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カードゲーム世界に転生したけど所持デッキが激ヤバすぎる件  作者: 銀猫


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8/21

青春の1ページ目は思ったより長く

 別に、部活に入りたくない訳では無い。

 むしろ入りたいぐらい。部活で同じ仲間と共にカードに打ち込める。そんな素晴らしい環境他にあるだろうか?


「気持ちはありがたいんだけど…」


 ただ、それはなんのしがらみもない場合。


「デッキ持ってないんだ」


 虚無属性とカードモチーフ。異質×異端のダブルコンボデッキを、こんな場所で軽々使用出来るはずもなく。

 少なくとも前者はいずれ現れるであろうラスボスあたりが使う属性のはず。ラスボスを倒した後なら世界に普及されて使えそうだが、それまではあまり人の目に入れたくない。

 カードモチーフの時点で人の目に入れたくはないのだが。


「それなら大丈夫!ウチ達の貸してあげる!」


 なんと素晴らしい善性だろう。泣きたくなるほどに眩しい。

 だが悲しいかな、ウツロは他のデッキが使えない。他のデッキを使おうとすると、あら不思議。バトルの直前で元のデッキと入れ替わっている。

 好かれすぎているのか、あるいは呪いなのか。どちらにせよ他のデッキでバトルができない。


「これだ!って感じるデッキ以外使う気になれなくて……」


 ここまで断るのは心苦しいが、流石に部活に入ると誤魔化すのが大変すぎる。期待してくれているマリアやハルカには悪いが、NOと断りを入れる。

 やんわりと連続で断り続ける事で、マリアとハルカは入るつもりがないんだと諦めかけるが、


「でも好きなんだろ?ステラバトル」


 ホムラだけは、それでも手を差し伸べる。


「それは……」

「好きじゃなきゃ、態々ビクトリーに通わないって」


 ホムラの言葉が、クリティカルに突き刺さる。

 その出目ことばを、ウツロは否定できない。そう簡単にバトル出来なくても、持てるデッキがヤバすぎても、ステラバトルを嫌いになんてなれない。

 古守ウツロは、どうしようもなくカードゲーマーで、カードゲームを愛しているのだから。


「……観戦だけで良いなら」


 目の前に差し出させる、ホムラの手。


「問題無し!」


 満面の笑みで即答するホムラ。

 諦めてホムラの手を掴む。本日二度目の握手だ。

 その光景を見て、女性陣2人はお互いに顔を見合わせてくすりと笑う。


「よろしくな!ウツロ、マリア!」

「もう!勝手に呼び捨てにしない!」

「ふふ、マリアで良いですよ」

「俺も呼び捨てで良いよ」


 底抜けな元気と明るさに、どんどん周りを巻き込んでいく影響力。ホムラの周りに人が集まる理由が分かった気がした。


「じゃあウチもハルカで!よろしくねウツロ君、マリアちゃん」

「よろしくお願いします、ハルカさん、ホムラ君」


 一通りの挨拶が終わると、ハルカがスマホで何処かに連絡を入れる。それから数分後、ドタバタと新たな足音と共に1人の生徒が屋上に来た。


「し、新入部員が見つかったって本当かい!?」

「もー!部長落ち着いてください!!」


 緑がかった天パに丸眼鏡をかけた、どこかオドオドした雰囲気を纏う男子生徒。


「マリア・ヘルメスちゃんに古守ウツロ君。2人とも入部してくれるって!」


 ハルカの紹介を聞いて、眼鏡の男子生徒は右手で顔を押さえて天を仰ぐ。手の隙間から雫がこぼれ落ち、泣いているのだと分かった。


「まさか、本当に部員が揃うなんて……」

「部長!泣いてないで自己紹介してください!」

「うぅ、まだ部長じゃないんだけどね、うん」


 ハルカに促され、男子生徒はポケットから取り出したハンカチで涙を拭うと、赤く充血した瞳を細めて優しく笑う。


「僕は3年生の森林もりばやしダイチ。一応部長っていうことになるのかな。よろしくねマリア君、ウツロ君」

「部長!早く会長の所に行こうぜ!」

「そ、そうだね。ホムラ君のいう通りだ。善は急げってやつだね」


 ダイチが先頭に立ち、ホムラとハルカが後を追って屋上を出ていく。小走りで出ていく3人の後を、少し遅れてマリアとウツロが着いていく。

 ダイチ達が目的地であろう教室の前で止まった。緊張した面持ちで、ダイチが扉に手をかけ、中に入る。教室のプレートを見ると、そこには生徒会室と書かれていた。


「何の用だ、森林三年」


 教室に入ると、厳格な声音が響く。

 声の主は、黒い髪をオールバックに固め制服をこれでもかとキッチリ着込んだ強面の男子生徒。


「部活申請に来ました。海鮫うみざめ会長」

「……なるほど、まさか本当に部員を揃えるとはな」


 生徒会長、海鮫アラキ。その強面な顔でダイチを含め、ステラバトル部仮のメンバーを見渡す。


「メンバーは揃いました。許可をお願いします」

「何度も言ったはずだ森林三年、私がステラバトル部の設立を許可する事はない。諦めろ」

「いいえ、諦めません!」


 初対面ではあれだけオドオドしていたダイチだったが、今ここでは強面の生徒会長と正面をきって視線をぶつけ合い火花を散らす。頼り甲斐のある三年生そのものだ。


「アレからもう3年ですよ!」

「まだ3年なのだ」


 ダイチ部長とアラキ会長の討論に、隣のマリアだけが着いていけてない。マリアはウツロの袖を小さく引っ張り、小声で話しかける。


(これ、何の話なんです?)

(3年前の事知らない?)

(残念ながら)


 置いてけぼりのマリアに簡単に説明する。

 要は3年前にイカサマが行われたのだ。それも前世でいう甲子園のような大きな大会で。

 綺羅星高校は有数のステラバトル強豪校だったが、当時の顧問が実績の維持の為に大会運営の一部を買収、不正な方法で対戦相手のデッキリストの入手、対戦直前に相手のデッキを確認してデッキの組み換えなどを指示していた事がバレ世間から大バッシング。当然顧問はクビになりステラバトル部は廃部になった。


「世間はまだ3年前の事を完全に許した訳では無い。バッシングが再燃する可能性もある。そうなった時に直接矢面に立つのは私や学校ではなく、君達なのだぞ」

「覚悟ならあります」

「ウチもです」


 ホムラとハルカが一歩前に出て、ダイチ部長に並び立つ。真剣な顔から彼等の覚悟が伝わってくるようだ。


「……君はどうだヘルメス1年。事件の存在すら知らなかったようだが」


 アラキ会長がマリアに問う。どうやら内緒話がバレていたらしい。

 確かに、この街に住んでいれば誰もが知っている事件をマリアは知らなかった。それも当然で、マリアがこの街に来たばかりだからだ。

 その事を知らずに、事件の事を知っている前提で勧誘したつもりだったホムラ達は、マリアに何の説明もないままにここまで連れて来てしまった。そのマリアに覚悟を問う。


「問題ありません」


 その問いに、マリアは笑って答えてやる。


「ワタクシ、逆境の方が燃える質なんです」


 アラキ会長に、満面の笑みで答えるマリア。やはり生粋の勝負師なんだなと再確認する。


「君はどうだ古守1年」

「ここにいる時点で、答えはでてますよ」


 事情を知らなかったのはマリアだけ。そのマリアも笑いながら覚悟を決めている。ならば、事情を知りながらもこの場に立っている他のメンバーの答えなどとうに決まっていた。


「……だとしても、やはり許可はできん。団体戦はともかく個人戦なら部活関係なく出場できるのだから、そちらを」

「心配してくれてるのは分かります」


 ダイチ部長がアラキ会長の言葉を遮る。


「僕等だって理解してる。これがどれだけ大変なのかって、それでも出たいんですあの夢の舞台に」

「……」

「もう、君に守られてばかりだった僕じゃないんだ、あっくん」


 優しく、決定的に言い放たれたある種の決別の言葉。ダイチとアキラ、2人だけしか知り得ない感情が揺れ動く。


「……ならば証明してみせろダイチ」


 そう言って、アラキ会長が取り出したのはデッキ。取り出したデッキを、ダイチに突きつける。


「一度だって俺に勝てた事のないお前が、何ができるのかを」

「見せてやるさ。もう昔の弱虫だった僕じゃないって事を!」


 同じく取り出したデッキを突きつけるダイチ。

 ステラバトル部の行方は、2人のバトルで雌雄を決する事となった。

 後は2人の戦いを見守るだけ、という状況でマリアのスマホが震える。スマホを確認したマリアはハルカの袖を小さく引く。


「申し訳ありません、この後用事が出来てしまったので今日は先に帰らせてもらいます」

「え、あ、うん。気をつけてね」

「活動場所が決まったら、また教えてくださいね」


 まるで部活が設立すると確信している言い方。


「まだ勝負始まってないけど…」

「大丈夫、きっと部長が勝ちますよ」


 自信満々で答える。そこに理屈はなく、けれど直感でマリアは感じる。


「ワタクシ、ここ一番の賭けには負けた事ないんです」


 きっと良い方向に転ぶと、マリアの勝負師の勘が告げている。

 だから、ここは心配いらないと勝負を見ずにマリアは帰ることにした。


「ウツロ君、借りていきますね」

「え?」

「うん、またね」


 何故かウツロ事巻き込んで。


**********


 ウツロの腕を掴んだマリアは、話も聞かずにグングンと進んでいく。靴を履き替え、校門をくぐり、街に出る。


「なんで俺まで…」


 学校から離れ辺りに学生が見えなくなると、ようやく腕が解放された。


「オレの上司がウツロと会いたいって言い出してな。すまんが、ちょっと付き合ってくれ」


 お嬢様モードから一転。素に戻ったマリアが答える。

 先導するマリアに着いていくと、どこか見覚えのある道のりになっていく。


「俺と…?」

「この前の件について聞きたい事があるんだと」


 聞きたい事、と言われて嫌な予感がヒシヒシとする。

 逃げ出そうか?なんて事も思い浮かぶが、クラスで隣の席のやつからどうやって逃げればいいのか。

 ウンウンと頭を悩ませていると、目的地に着いてしまった。


「お疲れ様ですマリア君」

「お疲れ様です長官」


 着いた場所は、あの夜マリアと出会った公園。その中央に1人の男性が立っていた。

 片手にアタッシュケースを持ち、灰色のコートに身を包んだ初老の男性。金色の髪が日本人でない事を伺わせる。マリアに長官と呼ばれた男が朗らかに笑いながらウツロ達を迎え入れる。


「君がウツロ君ですね。初めまして、私マリア君の上司のジョン・タイラーと申します」


 男性はにこやかに笑う。お堅い職業とは思えない人当たりの良さ。こうして接しているとただの優しいおじさんにしか見えない。


「長官、ウツロに話っていったい」

「その前にマリア君にお願いがありまして」


 要件を聞こうとしたマリアに、ジョンは胸ポケットから折り畳まれたメモ用紙を取り出してマリアに渡す。


「出かける前におつかいを頼まれたのですが、どうもまだここの土地に慣れてなくてですね。代わりに買いに行ってはくれませんか?勿論お釣りは結構ですので」


 そう言ってあらかじめ用意していたのか、同じポケットから1万円札を取り出すと、それもマリアに渡す。

 マリアは渡されたメモ用紙を見て怪訝な顔をするも、ジョンの追加のお願いします、という言葉に渋々頷いて歩き出す。


 公園に今日できたばかりの友人、その上司と二人きりというなんとも気まずい状況が出来上がった。

 勿論、こんな状況偶々出来るはずもない。


「マリアを外さないといけない要件ですか?」


 挨拶の時とは打って変わり、緊張感と警戒心をマックスでジョンと向かい合う。対するジョンは、未だ柔和な表情のまま警戒すらしていない。

 まるで仲のいい友人との団欒のような、そんな口調で話しかけてくる。


「天乃河ヒカリさん」


 出てきたのは、意外な名前。


「天の川グループと結社が行った人工精霊計画。その被害者。計画の末に暴走した彼女を止める為の作戦に、私達も手を貸していたんです。裏方でしたがね」


 降り落ちる桜の花弁。春を告げるファンファーレの一枚を、ジョンは指で掴み取りながら覗き込むように見つめる。果たして、彼はそこに何を見ているのか。


「彼女を助けたのは貴方ですね、ウツロ君」


 それは問いではなかった。

 すでに回答は出ている。その回答を、ただウツロに突きつける。回答の成否も関係ない。なにしろ既に確信しているのだから。ジョンの視線がそれを物語っている。


「貴方を確かめなければいけない。だから、すみません。マリア君が帰ってくるまで時間がありませんので、少しだけ強引にいきます」


 そう言ってポケットから取り出したのは、最近よく見る黒い結晶。間違いない、アレは闇の結界を作り出す宝石。


「それ…!」


 ウツロが反応するよりも早く、闇が二人を覆う。

 結界が二人を覆うと、今度は持っていたアタッシュケースの手元に付いてあるスイッチを押す。

 かつて見た光景と同じ事が起こる。つまり、結界を上書きして白く塗りつぶす。


「それでは始めましょうか」


 現れたフィールドにデッキを置くジョン。同じフィールドが、ウツロの前にも現れる。


「あんたと戦う理由はないんだけど」

「えぇ、ですからこうして作ったんですよ」


 勝者と敗者を決めるまで、この空間は決して壊れない。

 ならば、戦う以外に選択肢はなく。


「大丈夫、ただのバトルですよ。どこにでもあるね」

「……仕掛けてきたのはそっちだからな」


 そこまで見たいなら、見せてやるとしよう。

 既に何かしらがバレており、何かの確信を掴んでいるのなら、もう隠す必要もない。今はただ、目の前の挑戦者に見せつけるだけだ。

 古守ウツロのバトルを。


「フィールドセット、海底都市ルル・イエ」

「フィールドセット、次元要塞バルクーエ」

『古守ウツロ 20』VS『ジョン・タイラー 20』


 先行はジョン。


「私のエナジーチャージ、ターンエンド」


 ジョンのエナジーゾーンに置かれたのは青色。マリアと同じドローを得意とする水属性の使い手のようだ。


「ドロー、エナジーチャージ、ターンエンド」


 エナジーゾーンに置かれる7種類目の属性。灰色のエナジーカードを一枚エナジーゾーンに置きターンを終了する。

 お互いにゆっくりとした動きだし。


「エナジーチャージ、水2エナジー、次元警察マーシーを召喚」

『次元警察マーシー 1/1』

「ターンエンド」


 SFチックな、機械のスーツを身に纏い、ネオンの光を発する女警察が召喚された。2つの銃をウツロに構える。


「エナジーチャージ、ターンエンド」


 対するウツロはまだ動かない。

 焦った表情を浮かべていないところを見ると、手札事故というわけではないようだ。


「私のターン、エナジーチャージ、水3エナジースペル次元観測を発動。デッキの上から2枚を確認し、そのうち1枚を手札に、残りをデッキの下に」


 デッキの上から2枚を確認し、一枚を手札に、残りをデッキの下に置く。

 手札を整え、後はガラ空きのウツロに攻撃しようとしたが、冷たいものが背中を伝う。


「ーー見たな、未来を」


 デッキとは、バトラーの未来である。ならばデッキを見るという事は、未来を覗き見るという事。

 時空に住まう怪物は、時を見る不届者の匂いを決して忘れない。どれだけ時が離れていても、絶対に追いかけてくる。


「来い、時空の猟犬」

『時空の猟犬 3/3』


 黒い煙が地面から噴き出す。それはだんだん形になっていき、現れたのは黒い鱗に覆われた犬。いや、犬の形をした怪物だ。見た目は確かに犬の形をしているが、人の感覚がソレを犬と認めない。本能が警鐘を鳴らす時空間に住まうバケモノ。

 猟犬の口から伸びる針のような舌が、獲物を探すようにユラユラと揺れている。

今日のカード

水3エナジー『次元観測』スペル

デッキの上から2枚を確認する。その内の1枚を手札に加え残りをデッキの一番下に置く。


虚無8エナジー『時空の猟犬 3/3』

相手がカードの効果でデッキを確認した時、手札墓地にあるこのカードをコストを払わずフィールドに出しても良い。

このカードが相手モンスターと戦闘する時、そのモンスターを−0/3する。この効果で相手モンスターを破壊した時、このカードを+1/1する。

このカードが相手プレイヤーに与えるダメージは1となる。このカードが相手プレイヤーにダメージを与えた時、相手プレイヤーの体力の上限を-3する。

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