秘訣
翌朝。
「ユグ、おはようございます」
「おはようございます、ラファリア様」
窓を開けて、まぶしい陽光に、目を細めていると、ユグがやってきた。
「今朝も、陛下から朝食のお誘いがございますが、どうされますか?」
「お受けします!」
しまった。食い気味で、言ってしまったわ……。恥ずかしい。
「ふふ。承知いたしました。それでは、そう、お伝えしますね」
「はい、お願いします」
ユグに朝の支度を手伝って貰う。
「……今日も、髪型を変えてもいいですか?」
「はい、お願いします」
ユグの言葉に大きく頷く。
「では、失礼しますね」
ユグが、手早く髪をまとめてくれるのを、鏡越しに見つめながら、ふと、尋ねる。
「ユグは、マギリとお話できましたか?」
一日ぶりにマギリに会ったのだ。
たった一日とはいえ、魔国とアドルリアはとても離れているし、不安だったに違いない。
「はい。できました……」
……?
心なしか、ユグの目つきが怖いような……?
「マギリったら、また、徹夜してたんですよ! 信じられないです」
「……なるほど」
私とレガレス陛下のごたごたで、予定が早まったとはいえ、それではユグが怒るのもうなずける。
「なので、今日は強制的に有休を使わせました」
「えっ!? それなら、ユグも休んだ方がいいんじゃ……」
「大丈夫です。これも、マギリに対する罰なので」
……なるほど?
夫婦の愛の形は、ひとそれぞれだものね、うん。
「……できました。いかがでしょうか?」
「とっても素敵です! ありがとうございます」
今日の髪型は三つ編みに、真珠の飾りがついたピンがいくつか差し込まれていた。
とってもかわいい。
「きっと、陛下も褒めてくださいますよ」
「!!」
そうだといいな。
ガロンさんのことや、昨夜のことを思い出しながら、赤くなっていると、ユグは首を傾げた。
「……あら?」
「ゆ、ユグ?」
「あらあらあらあら、まぁ。そうなのですね!!! 昨夜、お戻りが遅かったのは、そういう……」
きらきらと瞳を輝かせながら、ぎゅっと手を握られる。
「ついに、うちの陛下にも、春が!!!!!」
「……そう、だといいんですけど」
「あら、いかがなさいました?」
……ユグならいいか。
私はユグの耳にこそこそと伝える。
「ふんふん、なるほど。……それで、ラファリア様は少し不安になっておいでなのですね?」
「……はい」
頷く。
すると、ユグは――……。
「ひとつ、秘訣をお教えするなら、不安なことは、迷わず話された方がいいですよ」
微笑んで言われたその言葉を頭の中で反芻する。
「……ありがとうございます、ユグ」
確かに、ユグの言う通りだ。
私たちには、せっかく口があって、話せるのだから。
「いいえ。では、いってらっしゃいませ」
「はい! いってきます」
◇◇◇
食事の間へと歩く。
歩くたびに、ちりん、と鈴が揺れた。
ふと、立ち止まり、窓に映った自分を見る。
「――……」
そこにいるのは、紫の制服を身にまとった、闇獣の世話係の私だった。
「……ふふ」
花奏師だった頃の方が長いはずなのに、もう、この制服姿の方がしっくりくる。
それは、それだけ、この国のひとたちが、私を大事にしてくれたからだった。
だから。
私も、私の周りの人たちを大事にしていけたらいいな。
そう考えながら、歩き出す。
もう、立ち止まることはなかった。
「おはようございます」
食事の間の扉を開けると、ガロンさんはもう席についていた。
相変わらず、準備が早い。
「あぁ、おはよう。ラファリア」
ガロンさんは、私を見ると、微笑んだ。
「お待たせしてしまい、すみません」
「構わない。そもそも、そんなに待ってない。それに、今日の髪型も素敵だな」
「! ありがとうございます」
気づいてくれた! 嬉しい。飛び上がりそうになりながら、席に座る。
「あの」
「その」
席に座ると同時に、お互いが、話を切り出した。
「ガロンさんから、どうぞ」
「いや、ラファリアのほうから……」
二人とも譲り合ってしまった。
このままでは、埒が明かない。
「……まずは、ガロンさんのお話を聞きたいです」
「……わかった」
ガロンさんは、頷くと、話を切り出した。
「俺たちの、婚約式のことだが……」
「……え?」
「え?」
こ、こここここ婚約!?
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