メイド長と執事
アームストロング家に仕えるメイド長、エリナー・ミラーは浮かない顔をしていた。日が落ちかけた屋敷の廊下を、彼女はせわしなく歩いていた。ふと、同じような表情の執事と目が合い、彼に呼び止められた。
「どうだ、エリナー、パトリシアお嬢様は見つかったか?」
そう尋ねた執事に対して、エリナーは首を横に振った。
「いいえ、屋敷のどこにもいらっしゃいませんでした」
「屋敷の敷地内にも、いらっしゃらなかった。行方不明になる前、お嬢様はなにかおっしゃっていなかったか?」
「そういえば、森に行ってくるとおっしゃっていました」
「お嬢様がお気に入りの、ビリジアンの森に行かれたのかもしれないな」
「ええっ、まだあの森にいらっしゃると言うのですか?」
「屋敷にも敷地内にもいらっしゃらないとなると、可能性は高いだろうな」
「そんな……、あの森はツノイノシシが出る危険な場所なのに」
「仕方ないだろう。では、いまからあなたが森に探しに行くのか?」
「無理に決まっているでしょう!」
「使用人たちを捜索に向かわせるにしても、危険が大きいな……」
「どうすると言うのですか?」
執事は少し考えてから答えた。
「よし、明日ケントルム市に向かってくれ。噂に聞いた優秀な調査団に頼むのだ」
「調査団、ですか。一体、なんという名前の調査団なんですか?」
「『リュシストラトス調査団』というらしい。取引がある会社の社員たちが、少し前に話題にしていたらしい」
「……わかりました。朝一番に向かいます」
「よし、馬車を手配しておこう」
「お嬢様、どうかご無事でいてください」
「私も同じことを祈っているよ。さあ、まだ残っている業務があるだろう?明日のために片づけておくといい」
「はい」
そう言ってエリナーは執事と別れ、日常の業務に戻った。




