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どんな依頼も受けます

 結局、アマーストは夕暮れまで町を歩き、あらゆる個所に貼られた別の調査団のチラシを調べてみた。彼はこれまで、調査団がこの町に存在すると考えもしなかった。だが探してみると、いくつか見つかった。どこの調査団も浮気調査やペット探しを売りにしているが、さすがに幽霊事件は扱ってくれなさそうだというのが、彼の結論だった。「どんな依頼も受ける」という言葉と、オカルト関係でも大丈夫とうなずいたあの女性を信じることにして、彼はチラシに書かれたオレンジ地区の住所に向かった。

 彼がたどり着いたのは、二階建ての小さな建物だった。想像したようにいろいろな企業が入っているというわけではなく、リュシストラトス調査団だけがこの建物を使っているらしい。建物は古びているが、あちこちがきちんと修繕されており、不気味な印象は与えない。少なくともそこまで怪しくはないようだと彼は判断し、ドアノッカーを鳴らした。

 しばらくしてドアが開き、チラシを配っていた女性が顔を出した。

「こんにちは。あっ、あなたはグリーン地区の。来てくださったんですね」

「ええ、どんな依頼でも受けると言っていましたから」

「まあ、立ち話も大変でしょうから、どうぞお入りください」

「ありがとうございます。失礼します」

 アマーストは軽く会釈をして、女性に導かれるまま建物内に入った。


 彼が案内されたのは、応接室だった。部屋の中も古さは感じるが、きちんと掃除されている。テーブルクロスも椅子も、安物感がぬぐえないが嫌味な感じは与えない。どんな人物が現れるのだろうと思っていたら、20代半ばに見える赤い髪の男性と、長い金髪の女性がやって来た。ふたりは席に着き、まず女性の方が口を開いた。

「ようこそ、リュシストラトス調査団へ。私は副団長のアリーナ・ツァイスです」

「初めまして、サイラス・アマーストです」

「俺はジョナサン。この調査団の団長だ。ここに来たからには、安心してくれ」

「依頼を聞く前から、そういうことを言わない方がいいですよ」

 アリーナと名乗った女性は、またかという表情でそう言った。アマーストはふたりを観察した。副団長の方はしっかりしているが、団長の方は謎の自信にあふれている。その自信には、果たして根拠はあるのだろうかと少し心配になった。彼が服を微妙に着崩しているのも気になるが、ここまで来たら後には引けないと思いなおし、アマーストは疑問を投げかけた。

「本当に、どんな依頼でもいいんですか?」

「はい、それが私たちの仕事ですから。もちろん法に抵触するものはお断りいたしますよ」

 アリーナは笑顔でそう答えた。アマーストはその微笑みに安心感を覚え、なんとなくこの調査団を信じてみたい気持ちになり、すべてを話す気になった。

「あの、信じてもらえないのは承知で申し上げます。実は昨日、ケントルム大学近くの公園で、幽霊を見たのです」

「マジか!」

「ええっ!」

 ジョナサンとアリーナは同時に反応したが、アリーナはすぐにさっきの笑顔に戻って続きを促した。

「そうなのですね。いつぐらいのできごとですか?」

「月が登り切った頃ですね。ひとりで残業していたものですから」

「お疲れ様です。ほかの目撃者はいますか?」

「はい。同僚の話によると、会社で何人か見た人がいるそうなんです。私が見たのと同じ幽霊かは、確認しておりませんが」

 アマーストがそこまで話すと、それまで黙って話を聞いていたジョナサンが、唐突に前のめりで承諾した。

「よっしゃ、それ、引き受けますよ」

「いいんですか?」

 気づけばアマーストとアリーナは、同じセリフを口にしていた。ふたりは思わずお互いに顔を見合わせたが、なんとなく気まずくなって視線をそらした。アマーストは副団長に確認を取らずに話を進める団長を信じていいものかと、再び不安になった。ジョナサンはそんな様子など気にすることなく、アマーストに尋ねた。

「それでアマーストさん、今回以外で幽霊を見たことは?」

「いいえ、ありません」

「じゃ、なおさら俺たちでなんとかできますよ」

 アマーストはジョナサンがさらに自信を増している理由が、理解できなかった。アリーナの方を見ると、なにかに気づいた様子だった。どうやら彼女も、なにかを確信したらしい。ただアマーストには、その「なにか」の正体がわからなかった。

「で、アマーストさん、正式にご依頼なさるんですか?」

 アリーナにそう呼びかけられて、アマーストは考えを巡らせた。この調査団は案外只者ではないのかもしれないが、だからと言って信頼していいのかと迷っていた。でもここ以外に今回の件を取り扱ってくれそうな場所はないと、彼は結論を出して言った。

「ええ、お願いします」

「かしこまりました。手付金がこちら、成功報酬がこの額になりますが、よろしいですか?」

 アリーナはそう言いながら、メモに書きつけた金額を示した。よかった、法外な金額ではない、それどころかむしろ良心的だと思い、アマーストはうなずいた。

「では、よろしくお願いします」

 彼はそう言ってジョナサンとアリーナに手を差し出した。その手をジョナサンはがっちりと、アリーナは遠慮がちに握り返してきた。まだ全面的に信じる気にはなれなかったが、心は少し軽くなったと彼は考え、調査団の事務所を去った。


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