深淵にこそ、光あり
「オレのターン!!エナジーチャージ、ターンエンド」
「私のターン、ドロー、エナジーチャージ、ターン終了」
深い怒りと共に激突したフミカゲだったが、バトルの始まりは驚くほどに静かにスタートした。
心は熱く、頭は冷たく。バトラーの心得として有名な言葉だ。
「オレのターン!ドロー、エナジーチャージ!闇2エナジー、墓掘り骸骨を召喚!」
『墓掘り骸骨 1/1』
片手にピッケルを持った骸骨が、地面から這い出るように姿を現す。
「フィールド、無限墓標の効果!一ターンに一度、自分フィールドのモンスター一体を破壊し、破壊したモンスターのコストと同じ数をデッキの上から墓地に送る!!」
カタカタカタ、と笑うように顎の骨を鳴らす墓掘り骸骨は、無限墓標の効果によって爆散し、ただの骨片となって地面に散らばる。
「墓掘り骸骨の効果!このカードが破壊された時、デッキの上から1枚を墓地に送る!」
無限墓標と墓掘りグールの効果により、合計3枚のカードがデッキか墓地に送られた。
一連の行動で、フミカゲのデッキ特性が大まかではあるが把握できた。闇属性が得意とする墓地利用デッキ。しかもフィールドカードも利用した特化型だろう。
「オレはこれでターンエンド」
自分のモンスターを自壊する事で墓地を肥やせる強力な効果を内包したフィールド。おそらく解放条件も墓地に関係する筈。
解放を目指して墓地肥やしばかりすればフィールドがガラ空きになり、ライフを大きく削られるかもしれない。
フィールド解放と盤面勝負の両立は、全てのバトラーの課題だ。
「私のターン、ドローエナジーチャージ、私は虚無2エナジーを支払い愚鈍の信者を召喚。ターンエンド」
『愚鈍の信者 2/2』
フードの男は標準ステータスのモンスターをフィールドに立てる。
このまま墓地肥やしばかりすれば、モンスターに殴り殺されてゲーム終了。
ここからは、バトラーとしての腕が試される。
「オレの、ターン!!」
カゲフミは盤面を処理しつつ、墓地肥やしを狙いながらも適度に相手を攻めていく。
ライフを削る姿勢を見せ、少なからず相手にプレッシャーを与える事で選択肢を削ぐ。カゲフミはバトラーとして一流の腕を持っているようだ。
「虚炎の武神官で攻撃」
「黒霧の墓守でブロック」
虚ろな炎を纏う神官が、鎌を携えた黒い霧の塊に突撃する。
放たれる拳。カウンターに放った黒い刃が神官の体を切り裂くと同時に、炎を纏った拳が霧を貫き、爆炎と共に爆散させた。
「破壊された黒霧の墓守の効果。このカードが破壊された時、墓地のコスト4以下のスペルを一枚回収できる。オレはゾンビアサルトを回収」
誰かが言った。カードゲームにおいて墓地とは第二の手札である。
闇属性のカードにとって、墓地とは使い終わったカードを置く場ではなく、リソースの塊そのもの。
墓地肥やしによって増えた選択肢の中から、必要な手を回収する。
「私はターンエンド」
「オレのターン!」
ここまで肥やしてきた墓地は潤沢なリソースとなる一方、墓地と引き換えにライフというリソースを払い続けたカゲフミ。
フードの男とのライフ差は大きい。
『朧月カゲフミ 4』
『虚教団の男 20』
「闇7エナジー、スペル、冥界の扉を発動。オレの墓地からコスト2以下のモンスターを4体まで蘇生させる!」
『墓堀り骸骨 1/1』
『スケルトンウォリアー 2/2』
『スケルトンウォリアー 2/2』
『人喰い屍鬼 3/1』
スペルによる低コストクリーチャーの大量展開。これ以上のライフ喪失はそのままゲームの敗北に直結しかねない。
幸い敵の盤面は今は空だ。今のうちに抵コストモンスターで壁を作るのは良い一手だ。
「ターンエンドだ」
「私のターン」
だが、敵もまたこの場面を狙っていた。
「虚無7エナジー、虚光の祭司を召喚。虚光の祭司の効果により、コスト3以下のモンスターは全て効果を失う」
『虚光の祭司 5/5』
恐らく教団が操るモンスター固有の能力。相手モンスターの能力を剥奪する虚無化。
効果モンスターをバニラモンスターに変え、かつバニラモンスターを無力化する能力に長けたカード群。
男が召喚した虚光の祭司により、カゲフミのモンスター達は能力を失った。
「更にフィールド虚無神殿の効果発動。相手フィールドの効果を持たないモンスターの数だけこのカードにカウンターを乗せる。私は合計4個のカウンターを乗せる」
一気に4つのカウンターがフィールドに乗った。あと一つカウンターが乗れば、フィールドが解放され、今カゲフミの場のモンスター達は戦闘能力を無力化されてしまう。
「私はこれでターンエンド」
「オレの、ターン!!ドロォー!!エナジーチャージィ!!」
カゲフミのエナジーは8。ビックアクションを起こすには十分な数だが、いまだフィールドは解放されておらず、盤面にモンスターこそいるが、勝負を決めきる事はほぼ不可能だろう。
「闇、8エナジー」
次のターン、相手はほぼ確実にフィールドを解放してくる。ライフ差もあり、状況は圧倒的に不利。
だが、だが、だが!!カゲフミの瞳に映るのは、勝利への道筋のみ。
「いくぞ、ウル」
「うん!!」
姿は見えない。けれど、聞いた事のある少女の声が聞こえた。
「無限の果てより現れ、輪廻を飲み込め!!混沌の蛇!!」
無限を冠し、世界の終わりを見定める蛇龍が、大地を砕き輪廻の果てより姿を現す。
「無限龍ウルボロスを召喚!!!!」
『無限龍ウルボロス 8/8』
黒い鱗を静かに波打たせる巨大な蛇龍。ただこの場にいるだけで、意志の弱い者なら迷わず膝を折るほどの圧を振りまく。
この黒き蛇龍こそ、正真正銘朧月カゲフミの切り札。
「ウルボロスの効果発動。このカードがフィールドに出た時、相手モンスターを一体破壊する。虚光の祭司を破壊ィ!!」
蛇龍の口に、紫のヒカリが収束する。
「ワールドデストラクション」
世界すら破壊しかねない紫光は虚光の祭司を飲み込み、跡形もなく消し飛ばした。
「バトル!人喰い屍鬼とスケルトンウォリアーで攻撃!」
『虚教団の男 20→15』
フィールドが空になった男に、人喰い屍鬼とスケルトンウォリアーの攻撃がヒットし、大きくライフを削る。他のモンスターも使いフルアタックすれば更にライフを削れるが、カゲフミのライフは既に危険水域。不意の攻撃に対応するため、防御要員は余裕を持って多めに確保しておきたい。
「オレはこれでターンエンド」
カゲフミの盤面には5体のモンスター。内1体は大型。対して教団の男の盤面にはモンスターはいない。
盤面は完全にカゲフミが有利。
「私のターン」
だが、気を付けなければいけない。
ステラバトルにおいて、盤面の有利など、僅か一手で覆る可能性をはらんでいる。
「フィールド、虚空神殿の効果。相手フィールドの効果を持たないモンスターの数だけこのカードにカウンターを乗せる」
新たに4つのカウンターが乗せられる。先ほどのターンに乗った物と含めると、合計8つのカウンターが虚空神殿に乗せられた。
つまり、
「フィールド解放、虚空神殿」
虚空神殿より光の鎖が放たれ、ウルボロスを除くカゲフミのモンスター達の動きを封じ込める。
解放されたフィールドが、能力を消されたモンスター達の動きを許さない。
「虚無8エナジー」
カゲフミにビックアクションを起こせたということは、後攻の教団の男にも起こせるという事。
「虚光の大司祭を召喚」
『虚光の大司祭 7/7』
何もない虚無の地平線。虚ろな神が齎す真の無を、求め崇める狂信者が召喚される。
「虚光の大司祭の効果発動。このカード以下のコストを持つ相手モンスター1体の能力を消し去る。パニッシュレイ」
狂信者が放った虚ろな光が、ウルボロスを貫いた。虚神より与えられた力は、例え巨大な蛇龍であろうと関係ない。夜の様に深い黒色は、何もない虚白に染め上げられた。
「自分の虚無属性フィールドが解放されている為、虚光の大祭司の覚醒効果が発動する。虚光の大司祭がフィールドにいる限り、能力を持たない相手モンスターはブロックすることが出来ない」
フィールドの解放効果によって攻撃が封じられ、虚光の大司祭の覚醒効果でブロックが封じられた。どれだけカゲフミのフィールドにモンスターがいようと、能力を失ったモンスター達は案山子以下の置物でしかない。
解放されたフィールドはモンスターの覚醒を促す。
フィールド解放前のプレイヤーと解放後のプレイヤーでは、同じカードでも天と地ほどの差を生み出すこともある。
「ターンエンドです」
カゲフミのターン。未だフィールドには5体のモンスターがいるが、能力を失ったモンスター達は完全に封じ込められ、存在しないのと同じ。
「……オレの、ターン」
切り札のウルボロスですら、神殿に捕えられた。これからどんなモンスターを出そうとも、能力を消されてしまえば同じく封じ捕らえられる。教団の操るデッキは、容赦なく虚無に染め上げるだろう。フィールドが解放されてしまった以上、バトル場で逃れる術はない。
並みのバトラーなら、心が折れても仕方がない盤面。
「……知ってるさ」
だが、カゲフミは、
「テメェ等の戦い方なんざ、全部知ってるんだよォ」
未だ、瞳に光が灯っている。
「あァ、そうさァ。あの時から、テメエ等の戦い方は全部予習済みだァ!!」
ステラバトルは僅か一手で、盤面の有利を覆しうる可能性をはらんでいる。
「オレは、無限墓標の効果を発動ォ!!!!」
フィールド解放前と解放後では、同じカードでも天と地ほどの差を生み出すこともある。
カゲフミのフィールドは、まだ解放されていない。




