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弱小調査団の大口団長とシゴデキ副団長  作者: 水津希理
休講続きのリーベカッツェ教授
3/12

学生たちの依頼

 ドアの向こうには、学生らしい3人の若い男女が立っていた。3人はそれぞれに、思いつめたような表情をしていた。アリーナは若者たちの様子に少し戸惑ったが、できるだけ優しい声を出した。

「ようこそ、リュシストラトス調査団へ。ご依頼の方ですか?」

「ええ、そうです」

 3人の中のリーダーらしい、とび色の髪の男性はそう言った。アリーナはうなずき、3人に中に入るよう促した。若者たちは、ありがとうございます、失礼しますといいながら、廊下へと入って来た。アリーナは3人を応接室へ通して、座るように言った。3人は彼女の指示に素直に従った。ジョナサンはその様子をぼんやりと見ていたが、やがてハッとして応接室に入って来た。その様子を見たアリーナは、彼に言った。

「ほら、ぼんやり立っていないで、お茶をお願いします」

「わかったよ」

 ジョナサンは渋々、給湯室へと向かった。

「ご足労ありがとうございます。私はリュシストラトス調査団の副団長をしている、アリーナ・ツァイスと申します。失礼ですが、お名前をお聞かせ願えませんでしょうか?」

 自分と差し向かいに座っている3人に対して、アリーナはそう名乗った。さっきのリーダーらしい若者が、おずおずと口を開く。

「えーっと、あの、俺はマシュー・スタインです」

「僕はライナス・レンフィールドです」

「私はケイト・ワインバーグです」

 マシューに続いて、銀髪のライナスと薄茶色の髪のケイトがそう名乗った。そのときジョナサンがお茶の載ったトレイを持ってきてテーブルに置き、どっかりと椅子に座って言った。

「そして俺が団長のジョナサンだ。ここに来たからには、どうか大船に乗ったつもりでいてくれたまえ」

「泥船の間違いではないでしょうね?」

 アリーナがため息交じりにそう返したので、マシューは場を取り繕うかのように言った。

「俺たちは、ケントルム大学の学生です。その、講義のことで困っていて」

 マシューの言葉を受けて、アリーナは目を見開いた。

「皆さん、優秀なんですね。王立大の学生さんだなんて。講義のことで困っているというのは、具体的にはどんなことにお悩みなのですか?」

「まさか単位を落としそうで困っているのか?」

「ジョナサンは黙っていてください」

 アリーナはジョナサンを軽く小突いて制した。マシューは首をぶるぶると振ると、自信なさげに言った。

「いえ、団長さんの言うことは、あながち間違っていません。単位を落としそうなのは確かですが、それは俺たちのせいじゃないんです」

「えっと、それはどういうことでしょうか?」

 アリーナの問いに、ケイトが応える。

「リーベカッツェ教授の講義が、ずっと休講なんです」

「あ、リーベカッツェ教授というのは、僕たちのゼミの担当教授です」

 ケイトの説明をライナスが補足し、その言葉を受けてケイトは再び続けた。

「どうやら、教授は大学自体ずっと休んでいるそうなんです。しかもそのせいで、私たちは卒論指導も受けられなくなって」

「ええっ!」

 ジョナサンとアリーナは、声を揃えて驚いた。アリーナはすぐに冷静さを取り戻して、話の続きを促した。

「教授がずっと休んでいるって、一体なぜですか?」

「教授は飼い猫をとてもかわいがっていて、講義でもよく猫の話をしています」

「猫と休講に、なにか関係があるのですか?」

「あくまでも噂なんですけど、どうもその猫がいなくなってしまったらしくて」

「そうですか。でもまだ休講との関係がよくわからないのですが」

「猫がいなくなって以来、教授は家に籠りきりだそうです」

「猫一匹で、ずいぶん大げさな教授だな」

 ジョナサンが不意にそう口を挟むと、アリーナは彼をにらみつけた。ケイトはあえてそれに気づかないふりをして続けた。

「教授はあたしたちの卒論指導もしているので、ずっと休まれると困るんです」

「そうなんですね。わかりました、その依頼、引き受けましょう。その猫の特徴を教えていただけますか?」

「ちょっとその前に、いくらかかりますか?」

 ライナスが、急に口を開いた。マシューとケイトは、それもそうだと思って彼の方を見た。アリーナはうなずき、メモ帳にペンで金額を書きながら言った。

「そうですね。手付金がこの金額、そして成功報酬がこちらですね」

3人は顔を見合わせてうなずいた。マシューが3人を代表するように言った。

「これぐらいなら、俺たちでも払えます。よろしくお願いします」

「わかりました。では改めて猫の特徴を教えていただけますか?まずどんな外見ですか?」

 アリーナの問いに、マシューが答える。

「教授の話によると白と黒のハチワレだそうです」

「年齢は?」

「3歳だったかな?」

「性別はどちらですか?」

「去勢した雄ですね」

「猫の名前はなんですか?」

「エミールらしいです」

「猫にえらく高尚な名前をつけているんだな。わかった、俺たちに任せろ」

 ジョナサンが急に出しゃばって来たので、アリーナは再び彼をにらみつけた。マシューは気にも留めないで、懇願した。

「本当にお願いします。俺たちの卒業がかかっているんです!」

 その様子を見て、アリーナは極めて事務的に言った。

「さあ皆さん、ここは私たちに任せて、今日はお引き取りください」

 学生たちはうなずき、それぞれ立ち上がってお礼とお願いの言葉を口にした。

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