第118話 ゴリラの姫
地下15階のボスである巨大マツタケが胞子を吐き出し、それが次々と爆発した。
もっとも、その威力はさほどではない。
「恋音ちゃん、大丈夫!?」
「う、うんっ……ちょっと痛かったくらいです……っ!」
恋音は爆発で後方に吹き飛ばされはしたものの、ガードしたこともあってダメージはあまりなさそうだ。
頑丈のスキルを持っていることもあり、恋音の防御力はかなり高いのである。
だが爆発の余韻が収まったところで、二人はあることに気がつく。
「っ……恋音ちゃんがつけた傷が……消えてる……?」
「ほ、ほんとですっ……確かに、ダメージを与えたはずなのに……」
〈もしかして自己再生能力持ち?〉
〈爆発で相手との距離を取ってる間に再生したってことか〉
〈急に厄介なボスに〉
視聴者の予測は当たっていた。
そこから何度も二人は距離を詰めてマツタケにダメージを与えたものの、直後に胞子爆弾を見舞われ、吹き飛ばされている間につけたはずの傷を回復されてしまう。
〈こいつ無限に再生するのかな?〉
〈ダンジョンと繋がってるもんなぁ〉
〈ダンジョンからエネルギーが供給されてるわけか〉
〈道理で斬っても斬っても触手が無くならないわけだ〉
「うーん、どうやって倒せばいいのかな……? 井の頭ダンジョンのボスも同じような再生能力があって、ケンさんはダンジョンとの繋がりを断って倒していたけど……」
「い、今のわたしじゃ、一撃であの身体を斬り倒すことはできないです……追撃は胞子の爆弾のせいで防がれちゃうし……」
恋音の攻撃力をもってしても、一撃ではマツタケの根元を寸断するのは難しい。
金本美久も光魔法を使い、刀身に光を付与しての斬撃を試してみたが、残念ながらそれでも恋音の攻撃力を上回る結果を出すことはできなかった。
「恋音ちゃんのパワーと、私の光の魔法剣を合わせることができれば、もっと大きな威力を出せるかもしれないのに……って、それだ!」
金本美久が何かを思いついたように手を叩いた。
「それをそのままやればよかったんだ! もちろん他の人の武器に魔法を付与するなんて、一度もやったことないから一か八かだけどっ……」
「わ、わたしの戦斧に、光魔法をっ……?(これってもしかして……美久先輩との初めての共同作業ううううううううううううううううううっ!?)」
恋音の武器に、魔法を付与しようと試みる金本美久。
無論その間にも触手が襲いかかってくるため、なかなか付与に集中できない。
「うーんっ、触手が鬱陶しいいいいっ! でもっ、上手くできたかもっ? どう、恋音ちゃん!?」
「す、すごいっ、わたしの戦斧が光って……あれ?」
煌々とした輝きを放っていた恋音の戦斧だが、徐々に光が弱まってやがて消えてしまう。
〈消えちゃったな〉
〈失敗?〉
〈あらららー〉
〈魔法付与って難しいんだよ〉
自分が手にしている武器なら魔力供給を続ければ付与を簡単に維持できるが、他人の武器だとそうはいかないからな。
「大丈夫ですっ! 短い時間でも、その間に攻撃をすれば!」
「なるほどっ! じゃあもう一回やってみるね!」
再び恋音の戦斧に光魔法を付与する。
「じゃあ、行きます……っ!」
だがそんな二人の作戦を嘲笑うかのように、マツタケは胞子を周囲にバラ撒いた。
どこかに当たるまではふわふわと空中を漂っているだけだが、それが恋音の接近を阻む。
「こいつマツタケにくせに頭いい! こうなったら回り込むしか……」
「いえ、このまま最短距離で突っ込んでいきます……っ!」
〈脳筋プレイwww〉
〈さすがニシダの姪〉
〈パワフルガール〉
〈頑丈スキル持ちだしな〉
恋音はマツタケ目がけて走り出す。
当然ながら途中で胞子に身体が触れ、爆発が連鎖するが、
「ぬがああああああああああああああっ!!」
恋音は強引に爆発の中を突破した。
〈ぬがあああってwww〉
〈どんなアイドルよ〉
〈ゴリラの姫〉
さらに恋音は水平に戦斧をぶん回し、ダンジョンと繋がっているマツタケの根元へと叩きつけた。
ザンッ!!
光魔法の付与によって威力を大幅に増した一撃が、マツタケの根元を両断した。
……いや、ほんの僅かだがまだ繋がっている部分が残っている。
「ぬごああああああああああああああっ!!」
だが恋音は戦斧を振った勢いそのままに、コマのように回転するとすぐさま追撃を繰り出した。
マツタケは胞子爆弾を吐いてそれを防ごうとするも、遅い。
ついに恋音の戦斧が完全に根元を断ち切り、
「ギイイイイイイイイノオオオオオオオゴオオオオオオオオオオオッ!?」
断末魔の叫び声を上げながら、マツタケは盛大に地面へ倒れ込んだ。
パンパカパンパカパーンッ♪
〈勝利のファンファーレや!〉
〈二人だけで下層のボスを倒した!〉
〈しかも新ダンジョンの初攻略やで!〉
〈すげええええええええっ!〉
〈美久恋音コンビ最高!〉
「やったよおおおおっ、恋音ちゃあああああああん!」
「美久先輩っ!?」
金本美久は歓喜の声を上げながら恋音に抱き着いた。
「(美久先輩に抱き着かれてるううううううううううううっ!? 柔らかくて温かくて良い匂いがして死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死んじゃううううううううううう! それともすでに天国っ!? もしかしてわたしとっくに死んでるううううう!?)」
〈感動的なシーン〉
〈お涙頂戴やで〉
〈ごちそうさまです〉
〈なんか恋音ちゃんの目がイってね?〉
そんな二人の様子を見ながら、俺はうんうんと頷く。
「二人ともよく頑張ったな。途中、加勢しようかと悩んだが、最後まで任せてよかった」
〈ニシダも感動してる〉
〈おっさん泣くなよグスン〉
〈俺は泣いてるぞ〉
〈俺も〉
〈それより隣の加賀さんの様子がおかしいんやが〉
「(ああああああああああああっ、なんて尊いんですかああああああああああああっ!? 推しと推しが勝利の喜びを分かち合いながら抱き合ってるとか! 神光景すぎ! これなんて神話ですかね!? 全世界の画家が絵にするべきですよこんなの! もう尊死する! 尊死しちゃうううううううううううううっ!)」
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