ありがとう
――おかえり。
その言葉になぜか違和感を覚えたけれど、ここはついこの前まで職場で、私の祖国だ。
何ら間違っていない。
「はい、ありがとうございます」
でも、その手をどうしたものか、迷う。
エスコートをしてくれるつもりなのだろうけれど、レガレス陛下にはマーガレット様がいる。
それなのに、ただ元花奏師というだけで、エスコートされるのは気が引けた。
「……嫌だった?」
悲し気に視線を落としたレガレス陛下に慌てて首を振る。
「いえ! ……そういうわけでは」
すると途端に表情を明るくし、私の手を取った。
「!? へい……」
「嫌じゃないんだな、……よかった」
「っ!」
心底嬉しそうに微笑まれると、あの日の少年の頃の笑みとかぶり、何も言えなくなってしまう。
でも……。
「……っ、陛下」
「どうした?」
どうしたというか……。
私は、つながれた手を見る。
てっきり、エスコートしてくれるのかと思ったけれど、その手はがっしりと握られていた。
「さすがに……マーガレット様に妬かれてしまいます」
自分の胸の中が、じくり、と痛むのを感じながらその名前を出した。
レガレス陛下なら、そう言えば、手を離してくれるに違いない。
「!」
けれど、マーガレット様の名前を出した途端、レガレス陛下の表情が変わった。
「あ、の……?」
以前は、あんなに愛し気に見つめていたのに。
どうして?
「レガレス陛下……?」
戸惑いながら、その名を呼ぶと、レガレス陛下は、はっとしたように、私を見つめた。
「あ、あぁ。すまない、この城には、もうマーガレットはいないんだ」
「――え」
どういうこと?
マーガレット様がいないって。
「あ……、なるほど。もうご結婚間近なのですね」
短い間にもうお披露目会や婚約会が開かれたのは、驚きだけど。
結婚間近なら、一度生家に戻って、支度を整えていても不思議じゃない。
「……違うんだ」
レガレス陛下は、一度目を閉じ、首を振った。
「詳しくは――……城に入ってから話そうか」
「……わかりました」
???
何があったんだろう。
でも、レガレス陛下の表情からして、いい話題ではなさそうだ。
――結局、手は離してくれないまま、城の中に入ることになった。
◇◇◇
通されたのは、最上級の部屋……つまり、竜王の居室だった。
私は今まで一度も入ることを許されていない。
それなのに、そう、だとわかったのは、天井に描かれた絵画からだった。
竜王陛下の居室には、初代竜王とその妃の恋物語や、聖花が描かれていると言われていると聞いていた。
この部屋には、初代竜王と妃は描かれておらず、代わりに、たくさんの聖花が美しく描かれていた。
……マーガレット様は、きっと何度もこの部屋に入ったのよね。
また醜い自分が出てきてしまった。
そんな自分を追い出すように、頭を振って、思考を切り替える。
私は、ここに失恋をしに戻ったのではないわ。
かつての仕事と――聖花たちに別れを告げるために来たのだから。
「……ラファリア」
レガレス陛下は、私と向かい合わせのソファに座った。
「君に話さなければならないことがある」
「……はい」
聖花のことや、マーガレット様のことだろうか。
「……だが、まずは」
レガレス陛下は、立ち上がると、深く腰を折った。
「改めて、アドルリアに帰ってきてくれて、……ありがとう」
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