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第12話: 君の名を愛と呼ぶ

「涼! お前、なにか勘違いしてるぞ!」


「何が勘違いなんだよぉ!」


叫んだ俺の声は、ひどく掠れていた。


「さっきの女性が……お前の……っ」


そこから先が言えなかった。

でも、それだけで十分だった。悠真の瞳に、何かが閃いたように読み取れる。


「……やっぱり、お前……あの日、撮影現場にいたんだな」


胸の奥がズキンと鳴る。


「ご、ごめん……なさい……盗み聞きするつもりじゃ……」


絞り出すように呟いた声は、自分でも情けなくなるほど小さくて。

それでも、悠真はしっかりと聞き取っていた。


小さなため息が落ちる。

その音に、思わず肩が震えた。


「……最近、お前の様子がおかしかった理由は、それか」


痛いほどに図星だった。

何も言えず、目を伏せたまま、唇を噛みしめる。


そのとき、悠真の隣にいた女性が、ようやく追いついてきた。


「お兄ぃ……脚……はや……すぎっ……」


息も絶え絶えに、額に汗を浮かべている。


「え……? お……にぃ……?」


思わず、顔を上げる。


「こいつは俺の従姉妹だよ。遠くに住んでるから、会う機会が少なくてさ。……お前、知らなかったろ?」


「……従姉妹……」


その言葉を繰り返しながら、俺はその場にへたり込んだ。

情けなさと安心と混乱がないまぜになって、どう反応していいかわからなかった。


「で、でも……あのとき、“大切に想ってる人”って……」


喉が詰まる。

けれど、どうしても聞きたくて、消え入りそうな声で問いかけた。


悠真は、俺の正面にしゃがみ込む。

目を逸らさず、まっすぐに、俺の心を見つめてくる。


「……ああ、いるよ。俺の大切な人」


その一言で、胸がきしむ。


「その女性はな――元気で、優しくて、誰よりも家族を大事にしてて、頑張り屋で……」


(やめて……もうやめて……)


その言葉のすべてが、刃のように胸に突き刺さる。



「気丈に振る舞ってるけど、本当は繊細で、すごく寂しがりやで……でも、その寂しさすら噛みしめて、生きてる強い人だ」


 また胸が締め付けられる。呼吸が浅くなる。



「……もう……やめ……」


「そして――女性化処置を受けた人なんだ」


「……えっ?」


思わず顔を上げる。

悠真の瞳が、今まで見たこともないくらい、やさしく、まっすぐだった。


「その人は、自分自身の人生をかけて家族を守ろうとして……

 苦しい想いもして、それでも笑って生きてる。俺はな、その人のことを……かっこいいって思ってる」


鼓動が、苦しいくらいに速くなる。


「かっこよくて……それでいて、とっても可愛い」


耳の奥まで真っ赤になってるのがわかる。

顔が熱い。でも、視線を逸らせなかった。


「俺は、その人が……大好きなんだ。心の底から、愛してる。

 ――その人の名前はな、『涼』っていうんだ」


世界が一瞬、止まった気がした。


爆音のような心音が、耳の奥で響いている。

いや、違う。世界じゃない――俺の心が、爆発したんだ。


(うそ……俺……? 俺…… 悠真が好きな女性って……俺!?)


悠真の言葉が、ゆっくりと、でも確実に、胸の奥へ染み込んでいく。

熱くて、苦しくて、でも、どうしようもなく嬉しかった。


「涼。……俺と付き合ってほしい。」


その言葉と同時に、瞳から涙があふれ出した。

今まで流してきたどんな涙とも違った。


悲しくない。苦しくない。

あたたかくて、嬉しくて、心の底からこみ上げる涙。


「だって……俺……男で……体は……ぐちゃぐちゃで……」


震えながら、どうしても拭いきれなかった不安を吐き出す。


けれど、悠真は笑った。

それは、すべてを受け止めるような、どこまでも優しい笑顔だった。


「男とか女とか、そんなの関係ない。俺は、お前の“全部”が好きなんだよ。

 声も、表情も、仕草も、涙も――全部、俺の大切な『涼』だ」


胸の奥で、何かがパキンと砕けた。

けれど、それは壊れたんじゃない。

閉じ込めていた想いの蓋が、音を立てて開いたんだ。


気がつけば、俺は悠真の胸に飛び込んでいた。


涙を流しながら、でも、笑ってた。

こんなにも自分の気持ちをまっすぐに伝えたのは、生まれて初めてだった。


「俺も……俺も悠真が好き!!俺と…付き合ってくださいっ!!」


その胸に、顔を埋めながら、伝えた。

愛しい人の体温が、背中に沁みていく。


生まれてはじめて、「ありのままの自分」で、愛された気がした。


……そして、すっかり空気になっていた従姉妹が、小さくぼそっと呟く。


「……いやちょっと待って、何これ、何この青春マンガ……」


そっと手を合わせ、謎の合掌。


悠真と涼は、顔を見合わせて――吹き出した。


笑いながら、手をつないで、もう離さないと心に誓った。

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