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バトルがしたいです……

 東京都歌留多町。町一番、ではないが知る人ぞ知る名店カードショップビクトリー。凄腕のバトラーが集う店内で、今日もまた熱いバトルが繰り広げられていた。


「僕のターン!!水6エナジーを払い、魅惑の歌姫アリエラを召喚!!」

『魅惑の歌姫アリエラ 4/5』

「アリエラの効果!このカードの召喚時、フィールドにいるホムラ君のモンスターを次のターンまで無力化する!」

「くっ!」


 現代科学の発展により、超リアルな3D映像で映し出される人魚が歌声を披露すると、歌声に呼応した波が対戦相手のモンスター達を飲み込む。

 ずぶ濡れで倒れ伏すモンスター達に赤髪の熱血漢、朱星(あかほし)ホムラは苦悶の表情を浮かべる。


「うわー!すげぇ!!」

「なんだあれ!」


 白熱するバトル。激闘を繰り広げる2人を囲む観客のさらに外。小さな二組のお客がキラキラと目を輝かせる。


「なんだ坊主共。ステラバトルは初めてか?」


 真っ赤なエプロンを身につけた青年。カードショップビクトリーの店長月野(つきの)タイヨウは小さなお客様に話しかける。


「あれってステラバトルって言うの!?」

「そうだ。あれはステラバトル。世界一流行ってるカードゲームだ」


 ステラバトル。40枚のデッキと10枚のエナジーカード、1枚のフィールドカードで構成されるカードゲーム。モンスターカードとスペルカードを駆使して相手の体力20を先に削り切った方の勝利。世界中で流行し数年に一度の世界大会は全世界で生放送され視聴率は常にギネスを更新し続けるバケモノコンテンツ。


「オクトパスデーモンと深海の歌姫セララで攻撃!」

『オクトパスデーモン3/3』

『深海の歌姫セララ2/3』

『朱星ホムラ13→8』


「これでホムラ君の体力は8。次の総攻撃で僕の勝ちです。ターンエンド」


 4枚の手札に3体のモンスター。対するホムラの手札は1枚、フィールドにいるモンスター達は無力化された。まさに絶対絶命。


「……俺のターン」


 だが、


「ドロー!!!!」


 ホムラの目は死んでいない。


「ーー来たぜ!」


 切り札は常に、勝利を諦めない者の手に。


「エナジーチャージ!炎7エナジー!!」


 7枚の炎エナジーをタップ。

 カードを持つ右手に炎を幻視する。それはホムラの切り札。逆転の狼煙。


「紅蓮を纏え!勝利の化身!!炎竜王ヴァーミリオンV!!」

『炎竜王ヴァーミリオンV 6/4』


 炎の竜王が雄叫びをあげる。竜王の号令に、臣下が駆けつける。


「ヴァーミリオンVの召喚時効果!手札のコスト3以下のモンスター1体をコストを払わず召喚できる!ボムリザードを召喚!」

『ボムリザード 2/1』


 ド派手な登場に子供達が目を輝かせる。


「フィールド解放!!解放条件は自分フィールドに赤のモンスター5体以上、6ターン目以降!!」


 セットされていたフィールドが爛々と輝く。

 ゲーム開始時にセットされ、条件を達成する事で解放されるカード。解放条件が厳しいほど強力な効果を持つカードが今解放された。


「竜の住まう地レッドバレー!レッドバレーの効果!開放時フィールドの赤のモンスター全てに+1/1!」

『炎竜王ヴァーミリオンV 7/5』

『ボムリザード 3/2』

「ヴァーミリオンVの効果!このカードを含め赤のカードが3枚以上あれば速攻を得る!」


 召喚したモンスターはそのターン攻撃できないが、速攻を持つモンスターは出したターンから攻撃できる。


「ヴァーミリオンVで攻撃!!」


 赤い竜王が突撃する。


「ヴァーミリオンVの覚醒効果!!解放された赤のフィールドがある場合、このカードを除く赤のモンスターの数と同じダメージを相手モンスター全てに与える!!覚醒のバーニングロアー!」


 ヴァーミリオンVを除くモンスターは4体。

 竜王が吐く炎が全てを包み、1体を残して残りの2体を焼き尽くす。


「この効果で破壊したモンスターと同じ数のダメージを相手プレイヤーに与える!!」

『小々波ミズハ 5→3』

「アリエラでブロック!!」


 竜王の突撃を、歌姫がその身を犠牲にして受け止める。

 歌姫の命と引き換えに、竜王の攻撃は防げた。


「まだだ!ボムリザードは攻撃力がプラスされたターン、速攻を持つ!」

「なに!?」

「ボムリザードで攻撃!!」

『小々波ミズハ3→0』

『ホムラWIN!!』


 ゲームの終了と共に、3D映像が消えカードとプレイヤーが残る。

 2人のプレイヤーは互いに健闘をたたえる。


「いいバトルだった」

「次は勝ちますから」


 2人のバトルを見て目を輝かせる少年達に、店長が二つのデッキを渡す。


「こいつは俺からのプレゼントだ。良かったら遊んでくれ」

「いいの!?」

「やったー!!店長教えて教えて!」

「分かった分かった」


 熱いバトルをした2人のバトラー、これからステラバトルを始める新しい若芽。誰もが笑顔を浮かべる中、離れた場所に座り羨ましそうに視線を向ける高校生が1人。


「いいなぁ……」


 転生者兼カードゲーマー。古守(ふるかみ)ウツロその人である。


************


 吾輩は転生者である。名前は古守ふるかみウツロ。

 前世では一端のカードゲーマーである。気がつけばこの世界で生を受け、なんだかんだ生きてきた。両親は究極の放任主義者である。大量の金と住処だけ残して消えた。

 両親にドン引きしつつも、この世界に生まれた事を感謝した。こちとら生粋のカードゲーマーである。種類こそ違うものの大好きなカードゲームが世界的人気。それこそ野球やサッカーのような立ち位置にいるのだ。大手を振ってウキウキでパックを買いデッキを組んだものだ。その後色々あってほとんどバトルできず、ただいま目の前の試合に嫉妬中である。


「いいなぁ……」


 赤髪の少年、おそらく同年代であろう朱星ホムラと青髪の少年小々(さざなみ)ミズハ。2人のバトルをぼんやりと眺める。


「あれ、多分主人公だよな」


 熱血っぽいホムラ君。炎属性のドラゴン使い。ここ数年に起こった事件の数々、その中心にいたらしい。

 確かこのカードショップの店長と師弟関係だったか。


「今日もバトルしないんですか?」


 ぼんやりと眺めていると、後ろから声をかけられた。

 振り返ってみると、この店の唯一の店員にしてマドンナ。ピンクショートカットをした美人、サクラさんがいた。


「なかなかデッキが決まらなくて」


 愛想笑いを浮かべ、今日も今日とて同じ嘘をつく。


「一回ぐらいバトルしてみればいいのに。良かったらデッキ、貸し出しますよ?」

「せっかくなら自分のデッキでバトルしてみたくて」


 あはは、と笑いながら断る。


「気が変わったらいつでも言ってくださいね」


 サクラさんは最後にそれだけ言い残すと、カウンターの奥に戻っていった。


「嘘、バレてるよなぁ……」


 サクラさんが離れたのを見てから、上着のポケットに入ってる膨らみを上から撫でる。デッキはある、あるが、使えない理由もまたある。

 この世界、一部のカードに精霊が宿っているらしい。サクラさんも店長のカードの精霊だったはず。力あるバトラーは実体化できるとかできないとか。


「虚無の神と四神、だっけか」


 虚無の神を四属性の神が封じたとか、実は四属性じゃなくて六属性だったとか。そんな感じの神話があったはず。

 そんな事を思い出しながら、椅子から立ち上がりカウンターに向かうといくつかパックを買って店を出る。

 このパック開封が唯一の趣味だ。


「今日は何が出るかなー?」


 パックを剥いていくと、輝くカードが2枚。

『赤目の蛮竜バッドザウルス』『新緑のグランドタートル』

 レアカードだ。この世界、ありえないほどカードの種類が多く、パックの種類が驚くほど少ない。レアカードは生涯の切り札になるものだ。


「うわ!?」


 レアカードが当たって嬉しい気持ちと、どうせ使えないという嫌な気持ちを抱えていると、遠くから悲鳴が聞こえた。


「返してよ!!僕達のカード!!」


 血走った目で2つのデッキを抱えた細身の男が走り去る。

 離れた場所から小さな足音が二つ。よく見ればカードショップで見た顔。あの時と違い、悲しみと涙に滲んだ顔。


「やれやれ」


 帰る前に寄る場所ができた。

 

************


「ひひひひひ、これだけあれば今月のアガリも」


 不相応にもレアカードの入ったデッキが2つ。バトルのバの字も知らない子供には勿体無い。これは価値のわかる自分が売り捌いてやると男が自分勝手な妄想を膨らませていると、


「おい、そこの泥棒」


 後ろから声、ウツロが息を切らしながら追いついた。


「誰だお前」

「誰でも良いだろ。いいからさっきの子供にデッキ返せよ」


 カード泥棒。この世界で最も頻繁に起きる犯罪。ギャングが関わっている場合もある闇の1つ。


「うるせぇガキが!!てめえのカードも奪ってやるよ!!」


 男が喚くように叫びながら、懐から黒い宝石のような物を取り出す。

 その宝石を掲げると、黒い煙が宝石から溢れ出し2人を取り囲む。


「おま、まじか!?」


 1年前に解体された秘密結社。彼等が使ったとされる隔離結界。バトラー2人を閉じ込め、勝負が着くまで外界と隔離され、受けるダメージの一部が本人にもフィードバックするという闇のアイテム。

 まさかこんな所にまで普及しているとは。


「さぁバトルだガキ!闇のバトルを教えてやる!!フィールドセット!!漆黒平原!!」


 強制的に始まるバトル。目の前に広がるフィールドに、ポケットから取り出したデッキを置く。

 ある意味、ちょうど良い。こんな状況だが、こんな状況だからこそ、久しぶりにバトルできる。


「フィールドセット」


 古守ウツロは、どうしようもなくカードゲーマーなのだ。


「海底都市ルル・イエ」

今日のカード

炎7エナジー『炎竜王ヴァーミリオンVヴィクトリー』 6/4

このカードを召喚した時、手札から赤のコスト3以下のモンスターを一体、コストを払わず召喚できる。

フィールドにこのカードを含め、赤のモンスターが3体存在する時、このカードは速攻を得る。

『覚醒』

炎属性のフィールドが解放されている場合、このカードは以下の効果を発動できる。

このカードが攻撃した時、自分フィールドのこのカードを除く赤 炎属性のモンスターの数と同じ数値のダメージを相手のモンスター全てに与える。

この効果で相手モンスターを破壊した時、破壊したモンスターの枚数分のダメージを相手プレイヤーに与える。


水6エナジー「魅惑の歌姫アリエラ」4/5

このカードを召喚した時、相手フィールドに存在する全てのモンスターは、次の相手ターン終了までアタックもブロックもできない。

このカードの攻撃時、相手モンスター1体を選び、手札に戻す。

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