幽霊の正体
夜はさらに更けていき、若者たちの騒ぐ声も聞こえなくなった。不意に公園に近づく足音が聞こえてきた。その音を聞きつけ、幽霊と多数の人魂が公園の入口にふらりと現れた。グロリアはその様子を呆然と眺めていたが、我に返ってすぐ笛を吹いた。その音に幽霊と人魂は気づき、彼女がいる角に近づいてきた。
「うわあああ、助けて!」
そう叫んでグロリアは、頭を抱えてうずくまった。彼女は恐怖心に支配され、パニック状態だった。
グロリアの笛の音に気づき、ユキナリは彼女の方に向かった。ジョナサンも茂みをかき分けて、同じ方へ急いだ。ふたりがグロリアに近づこうとすると、ワンドを構えた人影がグロリアの前に立った。
「真実よ、明るみに出ろ、リビール!」
見るとアリーナがそう詠唱していた。呪文とともに人魂は消え失せ、幽霊は人間の姿になった。
「アリーナさん、ありがとうございます」
グロリアはほっとしてアリーナを見上げ、さらにつづけた。
「さっきの魔法、なんなんですか?」
「強い魔力を感じたので、打ち消しました。幽霊は魔力をまとった人間で、人魂は魔法で作った偽物だったのです。それよりもグロリア、けがはないですか?」
「はい、大丈夫です」
グロリアは、肩で息をしながらそう答えた。
「みな、無事だったようだな。一体、誰が幽霊に化けていたのだ?」
ユキナリは落ち着き払って、魔法が解かれた人の方を見た。彼は黙り、口をへの字に曲げた。ほかの3人は、彼の視線を追った。
「オイ!なんだ、これ!」
ジョナサンは思わず叫んだ。グロリアは顔を両手で覆い、アリーナはスッと目を背けた。さっきまで幽霊がいた場所には、全裸の若い男性が立っていた。
「おぬし、なぜそのような格好を?」
ユキナリは平然と、男性にそう尋ねた。
「ご、ごめんなさい!」
彼は土下座しそうな勢いだった。ジョナサンは眉をひそめて尋ねた。
「そもそも誰だ、お前?ケントルム大学の学生か?」
「はい、そうです。俺はカイル・レッドフォード、魔法学部1年生です」
「全裸でなにをしていた?」
「ええっと、サークルのみんなで飲んで、ノリで通りすがりの人を脅していました」
「サークル?なんのサークルだ?」
「えっと、『青春の酌』というイベントサークルです。まあ、ほとんど飲みサークルですけど」
「なにやってる、お前。していいことと、悪いことがあるだろ」
「すみません!まさか魔法を解かれるとは思わなくて」
「残念ながら、魔法使いがいるのは大学の中だけではないのですよ」
気分を取り直したアリーナが、割って入って来た。
「す、すみません!二度としません!」
「一度でも許されませんよ。今回のことは、大学に報告させていただきます」
「ええ、俺、どうなりますか?せっかく二浪して入ったのに」
「だったらいい大人のはずですよね。自分の行ないに、きちんと向き合ってください」
カイルは反論できず、そのままうなだれた。
「とりあえず、服を取ってこい。俺がついて行く。3人はここにいて、サークルのほかの連中が逃げないように見張っていてくれ」
「わかりました」
そう言ったアリーナと、ユキナリ、グロリアの3人はうなずいた。