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カードゲーム世界に転生したけど所持デッキが激ヤバすぎる件  作者: 銀猫


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トップ解決、私の好きな言葉です

 バトルは、マリアが優勢で進んでいった。

 男が出鼻を挫かれたのもあるが、単純に男よりもマリアの方が強い。プレイングの腕は勿論だが、何より勝負事の嗅覚がずば抜けている。相手が仕掛けようとすれば受けの体勢に入り、相手が動きを止めれば容赦なく攻める。

 洗練されたプレイングとはまた違う、本人が持つ圧倒的なセンス。


「見習いディーラーで攻撃」

「黒血薔薇でブロック!」

『見習いディーラーラオ 1/2』→『黒血薔薇 3/1』


 『見習いディーラーラオ』が男に向かってトランプを投げる。ドス黒い薔薇が男を守るようにトランプを受け止めると、トランプが爆発を起こして薔薇は粉々に砕け散った。その砕けた花弁の一部が、『見習いディーラーラオ』に突き刺さり、『見習いディーラーラオ』もまた塵となって消える。


「賭博師ラックで攻撃」

「ぐっ!」

『賭博師ラック 3/2』

『男13→10』


 黒血薔薇が破壊された事で、男のフィールドは空っぽ。守るモンスターがいない所に、マリアのモンスターの攻撃が突き刺さる。

 

「賭博師ラックの効果、ラックが相手にダメージを与えた時、カードを一枚ドローする。宣言は賭博竜ラッキーセブン」

 

 『黒血薔薇』は非常に厄介な効果を持っている。出来るだけ早く処理するために、ダメージを与えると1ドローする『賭博師ラック』とダメージを与えるとデッキトップを確認できる『見習いディーラー』。この2枚を天秤にかけてどちらかと道連れにさせた。

 通ればフィールドの解放が早まるコンボ。このコンボの破棄と引き換えに相手のテンポを崩す判断。


「Check、賭博師ナイン。オレは1ダメージを受けてターンエンド」

『マリア・ヘルメス 17→16』


 男の体力は既に半分。このままいけばフィールド解放を待たずに決着がつく。マリアは早めに勝負を片付ける判断で動くようだ。


「あぁ、クソが…」


男のターン。男は項垂れでぶつぶつと言葉を漏らし、ドローをしようとしない。代わりに、懐をゴソゴソと漁る。


「おい、堂々とイカサマか?」

「まだ試作品だが、仕方ねぇ…」


 マリアの問いかけを無視して、懐から取り出したのは四角い機械の塊。その中央にはポッカリと空いた穴。


「何を…!?」

 

 マリアの抑止も言い終わらないうちに、男は黒い宝石を機械にセットする。瞬間、機械からバチバチと黒い稲妻が走り男と空間を蹂躙する。


「ぐおぉぉぉぁぁぁぁーーーー!?」


 黒い稲妻が走った空間は、白い壁を削り元の黒い空間に書き換えられていく。


「これは…!?」


 白く明るかった空間は、元の重々しい黒い空間に。

 異変を起こした男は、黒いオーラを身に纏い、血走った目で高らかに笑う。


「くは、くははははは!!最高だ!!力が漲る…!!」


 明らかに変わった様子。見ているだけでも感じる圧。はたして対面しているマリアには、どれだけの負荷がかかっているのだろう。

 

「ドロー」


 男が山札からカードを引く。それだけで旋風が巻き起こり、マリアの体を少しだけ押しのける。


「大地6エナジー、肉植獣ローズレオを召喚」

『肉植獣ローズレオ 4/5』


 現れたのは、一体の獅子。その体は半分が樹木や花に覆われており、体に巻かれた何本もの荊棘の生えた蔦が、触手のようにウネウネと獲物を探している。何より目を引くのが、その鬣。フワフワとした毛はそこになく、真っ赤に染まった花弁が鬣の代わりに獅子の顔を彩っている。


「ローズレオの召喚時効果。相手モンスターを一体指定し、このカードとバトルさせる」


 獅子が吠えると、蔦が地面に突き刺さる。

 賭博師ラックの下から、槍の如く蔦が飛び出し、賭博師ラックの体をズタズタに切り裂いた。その内の一本が、マリアの顔スレスレを通過する。

『賭博師ラック 3/2→3/0』

『肉植獣ローズレオ 4/5→4/2』


「つっ!?」


 咄嗟に顔を逸らしたマリア。だが、その頬には一本の赤い筋が出来ており、そこから赤い雫がゆっくりと垂れていく。

 機械で無効化していた筈の実体化、それが復活している。


「ローズレオの効果。このカードが戦闘で相手モンスターを破壊した時、このカードの体力をプラス2する」

『肉植獣ローズレオ 4/3→4/5』

 

 賭博師ラックに突き刺さった蔦が、ドクンと脈動する。流れる血液を吸い取り、蔦は赤く染まっていく。獅子が大きく吠えると、血液を抜き取られ干からびた体が塵となって消えた。


「制御権を奪い返された…!?貴様、何を…!?」


 マリアの足元に置かれたアタッシュケースは、今も駆動音を鳴らして稼働している。故障でないのなら、この空間を奪い返された理由はやはり、先ほどの機械によるもの。


「精霊だよ、精霊」


 問いかけられた男は、ケラケラと笑う。気分がハイになっているようで、ペラペラと情報を喋り始めた。


「こいつにはな、精霊共から抽出したエネルギーがたんまり詰まってんだ。そいつを使って宝石をブーストしてやれば、この通りよ!!ちゃちな機械なんざ屁でもねえ!体に漲るこの力!!こいつさえあれば俺ァ誰にも負ける気がしねえ!!」


 高らかに笑う男の手にある四角い機械。闇の宝石が収められたその装置こそ、最近のカード狩りの目的であり成果。抽出した精霊の力を使った、ドーピングによる力の大幅なブースト。

 

「ターンエンドだ。さぁ、せいぜい足掻いて俺を楽しませろ」


 ……ここまでか、と。ウツロは懐に手を伸ばす。取り出すのは勿論ウツロのデッキ。

 この勝負はマリアに任せるつもりでいた。勝負の途中で割って入るのは、無粋にすぎる。だが、これはダメだろう。明らかな外部ツールによるドーピングに、命に関わる実体化。無粋は承知だが、マリアの命には代えられない。


 ウツロが手に持つデッキがオーラを纏う。暗く暗く、何処まで堕ちていける暗闇と、道標の如く光る星々。夜が一雫、ドロリと垂れ落ちる。

 ーー後はこのまま、力を解放すればいい。


「大丈夫」


 マリアの声。


「オレは、負けない」


 背に守るウツロを安心させる言葉。勝利を諦めていない力強い声音だ。背中越しに伝わってくる思いに、ウツロはデッキに纏わせていたオーラを消し去る。

 一人のバトラーとして、勝利を諦めない彼女を邪魔する理由があるだろうか。もし、命が危なくなれば、その時に割って入れば良い。今は、彼女の戦いを見守ろうと、静観する。


 流れは変わった。

 スポーツでいう、攻守が入れ替わったみたいに、あれほど優勢だったはずのマリアが押され始めた。

 マリアの攻め手はとことん潰され、男は常に都合よく解決札を引いてくる。一つ、また一つ。マリアの肌に傷が増える。

 マリアはすぐに戦略を方向転換。ダメージを前提にひたすらにデッキを掘り進めた。リスク覚悟でフィールド解放に舵を切り、大量の体力と引き換えに解放一歩手前まで来ている。


「俺のターンだ」


 男の手に闇が集う。

 デッキからカードを引く。引いたカードを見て、男はニヤリと笑う。それは勝利を予感した勝者の笑み。


「エナジーチャージ、大地9エナジー!!」


 一際高コストのカード。モンスターの召喚に合わせて地面が割れる。


「混合肉植獣ガーデンキマイラを召喚」

『混合肉植獣ガーデンキマイラ 2/10』


 地面から大量の植物が生える。植物は互いに絡み合い、1つの群生体として樹木のように聳え立ち、その表面にいくつもの顔を作る。花で出来た獅子の顔であり、樹木で出来た山羊の顔であり、枯れ葉で出来た鷲の顔。


「フィールド解放ォ!解放条件は自分ターンに体力10以上のモンスターがいる時!」


 男のフィールドが解放された。


「暗黒樹林の効果ァ!自分の体力5以上のモンスターを好きな数破壊し、破壊したモンスターと同じ数の相手モンスターを破壊する!」


 暗黒樹林は平等に養分を求める。捧げられた3体のモンスターは養分として、鋭い枝や棘に串刺しにされ、栄養を奪われ朽ち果てる。

 犠牲は平等に。捧げられた贄と同じ数、マリアのフィールドから奪われる。3体のモンスターが破壊され、両者のフィールドの上に立つのはガーデンキマイラのみ。

 

「ガーデンキマイラの効果ァ!自分のターン中、破壊された自分のモンスターの数だけこのカードの体力を+2する!」

『混合肉植物ガーデンキマイラ 2/10→2/16』

「ガーデンキマイラの覚醒効果!このカードの体力が+される度に相手に2ダメージ!!」


 枝が槍のようにマリアの体に切り傷をつけ、蔦は鞭のようにしなりマリアの体を容赦なく打ちつけた。華奢な身体では受け止めてきれず、地面に倒れる。


「っぁ…!」

『マリア・ヘルメス 7→1』


 腕にアザを作りながら、それでも目に戦意を宿し立ち上がる。

 その姿を、男はなんともつまらなさそうに見下ろす。


「骨の一本は折ったはずだったんがなぁ、完全には制御権取り返せてねえのか」


 思った結果ではなかったが、マリアは満身創痍。今にも倒れてしまいそうだ。フラフラと揺れる身体を抑える姿を見て、男は下卑た笑みで嘲笑う。


「俺はこれでターンエンドだ。さあ引けよ」

『マリア・ヘルメス 1』

『男 8』


 マリアに残された体力は1。フィールド効果でドローするカードを当てなければ、負け。


「どうした?引けよ」


 仮に当てたとしても、カオスキマイラを除去出来なければ負け。

 ゆっくりと、マリアはデッキに手を伸ばす。デッキトップの操作は出来ていない。正真正銘の運頼み。


「今更怖くなったか?みっともなく神頼みでもして俺を笑わせてくれよ!どうせもう負けるんだからさァ!!」

 

 男は勝ちを確信している。自分のエースを使ったコンボが決まり、相手のライフは風前の灯。後はこのまま自爆するのを特等席から見ているだけ。


「ーー神頼み?」


 そう思っているのは、男だけ。


「バカ言うな」


 瞳に燃える戦意は、未だ勝利を諦めず、


「オレは、神にも悪魔にも祈らない。」


 その右手は神に祈るためではなく、未来を掴むために。


「例え悪魔だろうが神様だろうが、オレの運命は誰にも委ねない!」


 その瞳は悪魔に魅入られるためでなく、勝利を見定めるために。


(当てるだけでは負ける。勝つなら、アレを引くしかない)


 引くカードを当てるんじゃない。引くべきカードを引くだけ。勝つための、最後のピースを。

 ならば宣言するカードは、1つ。


「オレのターン、ドロー!!」


 マリアのカードを掴む手にオーラが纏う。炎のように荒々しくも、水のように澄んだ蒼色。


「こい、伝説の賭博師ジャック・D!!」


 ーーデッキとは、バトラーの未来である。

 限られた未来、定められた未来、思い描いた未来。

 バトラーは自分が思い描く未来をデッキという形に落とし込む。その先にある勝利を得るため、毎ターン毎ターン、可能性の欠片を集めていく。

 自分で思い描き、自分で定めた未来ならば、神頼みなど必要なく。


「Check」


 信じるべきは、己のデッキのみ。


「ーー伝説の賭博師ジャック・D」


 最後まで勝利を信じたバトラーに、デッキが答える。その手に掴む未来は、他の誰でもない。自分で掴んだ勝利のピース。


「フィールド解放。ダイスオブハート!!」


 ーー神ではなく、己を信じた者にのみ、勝利の女神は微笑むのだ。


「ダイスオブハートの解放時効果!デッキの上から2枚を確認、内1枚を手札に、残りをデッキの上に」


 ダイスオブハート。その解放効果の真髄、マリアはダイスオブハートの効果でドローした時、相手に1ダメージを与えられるようになった。


「エナジーチャージ!水3エナジー!スペル『賭博師の仕掛け(ギャンブル・トリック)』!デッキの上から3枚を確認!その後、好きな順番でデッキの上と下に入れ替える」


 3枚のカードを確認。内2枚をデッキの上に、1枚をデッキボトムに送る。


「水7エナジー!こい!伝説の賭博師ジャック・D!」

『伝説の賭博師ジャック・D 7/7』

「ジャック・Dの覚醒!このカードの召喚時、デッキの上から3枚をオープン!」


 コートに身を包み、帽子を深く被った渋い男が、3枚のトランプを頭上に放ると、マリアの頭上に3枚のカードが裏側で現れる。


「オープンしたカードの内、最も小さいコスト以下のコストを持つ相手モンスターを一体手札に戻す」


 1枚目、コスト7支配人アルド・バレン


「オープンしたカードが全て同じコストだった場合、そのコスト以下の相手モンスターを全て手札に戻す」


 2枚目、コスト7賭博王キングオブA


「オープンしたカードが全て7コストだった場合、相手カードを7枚まで破壊し、相手プレイヤーに7ダメージを与え、オープンしたカードの内1枚を0コストで使え、残りを好きな順番でデッキの上に戻す」


 デッキの上に仕込めたのは2枚。最後のカードはマリアの運命。

 3枚目、賭博龍ラッキーセブン。コストはーー


「ーーJackpot」


 7。


「ジャック・Dの効果!ガーデンキマイラを破壊!」


 ジャック・Dがトランプを投げる。7と描かれたカードが3枚、ガーデンキマイラの体に突き刺さり、ガーデンキマイラ事爆発する。

 爆発の余波が男に振りかかり、素肌に火傷を負わせる。


「ぐっ!?そんなバカな…!」

『男8→1』

「賭博龍ラッキーセブンをコスト0で召喚」

『賭博龍ラッキーセブン 7/7』

「賭博龍ラッキーセブンの効果、このカードの召喚時、自分フィールドに7コストのモンスターがいる時1枚ドローできる」

「なっ…!?」


 ジャック・Dの効果により、使わなかった2枚のカードは好きな順番でデッキの上に置かれている。


「言っただろ。Jackpotだ」


 フィールド、ダイスオブハートの解放効果。男に、1ダメージが与えられる。


「くそぉーー!!!!!!!!!!」

『男1→0』


 蒼い雷が走り、男を襲う。

 実体化の影響で、大きな衝撃となり男の意識を刈り取りながら、フィールドの崩壊と共に大きく後ろに吹き飛ばす。


「あっ…」

 

 限界だったのだろう。身体中に怪我を置い、打ちつけられた身体が地面に倒れる。その寸前に、ウツロが体を支える。激闘を制した勝者を地面に横たわらせるわけにはいかない。


「カッコ悪いところ、見せたな…」

「どこが、かっこよかったよ」

「そうか…」


 マリアに肩を貸して公園のベンチまで運ぶ。

 ベンチにもたれかかったマリアは、スマホでどこかに連絡すると、安心したように一息吐く。


「ふぅ、こっちはもういいから、お前は帰れ」

「そんな状態でほっとけって?」

「直ぐに応援が来る。さっさと帰れ」


 しっしっと追い払う彼女の言葉を素直に受け入れ、帰路に着く。怪我人を放っておくわけにもいかないが、彼女の肩書き的に近くにいると不味いこともあるのだろう。

 

 満天の星空の元、コンビニ袋を持って家に帰る。アイスを買い忘れた事を思い出したのは、家に帰った後のことだった。

 このもやもやとした気分を抱えたまま、明日の入学式を迎える事に、ウツロは思わずため息を吐く。アイスは入学式の後のお楽しみだ。


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 季節は春。入学式が終わり2週間ほどたった。高校生の称号が少しだけ馴染んできた頃。


「えー、前にも話しましたが、入学前に事故にあって今日から合流する事になった。仲良くしてやってくれ」

「入学前に少し怪我をしてしまいまして、遅れましたが今日からこのクラスで共に過ごす事になります」


 膝下まで下ろしたスカート。ピッチリ閉じられたシャツのボタンに、皺一つない制服。お上品な言葉遣い。

 気品溢れる笑みを浮かべる彼女と、目が合った。


「ワタクシ、マリア・ヘルメスと申します。どうぞ、よろしくお願いしますね」

今日のカード


大地9エナジー『混合肉植獣ガーデンキマイラ』2/10

自分のターン中に自分のモンスターが破壊された時、このカードの体力を+2する。

『覚醒』

自分フィールドに大地属性のフィールドが解放されている時、以下の効果を持つ。

このカードの体力が+された時、相手プレイヤーに2ダメージを与える。


水7エナジー『伝説の賭博師ジャック・Dダイス

『覚醒』

自分フィールドにダイスオブハートが解放されている時、以下の効果を持つ。

このカードの召喚時、デッキの上からカードを3枚をオープンする。

オープンしたカードの内、最も少ないコスト以下の相手モンスターを一体手札に戻す。

オープンしたカードが全て同じコストだった場合、そのコスト以下の相手モンスターを全て手札に戻す。

オープンしたカードが全て7コストだった場合、相手フィールドのモンスターを7枚まで破壊する。その後、相手プレイヤーに7ダメージを与える。その後、オープンしたカードの内1枚をコストを支払わずに使用してもよい。

残ったカードは好きな順番で山札の上に置く。

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