表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/74

旅立ち

城を出るなら、新たな職を探す必要がある。

 私は、花奏師だ。

 王城の聖花たちに演奏を届けることが仕事。


 だけど、誰にもーーいえ、ただ一人にしか言っていないけれど。私の演奏には、聖花を守る他に、もうひとつ、効果がある。


 それは、怪我や精神を癒せるということ。


 この力があれば、きっと、どこでだって生活していける。


 そうでなくても、演奏の技術は毎日、磨いてきた。


 どこかの一座に入るのもいいし、あてのない一人旅をするのだっていいでしょう。


 私の実家ーートドリア侯爵家は、いつだって、私の味方だ。私がレガレス陛下以外との婚姻を望んでいないことを知っている。


 だから。


 きっと、大丈夫。


◇◇◇


 出立の日は、すぐにやってきた。


 花奏師長は、私がいないと困る、と言ってくれたけれど。

 マーガレット様がいるから、大丈夫。

 それに二人を見るのは、やはり辛いのだ、と告げると、許してくれた。


 師長も私の想いを知っていた……知らないのは、マーガレット様とレガレス陛下だけ。


 マーガレット様たちには出立の日も、城を出て行くことも、伝えなかった。

 優しくて純真なマーガレット様には、止められるに決まっているから。


 でも、そんなの余計惨めになるだけだ。


 友人、と言っておきながら、こんなに自分のことしか考えていない。


 だから、私ではだめだったんだろう。


 改めてそう思いながら、空を見上げる。

 ーー青い空には、雲ひとつない。


 太陽に手をかざす。

 もちろん、太陽に手なんか届くはずないけれど。それでも、ずっと、焦がれていた。


 初めて出会った、あの日からずっと。


 でも、そんな想いも、もうおしまい。


 選ばれなかった私は、けれど、それでも、ラファリアとしての人生を生きていかなければならない。


 

 私は一度だけ、城の方を向いた。


 六年前の思い出が、演奏が、花の香りが、甦り、引き返したくなる。


 それでも、選ばれたのはマーガレット様だ。

 私じゃない。


 その事実を噛み締めて、今度こそ、前を向いて、歩き出した。



◇◇◇


 さて、どこにいこう。

 実家は、いつでも迎える用意はできている、と手紙を送ってくれたけれど。


 でも、実家に帰るつもりはなかった。


 気を遣わせることはわかっていたし、もう十分我儘を言った。これ以上煩わせるのは、違うだろう。


 ……そういえば。


 王都の街並みを歩きながら、ふと、立ち止まる。


「お酒、飲んでみたいなぁ……」


 私は成人しているものの、花奏師だから、お酒を飲んだことがない。


 花奏師は、聖花がお酒を嫌うため、任期中は飲酒できないのだ。


「うん。……せっかくだし、飲んでみよう」

いつもお読みくださり、誠にありがとうございます!

もしよろしければ、ブックマークや☆評価をいただけますと、今後の励みになります!!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ