光は虚と混ざり、新たな翼となる
天翼の守護者ハクア。ヒカリを守る絶対の盾。フィールドが解放されていれば、ありとあらゆるダメージと効果破壊を無効化する守護の化身。
既にヒカリのフィールド、天空城アヴァロニアが解放されている。
「ターンエンドです」
たった1体の壁。されど鉄壁という言葉すら生温い絶対的な守護。
戦闘と効果破壊を無効化するハクアを突破するには、並大抵のカードでは話にならない。
「私のターン!!ドローエナジーチャージ!!」
教団の男に残された3枚の手札。
数少ないが、この場における唯一の回答札を引き入れる事に成功していた。
「虚無10エナジー!!!!虚闇の狂信者を召喚!!!!」
『虚闇の狂信者 7/10』
10ものエナジーを食らい現れたのは、瘦せ細りボロ布に包まっただけの男。武器も鎧も、獣の牙も龍の翼も持たない男だが、目から流れ出る圧倒的な狂気が、毒の様にフィールドに満ちていく。
「虚闇の狂信者の効果!!このカードの召喚に成功した時、このカード以下のコストを持つモンスター全ての効果は失われる!!」
10コスト以下のモンスターの効果を全て消し去る凶悪な効果。ただし、自分フィールドを巻き込む上に、彼らの使っているフィールド虚空神殿の効果範囲は自分も含む。まさしく自爆覚悟の全体封殺。自分のフィールドに残されたモンスターが1体巻き込まれるが、この状況で大切に扱っても意味はない。自分のモンスター諸共全てを飲み込む狂気がハクアに襲い掛かる。
戦闘でのダメージも効果破壊もされないハクアだが、肝心の効果そのものを失ってしまえば他のモンスター動揺ただの案山子に過ぎない。
「私はこれでターンエンド」
ヒカリの切り札を無力化したことで多少落ち着きを取り戻したのか、男の口調に余裕が戻る。
鉄壁の守護者の陥落。切り札の喪失は、多くのバトラーにとって動揺をもたらす。必勝の切り札ともなれば猶更だ。いくら天乃河ヒカリであろうとも、ハクアの実質的な喪失は心理的ダメージを与えているだろう。
と、教団の男は考えていた。
「では、私のターンですね」
だが、男の妄想と違い、現実のヒカリに動揺はない。
どころか、彼女の瞳の温度は更に下がり見るもの全てを凍てつかせるレベル。
「ドロー、エナジーチャージ」
確かに、ハクアの喪失などほとんど経験したことはない。
出せば勝つ。ヒカリにとってハクアは勝利の化身であり、敗北を防ぐ盾。除去手段も限られた絶対的エースだが、一度も除去られた事が無いなんてことはなく、むしろ彼女の記憶の中で一番輝く思い出の中に刻まれてすらいる。
あの運命の日。ヒカリの運命が大きくねじ曲がり、同時に光輝いたあの日に、彼は情け容赦なくハクアを屠り、ヒカリに敗北を刻み込んだ。
あの時に比べれば、今の状況など何とお粗末な事か。比べる事すらおこがましい。
「本当は貴方などに見せるのはあまりに勿体ないのですが、ウツロ君にかっこいいところを見せたいので、今回だけ特別ですよ?」
コレは、本来ヒカリが持っているカードではない。
あの日、ヒカリの中に流れ込んだ莫大なエネルギーの一部が、ヒカリの力と混ざり合い生まれたカード。この世に生まれたこと自体が奇跡。
「私は、天翼の守護者ハクアと、手札のモンスターをコストが10以上になる様に墓地に送ります」
この世界でウツロだけが持つ力。ヒカリは奇跡の結晶を切符に、彼だけが立つ領域に足を踏み入れる。
「《《超覚醒》》」
覚醒を超える覚醒。
ヒカリの背に、純白の翼が現れる。
「白は混ざり、創世破界の光となる」
白は混ざり灰となる。けれど、濁ったのではない。白でもない。黒でもない。ウツロが作り、ヒカリが歩む新たな道。
純白だったヒカリの翼に新たな色が混ざり溶け合い、二枚だった翼は開花し、灰色をした6枚の翼となる。
「降臨せよ、灰闢の翼アザ=ルフェル」
『灰闢の翼アザ=ルフェル 12/12』
新たな世界を作り出す天使。黒ではなく、白でもない灰色の翼は、善も悪も飲み干す天秤の色。
灰の六翼を背に、光と闇、二本の剣を持つ混沌の天使が新たに降臨する。
「灰闢の翼アザ=ルフェルの召喚時効果相手フィールドのモンスター全てを-0/12する」
アザ=ルフェルが右手に持つ闇の剣を上空にかざすと、虚闇の狂信者の頭上から黒い稲妻が降り注ぎ、狂信者を焼き切った。
「この効果で破壊された相手モンスターの数だけ、このカードの上にカウンターを乗せます。このカードにカウンターが乗っている限り、このカードは戦闘でダメージを受けず、あらゆる効果を受け付けません」
ある程度対処できるハクアと違う。
自分のターン開始時にカウンターが取り除かれていく代わりに、カウンターが乗っている間は完全な無敵。
教団の男のモンスター2体を破壊したことで、2つのカウンターがアザ=フェルの上に乗った。これで相手を含め4ターンの間、ヒカリのフィールドには究極無敵のモンスターが降臨することになる。
「ターンエンドです」
少し前にヒカリが述べた通り、男には足掻く以外に選択肢はない。
「私は虚炎の武神官と愚鈍の信者を召喚してターンエンドです」
いくらアザ=ルフェルが無敵であろうと、壁を出して攻撃を防ぐことはできる。
複数の肉壁による遅延行為で時間を稼ぐ。
「私のターン」
だが、時間稼ぎなどという凡庸な一手など、ヒカリの前では無に等しい。
「光8エナジー、スペル、ジャッジメントレイ。お互いのモンスター全てを破壊します」
天空からフィールドに立つモンスター全てを裁く断罪の光が降り注ぎ、教団の男を守るモンスター全てを破壊する。
スペルはお互いを対象とする為、当然ヒカリのモンスターにも降り注ぐが、ヒカリのフィールドに立つのはアザ=ルフェル。未だカウンターが残っている以上、断罪の光程度では灰色の天使を破壊できない。
「バトル」
教団の男に残されたモンスターは0。アザ=ルフェルの攻撃を止める手段は存在しない。
「灰闢の翼アザ=ルフェルで攻撃。ロスト・アッシュ」
光と闇、二振りの剣から放たれた白と黒の斬撃は、交わると共に灰色に染まり、男のライフを全て消し去った。
「ぐわぁぁーー!!!?」
『虚教団の男 10→0』
ライフが全損するとともに、ヒカリを覆っていた結界も破壊される。
一度たりともダメージを受ける事なく完全な勝利を得たヒカリ。まさしくパーフェクトバトルだ。
「ウツロ君、終わりました」
「お疲れヒカリ」
歩いて寄ってくるヒカリに労いの言葉を投げかける。
体の傷はもちろんの事、精神的ダメージも無さそうで一先ず安心だ。
「オイ!!アイツはどこ行ったァ!!」
ウツロとヒカリとは離れた位置で、カゲフミが地面に倒れた男の上に馬乗りになって襟元を掴み大きく揺らす。
気迫迫るカゲフミに詰め寄られても、教団の男は負けてなお余裕を崩さない。
「……は、精々足掻くがいい」
「アァ!?」
「貴様の足掻きなど、我らの計画になんら支障はない……!!おぉ、神よ!我らに祝福を……!!」
カゲフミに捕まれていた男の体が崩れるように消えていき、まるで空気に解けて消えたかの用に何もなくなった。
倒れていたもう一人の方を見てみると、もう一人もいつの間にか粒子に解け、風に乗って消え去っていた。
「クソがクソがクソがァ!!!!」
ガンガンと地面を何度も踏みつけたカゲフミは、足に帰ってくる痛みで怒りを誤魔化し、一度大きく息を吐き出してから歩きだす。
「行くぞウル」
「はーい。ばいばいおねえちゃんたち!またあそんでね!」
何か事情を抱えているのだろう。怒りを無理やり抑え込んでいるカゲフミを見送ったウツロ達。
「俺たちも行くか」
「そうですね。随分と遅くなってしまいました」
最後の最後に起こったくだらないハプニングのせいで、酷く時間を浪費してしまった。
二人は改めて帰路につく、前に倒れているホムラをウツロが背に担ぎ、安全な場所に送り届ける事にした。
病院に連れていくか考えたが、精霊関係であるためまずはカードショップビクトリーに運び店長に見てもらう。
楽しいだけの一日は、結果的に酷く長い蛇足に彩られてしまったのだった。




