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【12/19書籍発売】竜王陛下の運命になれなかった私が、魔国で愛されお世話係に!? 聖花を癒やす弦歌の乙女(旧:運命は、手に入れられなかったけれど)  作者: 夕立悠理
運命の相手編

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36/75

泡沫

(レガレス視点)

「……陛下?」

 ……いけない。

 再会した日の思い出に浸りすぎていたようだ。

「マーガレット」

 私は、そっとマーガレットを抱き寄せる。


「……陛下ったら」

 微笑んだマーガレットに、安堵する。


 私は、間違っていない。


「……ですが、顔色が優れませんね」

 そういって、心配そうに頬に手を当てられる。

 緑の瞳と目が合う。


 エメラルドグリーンの瞳は、いつも通り輝いている。

……だが。


 ――『君』の瞳は、本当にこの色だっただろうか?


 一瞬、自分の中に浮かんだ疑念に、胸がつまりそうになる。


 なぜ、そんなことを思う。

 金糸の同じ色の髪も。

 マーガレットは、六年前の出来事を憶えていて。

 そして、再会した時だって、聖花を見て、涙を流したと言っていたじゃないか。


 ……体調が悪いせいか?


 だから、精神的に不安定なのかもしれない。


 そう自分を納得させていると、黙っていた私を不安そうにマーガレットが見つめていた。

「……陛下?」

 馬鹿だな、私は。

 こんなに私を想っていてくれる君が、嘘をつくはずがない。


「……いや、マーガレット。以前の話だが……」

 〈運命〉は必ずしも今世で選ばなければならない相手ではない。

 実際に、〈運命〉に選ばなくとも、幸せになった国王夫妻は何組もいる。


 それでも。


 〈運命〉、として選ぶのは、誓いだった。

 何年先も、何十年先も。――たとえ、生まれ変わったとしても。


 迷わず、君を探しに行くと。


「どの話、ですか?」

 マーガレットは、瞳を瞬かせた。


 確かに、以前の話、だなんてぼかしすぎたな。

「君が、この前――」

 ――しかし、私が言いかけたとき。


「……?」

 首を傾げる。


 何やら、廊下が騒がしい。

「……陛下」

 侍従のクルスが、やってきた。

「ご歓談のところ、申し訳ございません。花奏師長が、至急、陛下とマーガレット様にお話したいことがあると」

「……花奏師長が?」


 彼女がわざわざ、私とマーガレットに話がある、ということは、聖花関連だろうか。


 聖花に何かあった?


 不安の種が私の中で芽吹き始める。

「はい。いかがされますか?」

 クルスも困惑した表情で、私を見つめていた。


「通してくれ」


 国に繁栄をもたらす聖花に何かなければいい、と願いながら、通してもらう。


「……陛下、突然の訪問になりましたこと、申し訳ございません」

 花奏師長は礼をすると、厳しい表情で、私とマーガレットを見つめる。


「いや、構わない。……こちらこそ、見苦しい格好ですまないな」

「とんでもございません。それで……」


 花奏師長は、一枚の萎れた花びらを差し出した。

「……これは?」

「抜け落ちた聖花の花びらです」

「……なに?」

 これが、聖花……だと?

 聖花はもっと瑞々しく、神々しい輝きを秘めていたはず。


 それなのに、どうして、これほどまでに萎れているのか。


「実は、つい先日から、聖花の様子がおかしい区画がござまして……」

「なんだと?」


 聖花の様子がおかしい?

「なぜ、早く報告しなかった?」

「確信が持てたのが、つい先ほどだったのです」

 そういって、花奏師長は聖花を指さす。


「それで……その区画の担当者は?」

「以前は、ラファリアさんが担当していましたが……」


 ……ラファリア。

 花奏師で、マーガレットの友人で、私のことが好きだったという、彼女が。

「では、担当のラファリアを呼び戻すよりほかは……」

「いいえ。おかしくなったのは、ラファリアさんがいなくなってから――マーガレットさんが区画の担当者になってからなのです」

「!?」


 マーガレットが……?

 思わず、マーガレットを見ると、マーガレットは微笑んでいた。

「だって、ラファリアに捨てられた聖花が可哀そうだったので……それで、私が担当になったんです」

「……そう、だったのか」


 優しいマーガレットらしい言葉に安堵する。


「はい」

 私の表情を見て、マーガレットは嬉しそうに、頷いた。


「だったら、急に担当が変わって、聖花もとまどっているだけじゃないか?」


 聖花に感情がどれだけあるかは、知らないが。


急な変化に戸惑っている、ということも考えられる。


「その可能性も考えましたが……これは、あまりに」


 花奏師長は、視線を落とした。

 その視線の先にあるのは、萎れた聖花だ。


「それとも、君は……マーガレットの腕に問題があると?」

「……っ、それは」

 怒気を孕んだ私の声音に、花奏師長は、身を竦ませる。


「陛下、そんなに怒らないで。……でも、心配してくださって、ありがとうございます。花奏師長は、聖花を守るのが仕事だもの。……可能性を考慮するのは、仕方のないことですわ」

「……マーガレット」


 あぁ、君はなんて優しいのか。

 思わず、マーガレットを見つめると、マーガレットも微笑んでくれた。


 しばらく二人で見つめあう。


「……ごほん」

 咳払いが聞こえ、私たちの間の甘い空気は霧散した。咳払いの主は、花奏師長だった。

「……マーガレットさん、そして陛下にお願いがございます」

「なんでしょう?」

 マーガレットは、可憐に小首をかしげてみせる。

 花奏師長は、一度大きく息を吸い込み、吐き出した。

「私にも、マーガレットさんの演奏を聞かせていただけませんか?」

いつもお読みくださり、誠にありがとうございます!

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