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第105話 真似できない定期

 俺が乗った飛行機は、やはり仙台空港から新千歳空港へ向かう便だった。


「完全な無賃搭乗だったが……許してくれ」


 函館近くの上空で俺は飛行機から飛び降りる。


〈小さいことは気にするな、ニシダ〉

〈絶対に誰も想定してない無賃搭乗〉

〈想定外すぎて逆に笑って許してくれそう〉

〈よい子は真似しないでね〉

〈真似できない定期〉


「五稜郭は……あれだな。分かりやすくて助かる」


 空から見ると、美しい星形をした五稜郭は目印としてこれ以上なかった。

 全速力で向かう。


〈ニシダ、魔族が現れたらしいぞ!〉

〈しかもあの神宮寺セイアがやられた!〉

〈ニシダが行って勝てるん?〉

〈もうこの国の希望はニシダだけだろ〉

〈さすがのニシダも今回ばかりは厳しいんじゃね?〉


 落下しながらコメント欄を確認してみると、どうやらなかなか大変な状況らしい。


「……魔族ですか。俺も噂でしか聞いたことがないので、実際に対峙してみないと分からないですけど……」


 神宮寺セイアといえば、現在この国で最も実績を残している探索者だ。

 過去にテレビで特集されていたことがあって、見たことがある。


 やがて地上が近づいてきた。


 急ぎつつも速度を落とし、俺は着地場所を水濠の上に定める。

 少しくらいは衝撃を抑えられそうだからな。


 ドオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!


 濠に着地すると、凄まじい水柱が舞い上がった。

 すぐに飛び出し、五稜郭公園に降り立つ。


「む? アンデッド?」


 するとそこはアンデッドの巣窟と化していた。

 しかも深層の魔物のアンデッドである。


「まさか、あの魔族の仕業か? おいおい、せっかく食材にできそうな魔物が結構いたのに余計なことを……」


 アンデッド化すると当然ながら肉が腐敗してしまうため、食材には適さなくなってしまうのだ。


〈そこ?〉

〈こんなときに食材のこと考えるとかwwwww〉

〈さすがニシダ、ブレない〉

〈キッチンザムライの鑑〉


「「「オアアアアアアアッ!!」」」


 一斉に躍りかかってきたアンデッドを、俺はまとめて包丁で斬り飛ばした。

 真っ二つになって地面を転がるが、アンデッド化しているためまだ動いている。


 もちろんここでアンデッドの相手をしている場合ではない。


「英霊召喚」


 俺は北条政子、安倍晴明、卑弥呼をそろって呼び出す。


「悪いけど、こいつらの相手をしててくれ」

「畏まりました」

「……了解、だ」

「任せておくのぢゃ!」


 彼女たちにこの場は託し、俺は元凶である魔族のもとへ。


「……ほう? どうやらタダ者ではないようですねぇ」

「お前の方もな」


〈ごくり〉

〈もしかして魔族の方もニシダに警戒してる?〉

〈さすがニシダ〉

〈やっぱりこいつを倒せるのはニシダしかいない〉


「し、師匠おおおおおおおっ! 来てくれたんですねぇぇぇぇぇっ!」

「……? 誰だ?」

「師匠!?」


 いきなり割り込んできた青年に、なぜか師匠と呼ばれてしまう。


〈竜牙忘れられてて草〉

〈こいつまだ生きとったんやな〉

〈可哀想〉

〈さすがに同情するwwwww〉


「高橋竜牙ですよ!? ドラゴンチャンネルの! 昇格試験で一緒だった! いえ、今はそんなことはどうでもいいです! あの魔族、めちゃくちゃ強いですけど、頑張ってください!」


 ……思い出した。

 やたらと俺に絡んできた面倒なダンジョン配信者の青年だ。


「まぁ魔族には遭遇したことがないからどんな感じか分からないが……とりあえず戦ってみるか」


 俺は距離を取ったまま包丁を振るう。

 不可視の斬撃が魔族を襲うが、


「ふふふ、今、何かしましたか?」


〈ニシダの理不尽斬りが防がれた!?〉

〈いや防いだというより、当たったのに通じてないっぽいぞ〉

〈深層のボスにすら余裕で大ダメージを与えてるのに……〉


「……まったく効いていないか。直接斬る必要がありそうだな」


〈普通はそうなんだけどな〉

〈直接斬ってないのに斬ってるのがおかしい〉

〈言われてみればwww〉


 俺は一足飛びで魔族との距離を詰めた。

 そのまま包丁を繰り出す。


 ズパッ!


〈斬れた!?〉

〈すげぇ!〉

〈けど、魔族は平然としてるぞ?〉


「ほほう、このわたくしの皮膚を斬り裂くとはなかなか」

「うーむ、この程度か」

「ふふふ、今度はこちらから参りますよ? 少しは楽しませてくださいね?」


 魔族が俺の顔を払うように腕を横に薙ぐ。

 軽く振るわれたように見えたが、咄嗟にしゃがみ込んで躱すと、俺の後方にあった木の幹がベコリと凹んだ。


〈こいつの攻撃も遠距離攻撃!?〉

〈理不尽すぎるって!〉

〈このドローン巻き込まれたら最悪だな〉


 魔族が次々と攻撃を繰り出してくるのを避けつつ、隙をついて反撃していく。

 しかしやはりダメージはほとんどない。


 一方の魔族はただの拳が凄まじい威力を持っているため、まともに喰らいたくない俺は守勢に回らざるを得ない。


 幸い魔族の動き自体は素人のそれで、ただブンブンと腕を振り回しているのと変わらない。

 持っているステータスが高すぎるせいで、技術を磨く必要がないのだろう。


「随分ちょこまかと動き回りますねぇ。では、これならどう対処されますか?」

「っ!」


 魔族の周囲に出現した幾つもの黒い光球。

 それが一斉に襲い掛かってくる。


 素早く距離を取って回避していくも、


〈Uターンして戻ってきた!?〉

〈ニシダ後ろ!〉

〈避けてーーーーっ!〉


「くっ」


 どうやら追尾能力を持っていたらしい。

 光球の一つが後ろから直撃してきたかと思うと、さらにそこへ容赦なく他の光球も殺到してくる。


 ドドドドドドドドドドドドドオオオオオオオオオンッ!!


〈ニシダああああああああああっ!?〉

〈オワタ〉

〈やっぱニシダでもダメだったか〉

〈いや待て〉

〈あそこに!〉


「おおおおおおおおおおおおおおおっ!!」

「っ!?」


 俺は魔族の背後を取っていた。

 最大級の闘気を込めた渾身の一撃を無防備な背中にお見舞いする。


 パキィィィィィィィィィィィィィンッ!!


〈え〉

〈あ〉

〈な〉


 ――包丁が、折れた。


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外れ勇者1巻
4月24日発売!!!
― 新着の感想 ―
包丁「だから、俺は武器ではないと……」
包丁が折れたことに憤怒の想いを込めたニシダが、今……新たなる戦士へと覚醒する その名は……超ズーパーシュペルニシダなり(←西田的ネーミングセンスならホントにやりそうだけどさ)
かの名工正宗が打ったと言われる妖刀和包丁が折れてしまった!なんてことだ! まあどうせただの包丁なんだろうけどw武器はアイテムボックスにいくらでもありそうだしね
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