タイフーンは通り過ぎ
授業が終わり放課後になると、ウツロとマリアはカードショップビクトリーに移動する。
店内に入るもホムラ達の姿は見えない。ウツロ達が最初のようだ。
「おう、来たか」
「お邪魔します」
「お疲れ様です」
店内に入ると店長が出迎えてくれた。軽い挨拶を済ませ、二人は店の一番奥の席に移動する。ここが部活でいつも使わせてもらってるスペースだ。
「ホムラ達だが少し遅れるみたいだ。すまんが待っててくれ」
「構いませんが、何かあったのですか?」
「まぁ、ちょっとな」
詳しくは本人が来てからだと言って、店長は接客に戻っていった。
残されたウツロとマリアは少し心配しながら、軽い雑談で時間を潰す。二人が話し始めて30分ほど経った頃、ようやくホムラ達が遅れてやってきた。
「ごめん遅れた!!」
「ウツロ君、マリア君、待たせてしまって本当にすまない!」
「ごめんね!ウチの用事が長引いちゃって」
ホムラに続いてダイチ部長、ハルカが店内に入る。
「ハルカ、貴方それ……」
最後に入ってきたハルカを見て、マリアとウツロは目を丸くして驚く。
「あははは……、ちょっとドジ踏んじゃって」
ハルカの右腕が真っ白な包帯でグルグル巻きにされ、動かない様に固定されている。彼女は軽く笑っているが、笑ってすませられる怪我のレベルではない。
この怪我は前回の事件で負ったものだ。敵との勝負には勝ったハルカだったが、敵が放った苦し紛れの一撃で負傷してしまった。
「まったく、無茶をするからだ。自分達がまだ子供だという事を念頭に置いて行動するべきで」
ハルカが怪我を負ってすぐ、騒ぎを感知した店長が駆け付けた事で大事にはならなかったが、事件終了後に店長からこっぴどく叱られた一同。
「まあまあ、ハルカちゃん達も反省してますから」
店長がヒートアップしそうな所で、サクラさんが止めに入ってくれた。
「幸運にも後遺症は残らないようですし、あまりガミガミ言ってると治りも遅くなりますよ」
ハルカの怪我はこのまま数ヶ月安静にしていれば治るそうだ。多少のリハビリは必要になるかもしれないが、後遺症などは残らないらしい。
話を聞いてひとまず安心したが、別の問題が頭に浮かぶ。
「全国大会どうするんですか?もう少しで予選始まりますよね」
ウツロが問いかけると、店長を含め暗い顔をする一同。
全国大会は四人一組の団体戦。我らが部活はウツロを除いて四人。ハルカが抜けると出場人数が足りない。
「やっぱりウチでます!」
「駄目だ。顧問として許可できない」
全国大会はテレビ放送されるほどの大人気イベントだ。本戦だけでなく、予選からも大きく力が入っており、試合は全てスタジアムで行われ、大掛かりな設備も使われる。
リアルタイムで映し出される立体映像だけでなく、臨場感を出すための大音響や軽い衝撃、振動がバトラーに伝わる。
大迫力で選手達からは大好評なのだが、怪我人の体には良くないだろう。仮に転げでもしたら大惨事になりかねない。
「どうします?今から助っ人を探しますか?」
「選手と使用デッキ登録まで時間がないんだ。今から探してたら間違いなく間に合わないと思う」
マリアの提案を、ダイチ部長が首を横に振って却下する。
選手と使用デッキ登録の期限が間近に迫り、もう残された時間はあまりない。過去の事件から、いまだにうちの高校ではステラバトル部が敬遠されている為、現状での代役探しは多くの時間を要するだろう。
今から代役を探すのは現実的ではない。
「ウツロ君、相談があるんだ」
ステラバトル部に残された道は一つ。
「ハルカ君の代わりに選手として出場してほしいいんだ」
ステラバトル部に所属している最後の一人、ウツロがハルカの代わりに出場する事。
「ウチからもお願い!」
「必要ならデッキはこちらで用意する。練習だって付き合う。だからどうか僕達を助けてほしい!」
「あー……」
困った。
確かにこの場合ウツロにお鉢が回ってくるのは当然の事で、同時にとんでもなく厄介な状況になった。
普通の人なら、デッキを用意してくれるのはとてもありがたい事なのだろうが、生憎とウツロは普通の人ではない。用意してくれたデッキを使おうにも、本番ではいつの間にか入れ替わっていつものデッキに代わっているだろう。
(まだ時期が早すぎるんだよな……)
今までの経験から、精霊の力を通さずただのカードとして扱えば、立体映像として映し出されても大きな問題にはならず、おそらく実害も出ないだろう。
だが、問題はカードの属性。現状裏で暗躍している組織が崇めている虚無属性を公の場で扱えば、ウツロと組織に繋がりがあると思われても仕方がない。
組織を壊滅させた後なら、虚無属性のカードも多少は一般に普及すると思われる為、人前でバトルするなら全てが一通り片付いた後が望ましい。
しかし、こちらの事情を全て伝えるわけにもいない。大きく関係性が拗れる可能性もあるし、下手に突けば爆発しかねない事情に巻き込みたくもないのだが、上手く断る理由も思いつかないのもまた事実で。
「あのー、ウツロ君の事なんですけど。どうやら厄介な精霊に憑かれてしまっているらしくて」
「厄介?」
「どうやら精霊が認めたカードでしかデッキを組めない様になっているらしく、他のデッキを使えないみたいなんですよ」
ウツロがどう答えるか迷っていると、マリアが横から助け舟を出してくれた。
「サクラ」
「確かにそういう方もいますね〜」
「そうか、なら無理強いはできないか」
ウツロの事情をどれだけ知っているか分からないが、本当に助かった。
マリアの助け舟のおかげで、精霊に理解のあるメンバー達が多いため皆納得してくれる。
「こうなれば一か八か他を当たるか……」
「俺、手伝いますよ!!」
「ウチも!!ウチも手伝います!!」
ただ、仮にも同じ部活に所属している身として、非常に心苦しいともウツロは思う。
故に、
「あー、出場自体はできるよ」
「え、でもウツロ君のデッキが」
「戦わずにサレンダーって形にはなるから、対戦相手と皆んなには申し訳ない形にはなるけど」
常に黒星一つからスタートとなるが、出場できないよりはマシだろう。
一人のバトラーとして対戦相手には非常に、非常に申し訳ないし心苦しいが、まあこの辺りが落とし所ではないだろうか。
「本当に良いのかウツロ」
「まあ、皆んなが良ければですけど」
正直言って、見栄えは良くないだろう。綺羅星高校の立場から言えば、ウツロが悪目立ちする可能性もあるが、同じ部活に所属している以上助けたい気持ちもある。
「……一つだけ、一つだけウツロ君が悪目立ちする事なく、大会に出る方法がある」
深く深く考え込んだダイチ部長が、一つの案を提示する。
「そんな方法があるんですか?」
「あるよ、もの凄くリスキーだけどね」
全国大会の舞台で、戦う前からサレンダーする事は好ましく思われないだろう。だが、ダイチ部長曰く、たった一つだけ戦略として認められている方法があるらしい。
「ウツロ君を大将として登録するんだ」
大会は先鋒、中将、副将、大将の順で戦う。
仮に、先鋒中将副将が勝利を収めれば勝利が確定する。ウツロを大将におき、ダイチ部長、ホムラ、マリアが勝ち続ければ理論上ウツロが一度も戦う事なく優勝できる。
「確かに理論上は可能だが、大きすぎるハンデになるぞ。それでも良いのか?」
ダイチ部長の提案に、店長が念入りするように問いかける。
他と違い、大将には2ポイント分の価値がある。ウツロを大将に置いた場合、他のメンバーは誰一人として負けが許されない。
ウツロを大将以外に置けば、もう一人分は負けの担保が確約される事になる。どちらが良いのかは目を見るより明らかだが。
「ウツロ君を大将以外に置けば、確かに一度負けられますが、それは大将以外の話です。大将だけが常に負けられない重圧を背負う事になるくらないなら、全員で重みを背負う方が良いと僕は思う」
ダイチ部長の言葉を聞いて、ホムラとマリアは店長の方を向く。
「俺もそれが良い!全員で勝つんだ!」
「ワタクシも問題ありません。元々誰にも負ける気はありませんから」
全員の覚悟を聞いて、店長は呆れた様に、けれど嬉しそうに笑う。
「全員が納得してるなら良い。リスクはデカいが、戦略としても無しってわけじゃないしな」
大将は非常に重要な為、基本は最も強いメンバーを置くことが多い。
だからこそ、大将戦を避ける為に最初の三戦に全力を尽くすのも一つの戦略として存在する。
大きすぎるリスクもあるが、確かにメリットも存在するのだ。
「一応俺以外のメンバー探しといてくださいね」
「分かった。探すだけ探してみるよ」
この後部員各々で探してみるも、結局代わりのメンバーは見つからず、ウツロが大会に出る事が確定したのだった。
「予選と本戦の間に一度だけデッキ変更できるから、一度登録したからってデッキ構築考えるのやめるんじゃねえぞ」
「了解っす師匠!!」
全国大会予選が始まるまで後少し。




