで一メートルを切ったところで


 ガサガサッ!


 と草むらが揺れた。


 「それ」は、何か人間が高速ではって行ったかのように奥へと遠ざかっていくような動きだった。


犬が入り込んだか?


 俺はその様子に一瞬そう思ったが。

 やはりそれだけでは説明できなかった。


 野良犬はペットボトルを投げ返したりしない。


 俺は、恐る恐る、草むらの暗闇に足を踏み入れた。


 草むらの奥は、自然をイメージした庭になっていて、様々な木々が植えられているちょっとした林になっていた。

 木々にはこぶし大の大きな実のようなものがそこら中にぶら下がっている。

 夜になり、ライトアップも消えると、そこは何か異世界に来たような不気味さを醸し出していた。


「ここって、こんな所だっけ?」


 懐中電灯の明かりではなんとも心細い。

 思わず不安な心が声に出る。


 そして俺は、「それ」を踏んだ。


 ぐにゃり。


 足元におかしな感覚を覚え、俺は恐る恐る足元を照らした。

 見ると、原色の青ペンキをゼラチンで固めたようなものがある。

「……不法投棄?」

 俺に踏まれ、プルプルと震えるそれは、林の芝生一面に広がっていた。

 そして、その中央にある「モノ」に俺は言葉を失った。


 それは、真っ赤な、臓物のような「何か」だった。


 輪のように青いゼラチンの中に浮かんだ「それ」は良く見るとどくどくと脈打っている。

 まるで生きているような。

 つい先ほど、誰かの腹から引きずり出されたかのようなその物体に、俺は言葉を失った。

「何だこれ……。」

 そう言いながら、のぞき込む俺。


 そして一歩、踏み出した瞬間、「それ」は目を開いた。


 それに、俺は息ができないほど驚いた。


 臓物の中から見開く巨大な目。

 それが三つ、こちらを覗いている。


 それは間違いなく、生きていた。


 作り物ではなく、動き、脈打っている。


 だがそれは、生物と呼ぶにはあまりにも原始的で、そして不完全だった。


ガサガサッ!


 周囲の木々が一斉にざわめく。


 その音に驚き、見上げた俺は、今度は叫び声を上げる事になった。


 それは木々にぶら下がった無数の目だった。


 そう、この林にこぶし大の実などなっていない。

 気にぶら下がっていたのは、赤い、青い、臓物のような球体。

 そして、そこについた目!目!

「ヒッ!」

 俺はそれに、懐中電灯を握りしめたままその場に硬直した。

 何が起きているのか?

 これは何なのか?

 そんな考えが頭の中を駆け巡る。

 だが、そんなことは考える暇がなかった。

 

 ずぞっ。

 

 ずぞぞっ……。


 今度は足元の草むらで音がする。

 湯が煮立つような、排水溝が詰まったような音が混在した音。

 

そしてその先で、「大きな何か」が立ち上がるような姿が見えた。


 それは、虫の足を持ち、タコのような触手を持ち、四足動物の足を持ち、人間のような足を持つ「何か」。


 おおよそ、地球上の生物をすべて溶かして練り上げたような「それ」は眼球のついた臓物を持ち上げ、こちらに向ける。

 そして、それは中央に大きく穴を開け。ねばねばと形を変えながら盛り上がっていった。


 俺には、それがなぜか笑っているように見えた。


「うぁぁぁぁ!」

 気が付くと、懐中電灯を投げ出し俺は駆け出していた。


 林を抜け、道を抜け。

 明るい、開けた場所へ。


 息が切れるまで走り。

 俺は道端にへたり込んだ。

 仄かな街頭の下、俺は必死に呼吸を整える。


 何だったんだ?あれは


 そんな疑問が脳内を駆け巡った。

 

 気のせい?

 いや、俺はハッキリ見た。

これは夢なんかじゃない。

 「あれ」を踏んだ足の感覚。今でもはっきりと残っている。

 ではあれは何?

 ネットでも教科書でも、あんな生物見たことがない。

 そもそも、決まった形があったのかどうかすら判らない。


 そして、あの木々にぶら下がった数々の目……。


 あんなものは昼間絶対になかった。

 そもそもあんな大きな実が生る木もない。

 では、あれは何?

 やっぱり気のせい?

 しかし、あの起こった出来事は……。


 ぽこん


 そして、ペットボトルが落ちる音に、俺の心臓は急停止した。


 それは、今、間違いなく俺の背後から「飛んできた」

 その事実に俺は、息を飲んだ。

 後には先ほど走って来た屋外の道があるだけである。風で飛んできたわけではない。

 それは、背後から放物線を描いて「投げ込まれた」のである。


 そして、何か結論を出そうとした瞬間。


また、何かが「投げ込まれた」


 ゴンッ。


 それは、俺がさっき、林に落としていった、懐中電灯だった。


 それに、息を飲む俺。

そして今度は、背後から、気配と、そして「何か」の足音が聞こえた。


ヒタッ、ヒタッ……。


 それは、断じて、靴の音ではなかった。


 舗装された地面を、濡れた、ねばついた足で歩くような音。


 ゆっくりと、大きな、二本足の誰かが、いや、「何か」が近づいてくる……。


 俺は動くことができなかった。

 蛇に睨まれた蛙のように、逃げることも、振り返ることもできなかった。

 ただ冷や汗を流し、どうすればいいのかわからず、うろたえる。

 頭は必死に考えるが、体は指一本動かせなかった。


 そして「それ」は俺の肩を叩いた。


 どろどろとした真っ青な手のようなもの。


 それが肩に乗った時、俺はもう、振り向くしかなくなっていた。


 後ろに居たのは、青い、顔のない人の形をした「モノ」だった。

 顔に目のついた臓物を巻き付けた「それ」はこちらを見下ろし、そして口にあたる部分を大きく開く。


「ぎぃやぁぁぁぁ!」


 そして俺は、とうとう、逃げ出すことしか考えられなくなって、全速力でその場を後にした。



 それからどこをどう走ったのか、良くは覚えていない。


 気が付くと、俺は詰所に駆け込んで汗だくで倒れ込んでいた。


「ああ、あんたも見たんか。そら大変やったなぁ。」

 そのあと、俺を落ち着かせてくれた、同僚のおじさんは俺の言葉にそう言って笑った。

「あれは一体何なんですか?」

 と俺が聞くと、おじさんは冷えた麦茶を飲みながら考え込んだ。

「多分、あれは神様なんやろなぁ。」

「神様?」

「そう、人が集まるイベントには、想いが集まる。そこには、昔から神様が宿るもんらしいわ。まぁ、イベント中は、あの施設が結界みたいなもんやからの中からは出られんやろし、別に怒らせるようなことでもせんかったら。害はないわ。大方、変なところにゴミでも捨てたから追いかけて来たんやろ。」

 そう言って笑いながらお茶を飲むおじさんに、俺ははぁ、と力なく頷き、今更ながら草むらにゴミを捨てたことを後悔した。


 なるほど、あれは確かに、不完全かもしれないが神様だったのかもしれない。

イベント中は大賑わいだ、確かにずっとそこにいるだろう。


 だが、その後は?


 俺は帰り道、そのことを考えて、背筋が凍る思いがした。

 イベントはじき終わる。

 施設は取り払われて、結界となっている建物は取り壊される予定と聞いている。

 そうなったら「アレ」は世に解き放たれてしまうのだろうか?


 そしたら、一体何が起こるのだろう?


 俺は帰り道、万博の大屋根リングを見上げ、不安な気持ちで一杯になっていた。







いかがでしたか?


この物語において、

私が言いたいのはただ一つです



ペットボトルは、ラベルをはがし、フタと分別して捨てましょう。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
コントが始まったなと思ったら、ホラーも始まった。 最後の一文……、そうじゃないかなとは思っていたのですが、確信に変わりました。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ