あるべきひと
「……ラファリアさん!!」
花奏師長は、私を見るなり、駆け寄ってきた。
「ごめんなさい」
「……え?」
いきなり謝られて、対処に困る。
私は、花奏師長に謝られる心当たりが、全くといっていいほどなかった。
「私が、花奏師長として、もっと優秀だったら……、マーガレットさんがあんな卑怯な手段で花奏師をしていることに気づけたかもしれないのに」
「……それは、花奏師長のせいではありませんよ。聖花への演奏は、聖花だけのものですし」
そうだ、聖花へ捧げる演奏を聞くには、竜王の――レガレス陛下の許可がいる。
「……でも」
それでもなお納得していなさそうな花奏師長に、続ける。
「そもそも、アドルリアでは魔道具の流通はそう多くありません。気づけなくとも、無理はないかと」
魔道具が流通しているのは、それこそ、魔法が使える人達ばかりの魔国だ。
アドルリアじゃない。
「……ありがとう、ラファリアさん」
「いえ、私は事実を言っただけですから。……ところで、レガレス陛下。対策というのは?」
レガレス陛下を見つめる。
レガレス陛下の腕には、何か布らしきものがあった。
「……あぁ、君にはこれを着てもらう」
レガレス陛下に差し出された布らしきものを受け取る。
「……ローブ、ですか?」
広げると、大きなローブだった。
「あぁ。これには、うちの魔法使いたちの魔法がかけられていて、遠くからだと君の姿をかくすことができる」
もちろん、私たちほど近づけば見えるが。
そう、レガレス陛下は付け加えた。
「これからあと、六日間。これを着て、花奏師長と共に、聖花に演奏を届けてほしい」
「かしこまりました」
……ということは、もう一度、聖花たちの前に立てるんだ。
胸の中が喜びでいっぱいになる。
「それでは、ラファリアさん、行きましょうか」
「はい!」
花奏師長と共に、部屋を出ようとすると、レガレス陛下に呼びとめられた。
「……ラファリア」
「はい」
どうしたんだろう。
「演奏が終わったら、私の部屋に来てくれないか?」
「わかりました」
聖花の変化を知りたいのかしら。
そう思いつつ、頷く。
「では、失礼いたします」
「あぁ。頼んだ」
◇◇◇
聖花の前に立つ。
聖花の香りは……少なくとも私では感じられない。
大好きだった聖花、憧れだった聖花は、今は萎れて見る影もない。
「……ごめんね」
何も言わずに勝手にいなくなったりして。
謝罪に、返答はない。
当然だ。聖花は、話さない。
だから、私も謝るのはやめにする。
代わりに、演奏で、あなたたちに、伝えることにしよう。
目を閉じて、意識を集中させる。そして、ゆっくりと、口を開いた。
歌うのは、愛を告げる曲。
大好きな聖花たちへ。
あなたたちが、もっと元気になりますように。
また、綺麗な姿を見せてくれますように。
アドルリアを繁栄させてくれますように。
そう、心を込めて、歌う。
「――……」
最後の音を歌い終えると同時に目を開けた。
「……あ」
聖花を見る。
聖花は、萎れた姿から、少し元気がない姿になっていた。
「……良かった」
ほっと、息を吐く。
「……ラファリアさん」
「花奏師長?」
隣で、私の演奏を聴いていた、花奏師長に両手を握られた。
「……あなたの想いが伝わる、これ以上ないほど素晴らしい、演奏だったわ!!」
「……ありがとうございます」
褒められて、少し気恥ずかしい。
「ねぇ、ラファリアさん――、あなたはやっぱり花奏師よ」
「え?」
「あなたが花奏師じゃなかったら、誰が花奏師だというの。こんなに聖花を愛する人……私しかいないと思っていたけど……あなたは、私以上に聖花を愛してる」
「――……」
聖花のことは、好きだ。大好きだ。
そもそも花奏師をやめたのだって、聖花を嫌いになって、やめたわけじゃない。
でも……。
「私は、聖花の前から、去りました」
どんなに好きだったって、私は、花奏師という立場を一度、手放した。
その事実は、消えない。
「でも、あなたは帰ってきた。聖花の為に」
「それは、……引継ぎがあると、言われたからです」
そして、聖花にさよならを言えなかった後悔を少しでも軽くするため。
「あなたが着てた花奏師の制服は、今でも、私のロッカーに保管してあるわ」
「!」
花奏師の制服は、聖花に近づける証でもあるため、退職者が出たときは、その日のうちに燃やすことが一般的だ。
それなのに、持っていてくれたということは……。
「なんだか、帰ってくるような気がしてた。そしてそれは現実になった。……私の勘はね、当たるのよ」
そう言って、微笑み、花奏師長は、私の手を握る力を強くした。
「あなたは、花奏師であるべきひとだわ」
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