晴れのち曇り、少々柄の悪い男に出会うでしょう
「そのカゲフミさんが居そうな所に心当たりはあるかな?」
「ん~とね、わかんない!!」
「分かんないかぁ……」
さて、最初の一歩から躓いてしまった。
「ウルちゃんとカゲフミさんは、何をしにここまで来たんですか?」
ウツロの後にヒカリが別の角度から質問する。
「ウルとカゲフミはね、ワルイやつをやっつけてるの!きょうもね、カゲフミといっしょにパトロールしてたんだよ!」
ウル達の目的を聞いた上で、ウルとカゲフミという男性がどこに向かっていたのかの情報は分からなかった。
欲しい情報は出ず、謎ばかりが増えていく。
「それでね、きょうはかえりにタイヤキたべてかえるんだよ!」
突如ウルから出てきたキーワードに、ウツロとヒカリはお互いに顔を見合わせる。
最近テレビで紹介され人気になったたい焼きがこの辺りにあったはず。
「そっか、じゃあそのたい焼き屋さんまで一緒に行ってみよう」
「うん!!!!」
ひとまずの目標が決まった。噂のたい焼き屋はここからあまり距離が離れていない。少女を連れていても歩いて行けるだろう。
「ん!!」
いざ歩き出そうとすると、ウルがウツロとヒカリに向かって両手を伸ばしてきた。
ウルが何を求めているかすぐに理解した二人は、ウルの両手を握り三人一列で歩き始める。
「れっつごー!」
「ふふ、それじゃあ行きましょうか」
ウルを中心に左にウツロ、右にヒカリ。三人仲良く手を握る姿は、他の人から見れば仲のいい三人兄妹に見えるだろう。
二人に握ってもらった手を大きく振りながら、楽しそうに話し、笑うウル。小さな体から溢れんばかりのエネルギーに、二人もまた少なからず元気をもらったように感じた。
小さな話題、小さな気づき、日常を外れない話も、少女の話であれば思わず笑みがこぼれてしまう。
朗らかな時間はあっという間に過ぎ、比較的近い距離とはいえ、気がつけば目的地についていた。
目的だったたい焼き屋を見ると、夕方でも中々の行列が出来ている。テレビでの紹介によって人気が爆発しているのがわかる光景だ。
「まずは並んでいる人を見てみましょうか」
握っていた手を離し、駆け出したウルを二人は後ろからゆっくり見守る。
ヒカリの提案で、並んでいる人達の邪魔にならないように少し遠くから行列を見学。スイーツ寄りの今風たい焼き屋だからか、若い女性が多く、ウルが言っていたような男性は見当たらない。
「ウルちゃん、カゲフミさんはいらっしゃいましたか?」
「ううん、いない」
「なら、次はこの辺りを軽く散策してみるか」
数少ない目印から離れるよりは、この辺りで散策しながら相手を待つ事にする。ひとまず周りを軽く散策しようとすると、三人の背後に近づく足音が。
「ようやく見つけたぞクソガキ」
酷く攻撃的な口調。
また厄介ごとかと内心うんざりしたウツロとは裏腹に、声を聞いたウルは満面の笑みで振り返る。
「カゲフミ!!」
振り返ると同時に駆け出したウルは、声の主に思いっきり抱きついた。
遅れて振り返った二人は、満面の笑みで抱きつくウルと、酷くうんざりした顔で抱きついてくるウルの頭を鷲掴みにする目つきの悪い男といった、チグハグな光景を見る。
全身真っ黒な服装に、鋭すぎる目つきに整ってはいるが凶悪そうな面構え。おそらくウツロ達と近い年齢の男。ウルの言っていたカゲフミという男性の特徴と一致している。
「おいコラ。テメェ、オレが少し目ェ離した隙にどっか行きやがって。舐めてんのかァ?」
「だってヒマだったんだもん」
「オマエが食いたいって駄々こねるから態々クソ長ェ行列並んでやったんだろうがァ……!」
「ヒマはヒマなんだもん!!」
「この、クソガキィ……!!」
可憐な幼女と凶悪な顔をした男。
事情を知らなければ、すぐにでも110番を迷わず押す場面であるが、ウツロとヒカリの二人からすれば、少し微笑ましい場面でもある。
口が悪く怒っている男の右手には、ウルが食べたがっていたであろうたい焼きの袋がしっかりと握られていた。
何より、話しているウル本人がとても嬉しそうだ。
「おい、そこの二人」
「なんでしょうか?」
ゆっくりと事の成り行きを見届けていた二人に、男から声がかかる。
「オレは朧月カゲフミ、一応このクソガキのお守りをしてるもんだ」
「私は天乃河ヒカリです」
「俺は古守ウツロ」
「天乃河、古守、うちのクソガキが迷惑かけた。礼を言う」
カゲフミと名乗った男は、ヒカリとウツロに頭を下げて礼を言う。
「いえいえ、私達は迷惑だなんて思ってませんよ。ウルちゃんといれて楽しかったですし」
「俺も迷惑だなんて思ってないから、そんなに畏まらないでください」
「ウチのクソガキを連れてきてくれたのは事実だ、礼といっちゃなんだが、なんか奢らせてーー」
夕焼けの空には雲一つなく、道ゆく人々は活気に溢れている。
ありふれて、されど愛さずにはいられない日常に、一つの風が吹いた気がした。
とても嫌な、邪悪な気配を乗せた風だ。
「チッ……!すまん、急用ができた。この借りはいつか必ず返す。行くぞクソガキィ!」
「うん、ばいばいおねえちゃんおにいちゃん!またウルとあそんでね!!」
カゲフミがいきなり険しい顔になると、最低限の言葉だけ残して走り出した。
続けてウルもウツロ達二人に挨拶すると、カゲフミを追って走り出す。
「ヒカリ、今のって」
「……はい、私達も行きましょう」
どこの誰かは分からないが、誰かに厄介ごとが襲いかかっている。
この場に居合わせた者として、見捨てるわけには行かない。
カゲフミ達の後を追うように、ウツロ達もまた走り出した。
「これは……!」
二人は10分程走り、人通りが少ない路地に到着した。路地には人はおらず、代わりに大きな黒い球体が鎮座している。
ウツロもヒカリもこの球体を知っている。モヤのかかった闇が作り出す球体は、今まで戦ってきた敵が持っていた闇の結晶が作り出す隔離結界。
つまり、今現在この中で誰かが戦っていると言う事。
「一体誰が」
「ウツロ君、お手を」
ヒカリが手を差し出す。
言われるがままに、彼女の手にウツロの手を重ねると、ヒカリから流れる力が手を伝い、ウツロの目に集まった。
改めて闇の球体を見ると、闇を通り越して中で二人の男が戦っているのが見える。
「これでボクはターンエンド」
一人は見覚えのない白い神父服を着た白髪の男。
もう一人は、
「俺の、ターン!!」
見覚えのある、燃えるように赤い髪の男。
「紅蓮を纏え!勝利の化身!!炎竜王ヴァーミリオンVを召喚!!」
『炎竜王ヴァーミリオンV 6/4』
朱星ホムラが戦っていた。
「ヴァーミリオンVの召喚時効果!!手札からボムリザードをノーコストで召喚!!」
『ボムリザード2/1』
「これで炎のモンスターが5体揃った事により、俺のフィールド龍の住まう地レッドバレーが解放!!解放効果により、俺のモンスター全てを+1/1する!!」
ホムラのフィールドには強化された5体のモンスターが攻撃の準備を整える。ホムラの得意コンボだが、対する男は未だに余裕の姿勢を崩していない。
「バトルだ!!炎竜王ヴァーミリオンVで攻撃!!」
ホムラの切り札。紅蓮の竜が空を舞う。
「ヴァーミリオンVの覚醒効果!!このカードの攻撃時、自分の赤のフィールドが解放されている場合、このカードを除く赤のモンスターの数と同じダメージを相手モンスター全てに与える!!覚醒のバーニングロアー!!!!」
ヴァーミリオンVが放った業火が、白い男のモンスターに襲いかかる。
「ガーディアンプリーストの効果発動。このカードに乗っているカウンターを一つ取り除く事で、一度だけこのカードが受けるダメージを0にする」
巨大な盾を持つ神父が、竜王の炎を防ぎきった。
「ガーディアンプリーストでブロック」
一度は完全に防いだものの、二度目の攻撃は大きな盾を完全に破壊した。
『ガーディアンプリースト 1/3→破壊』
『炎竜王ヴァーミリオンV 7/5→7/4』
「まだだ!ボムリザードで攻撃!!」
ヴァーミリオンVの攻撃は防がれたが、ホムラには残ったモンスターがまだいる。ボムリザードを含めた4体の攻撃により、男のライフは1まで削り取られた。
「俺はこれでターンエンドだ」
「ボクのターン、ドロー」
白い男のライフは残り1。超攻撃的なホムラのデッキならば、いつでも刈り取れるラインだ。
「素晴らしい攻撃だった。僅かにでも遅れをとっていたら、ボクは負けてただろう」
だが、ライフが風前の灯になりながらも、白の男は余裕の笑みを崩さない。
「次はボクの番だ。君に見せてあげるよ。ボク達教団の力を!!」
一枚のカードが、鈍く光る。白く、だが白ではない色。
「虚無8エナジー」
奥はなく、見る者全てが無限に落ちていくような虚な色。
「全てを虚に染め上げろ、虚白竜ドラグ・アルビオン!」
『虚白竜ドラグ・アルビオン 7/6』




