第13話:もう、隠さない
あの告白から、少しだけ時間が経った。
俺――涼は、もう悠真に対する気持ちを隠さなくなっていた。
いや、正確に言えば――もう、隠す必要がなくなったんだ。
学校でも、帰り道でも、休日のデートでも。
周囲の目なんて、もう怖くない。
「ゆ~う~ま~っ、チューしよっか? ……えへへ♪」
そう囁くと、悠真はほんの少しだけ目を見開いて、照れくさそうに頬を赤らめる。
でも――それでも、俺の願いにはちゃんと応えてくれる。
「……まったく、お前ってやつは」
呆れたふうに笑って、でもその手は優しく俺の頭を撫でてくれる。
その仕草が、もう……たまらなく嬉しい。
最近では、学校でもすっかり「公認カップル」扱いだ。
「はいはい、ごちそうさまね~」
「朝から糖度高すぎて胃もたれしそうなんだけど」
「またイチャついてる……って、あれ? もう普通か……」
周囲の反応は、もはや諦め混じりの苦笑とため息。
けど、俺は気にしない。むしろ誇らしい。
だって、俺の「大好き」は――もう、我慢しなくていいものだから。
誰にも言えずに隠していたあの想い。
自分なんかじゃきっと報われないって、ずっと押し殺してきた感情。
それを今は、こうして堂々と――いや、ちょっと過剰なくらいに(笑)、表に出している。
悠真に向けて、惜しみなく。
そして今では、俺と悠真が付き合っていることは、学校中の誰もが知っている「周知の事実」になっていた。
……とはいえ、この時代、若い女性はとても少ない。
同世代の女子生徒なんて、学年に数人いるかどうか。
その分、彼女たちはほとんどが特別な保護下に置かれたり、家の事情で外に出ることすら制限されることもある。
そんな中で、かつて悠真が街中で告白された“あの女優”は、むしろ例外中の例外だ。
あんな美人に声をかけられるなんて、普通は一生に一度あるかないかの話。
だからこそ、その話が一部の生徒に知られたとき、驚きと噂が一気に広がった。
「女性から告白されて断ったらしいぞ」「マジかよ……」
まるで都市伝説でも語るかのように。
そして、むしろ最近多いのは――俺に告白してくる男子たちだった。
最初は戸惑ったけど、今ではちゃんと、心を込めて断っている。
「気持ちは嬉しいよ。でも、ごめんなさい。
俺、生涯一人しか愛さないって決めてるんだ。
その人から、ちゃんと……愛されてるってわかってるから」
そう言うと、大抵の相手は少し驚いたように目を丸くして、でも最後は不思議と納得してくれる。
“誰かを本気で想っている”って、きっとそれだけで伝わるものがあるんだと思う。
ある日の昼休み。
俺は悠真の机にお弁当を広げて、にこにこと笑いながら声をかけた。
「ゆうま~、あーんして♡」
「……ったく、誰のせいで、俺がこんな目にあってると思ってんだよ……」
文句を言いつつも、ちゃんと口を開けてくれる悠真。
「んふふ、美味しい?」
「……ああ。めっちゃ、美味い」
その一言だけで、胸の奥があったかくなる。
――ああ、幸せだ。ほんとうに、心からそう思える。
もう、隠す理由なんてどこにもない。
好きな人が、自分の隣にいてくれる。
名前を呼んでくれる。手を繋いでくれる。
そして、なにより――俺を、愛してくれる。
誰に何を言われたってかまわない。
だって、これが俺の“生き方”なんだ。
(俺、いま――ちゃんと“俺”のままで、生きてる)
過去に傷ついたことも、泣いた夜も、もう全部、乗り越えた。
これから何があっても、たぶん大丈夫。
――だって、隣には悠真がいてくれる。
その手を、もう絶対に離さない。
どこまでも、一緒に歩いていくんだ。
俺の“愛”を、もう二度と――隠したりしない。




