第11話:すれ違う想いとすくい上げる手
それから数日、俺は学校をサボっていた。
部屋のカーテンは閉めっぱなし。
スマホの通知はすべて切って、ただただ、布団の中に潜っていた。
(……どんな顔して、悠真に会えばいいんだよ)
呼吸が浅くなる。
頭ではわかっていた。こんなふうに逃げてばかりじゃ、何も変わらないって。
でも、体が言うことをきかない。
目を開けるのも、立ち上がるのも、息を吐くことすら、重たかった。
それでも――
どうにか這い出して、洗面台の鏡と向き合った。
腫れぼったい目、ぼさぼさの髪、青白い顔。
こんなの、自分じゃないみたいだ。
それでも無理やり顔を洗って、パーカーを羽織り、家を出た。
春の風はまだ冷たさを残していたが、陽射しはやさしかった。
だけど――心の中には、どんなに陽が射しても届かない影があった。
(好きだよ……俺は、悠真が)
どれだけごまかしても、否定しても、消えてくれない。
悠真のことが、好きだった。
友達とか、親友とか、そんな言葉ではもう誤魔化せない。
だけど、悠真にとって俺は……ただの“元男”。
ただの幼馴染で、昔のままの親友で――それ以上には、なれない。
あの日、女優の告白を断ったとき、正直、嬉しかった。
でも、そのあとの言葉が――
『……はい。ずっと、大切に思っている人がいます』
その一言が、俺の胸をぐちゃぐちゃに引き裂いた。
(俺じゃなかったんだ……)
心のどこかで、期待していた自分が情けない。
わかってたはずなのに。なのに――
(……ダメだ)
頭を何度も振って、どうにか追い払おうとしたけど、
足取りはどんどん重くなっていった。
気づけば、公園まで歩いていた。
誰もいないベンチに腰を下ろす勇気もなく、ただ通り抜けようとしたとき――
前方から、誰かが歩いてくるのが見えた。
――悠真。
一瞬で心臓が跳ね上がった。
時間が止まったみたいに、呼吸すら忘れそうになる。
本当は、駆け寄って名前を呼びたかった。
「久しぶり」って笑いたかった。
でも、その一歩は出なかった。
なぜなら――悠真の隣には、女の人がいた。
(……っ)
ふたりは親しげに話していた。
悠真が笑っている。その表情を見たのは、あの日以来だった。
胸が、ぎゅっと締め付けられる。
(……やだ……やめてくれ……)
まるで、心臓を素手で掴まれているみたいだった。
足が、動かなくなる。地面に縫いつけられたみたいに、前に進めなかった。
そして、最悪のタイミングで――目が合った。
悠真の瞳と、俺の視線が交錯した。
その瞬間、身体が反射的に反転していた。
(逃げなきゃ……)
今、悠真に会ったら――俺、壊れる。
余裕なんてない。顔を見た瞬間、泣き崩れてしまいそうだった。
後ろから、声が飛んでくる。
「涼! 待て!!」
たった一言。それだけなのに、涙がにじむ。
どうしてこんなにも――声が、心に刺さるんだ。
(ちがう……ちがうだろ。あの人が……悠真の“好きな人”なんだろ……)
心の中で、何かが音を立てて崩れていく。
走った。
でも、身体は正直だった。
あの手術のあと、ろくに体力も戻っていない。
数十メートルも走らないうちに、足がもつれて、膝が落ちた。
「涼ッ!」
すぐに後ろから、腕が伸びてきた。
手首を、強く――でも優しく、掴まれる。
「離せっ! はなせよぉ!!」
もはや半泣きだった。
声も震えて、言葉も形にならない。
「……涼、聞けよ。お前、何か勘違いしてるぞ!」
悠真の声が、追いかけてきた風みたいに背中から届く。




