私の運命
私が、驚いて口を開けていると、ガロンさんも同じような顔をしていた。
「私たち……婚約するんですか?」
確かに、昨日、想いを通じ合わせた。
だから、恋人的なものにはなるのかな、なんて思っていた。
今日、私が話したかったのも、そのことについてだし。
でも……。
「……そうか、俺は……」
ガロンさんが項垂れる。
「ガロン、さん……?」
ガロンさんの激しい落ち込みに、どう対応していいかわからない。
「すまない。……かなり先走った」
「……いえ」
でも、婚約……そっか。ガロンさんはそれだけ真剣に私とのことを考えてくれているってことよね。
「ラファリア」
ガロンさんは顔をあげると、私を見つめた。
「プロポーズは、また、改めてするが……。俺と、結婚してほしい」
「!!」
大好きなひとから、聞いたその言葉。
嬉しくないはずがない。
「……はい、喜んでお受けいたします」
ただ、心配なのは……。
「でも、私に王妃なんて大役、務まるでしょうか?」
そう。当然だけど、私たちは、婚約を幼い頃から結んでいるわけじゃない。
つまり、王妃教育なるものを、全くと言っていいほど受けたことがない。
「そこは、あなたなら、問題ないと思う。王妃としての政務よりも、アギノの世話係としての仕事の方が、国としては重要だから」
「……なるほど」
じゃあ、結婚してからも、アギノの世話係という仕事は続けられるのね。
……良かった。
「……ラファリア」
「はい」
ガロンさんが、星のような瞳で私を見つめる。
「その、すまない。俺が不甲斐ないばかりに、色々と……その残念なことに……」
「? ガロンさんが不甲斐なかったことなんて一度もありませんよ」
ざっと思い返してみるけれど、ガロンさんはいつだって優しいガロンさんだった。
「その、告白のこととか、今のこととか……」
「あぁ、なるほど」
私が頷くと、ガロンさんはショックを受けた顔をした。
そんな顔も可愛らしい、じゃなくて、可愛らしいけれど。
「気にしてませんよ。大事なのは、どんな状況か、じゃなくて。ガロンさんが想いを伝えてくれたこと、ただそれだけです」
少なくとも私はそうだ。好きなひとに、好意を伝えられたり、プロポーズされたら、それだけで、嬉しい。
「……ありがとう」
ガロンさんが、ほっとしたように微笑む。私も微笑み返した。
「……ところで、あなたの話はなんだったんだ?」
「……それは」
この話の後だと、少し気恥ずかしいけれど。
咳払いをして、話を切り出す。
「私たちは、想いを通じ合わせたけれど、どんな関係になるのかと、そうお尋ねしたかったのです。でも、もう、そんな心配は必要なくなりましたね」
ユグの秘訣はさすがだ。
今日ちゃんと話し合いをしなかったら、私たち、すれ違ってしまっていたかもしれない。
「そうか、不安にさせてしまったんだな」
また、ずーんと落ち込んでしまったガロンさんに慌てて首を振る。
「そんなことありません。ガロンさんの言葉で吹き飛びましたし」
「……ありがとう」
ガロンさんが、少しだけ回復した様子で微笑む。
「はい」
私も微笑むと、困った顔の給仕の咳払いが聞こえた。
「!!」
そうだった。これは朝食会。
二人きりの場所じゃないのに……はずかしい。
「食事をお持ちしてもよろしいでしょうか?」
「……あぁ」
ガロンさんが頷いたことにより、ようやく食事が運ばれてくる。
なぜか、生暖かい空気を感じながら、食事を摂った。
◇◇◇
「アギノ、入りますね」
今日は、ガロンさんも一緒にアギノの部屋に行く。
『はーい!』
アギノの元気な返事に思わず笑みが漏れつつ、扉を開ける。
すると……。
「……え?」
アギノの部屋はすごく飾り付けられていた。
色とりどりの風船に、綺麗な花。
そして、綺麗な文字で、『ガロン、ラファリア、婚約おめでとう』と書いてある。
「ご婚約おめでとうございます!!」
ユグや、マギリも部屋の中にいて、拍手している。
『やっと、婚約したんだってね。おめでとう、ガロン、ラファリア』
この文字は魔法でボクが描いたんだよー、とふんぞりかえっているアギノはとてもかわいい。かわいい、けど……。
「私たちが婚約したのは、つい先ほどなのに、準備が早い、ですね……?」
そう、魔法を使ったにしろ、準備が早すぎる。
『そう? ボクは昨日、あほマギリから聞いたよー。それで、あほマギリと一緒に準備をしたんだけど……』
アギノがぱちり、と瞳を瞬かせる。
「私もさっき、マギリから聞きました」
ユグも驚いた顔でマギリを見ている。
マギリと言えば。
「……え? だって、昨夜陛下から、婚約することになったって聞いたので……」
全員がガロンさんを見た。
『まさか……ばかガロンってば、ちゃんとラファリアに伝えてないのに、婚約した気になってた?』
「……」
頭を抱えて、押し黙ったガロンさんを慌ててフォローする。
「でも、ガロンさんは、ちゃんと気持ちを伝えてくださいましたよ!」
『それも、さっき、でしょー? えー、ボク信じらんない!』
アギノは、ガロンさんに頭突きした。
「……陛下」
ユグやマギリまでも残念なものを見る目で、ガロンさんを見つめている。
『もーラファリア、ばかガロンが嫌になったら、いつでもボクに乗り換えていいからね。ボクってば、こう見えて、美男子だから』
「……それはだめだ!!」
ガロンさんが私をぎゅっと抱きしめる。
「ラファリアを俺の方が愛しているから、だから、だめだ」
「……ガロンさん」
好きや、恋してる、は昨日聞いたけど。
愛している、は初めて聞いた。
思わず、真っ赤になっていると、アギノがひゅう、と口笛を吹いた。
『らぶらぶカップルはこうでなくっちゃ!!』
そういって、アギノが前足を叩くと、音楽が流れ始めた。
ガロンさんに手を取られて、そのワルツに合わせて、ダンスを踊る。
アギノの魔法で、花びらが舞い散る部屋で、くるくると踊っていると、だんだん楽しくなってきた。
「……ガロンさん」
「どうした?」
星屑のような、金の瞳は、私だけを見つめている。
そのことに、心がこれ以上ないほど満たされるのを感じながら微笑んだ。
「私――とても幸せです」
ずっとずっと、〈竜王の運命〉になりたい。そう思っていた。
私は、〈竜王の運命〉にはならなかったけれど。
愛しいあなたといる道を、自分の意思で選んだ。
自分の意思で選んだこの結末こそ、私自身の運命なのだと、迷いなく言い切れるから。
「あぁ、俺も幸せだ」
ガロンさんが微笑む。
私は、その笑みに引き寄せられるように、愛しい人を抱きしめた。
いつもお読みくださり、誠にありがとうございます!
これにて、一旦終了です。ここまでお付き合いくださり、ありがとうございます。
二人の結婚騒動とか、伏線とか(様子が変だったアギノとか)まだ、書きたいことは、山ほどあるのですが、一旦これで完結とさせていただきます。
もし、少しでも面白かったと思っていただけましたら、ブックマークや☆評価をいただけますと、今後の励みになります!!
また、一月に、「恋心に苦しむ王妃は、異国の薬師王太子に求愛される」と
「愛されない王妃は、お飾りでいたい」
の二冊が発売されております!
まだまだ新刊ですので、お手に取っていただけたら幸いです。
それでは、ここまでお付き合いくださいまして、誠にありがとうございました!!




