エピローグ
目が覚めた。
頭がぼんやりしている。
ひどい夢を見た。
夢の最後だけは細かいところまではっきり覚えている。
視界がぼやけている。
夢の続きだろうか。
スマホが鳴った。
モーニングコールだ。
わたしは、スマホを取って電話に出た。
「おはよう、千穂。起きてるか?」
返事ができない。
「おい、聞こえてるか?」
夢の中にいるようだ。
「具合でも悪いのか? なら、今日の映画は中止にしようか」
あわてて言った。
「大丈夫。なんでもない」
「そうか? なんだか元気がないみたいだけど」
「ごめん。ちょっと、お話しない?」
「うん? 別にいいけど」
「いつもケーキをありがとう」
「なんだよ、今さら。おれがいつも間違って二つ注文しちゃうから、一つを食べてもらってるだけだ」
…。まだ、わからない。
「ノートはいつ返してもらえる?」
「ごめん、ごめん。今日は無理だから、月曜日に学校で返すよ」
「いきなりだけどさ。『ジョーカー』の結末をどう思う?」
「あの暴動のシーンで映画が終わったと思っている」
最後の質問だ。この答えで、すべてが決まる!
「『ダンサー・インザダーク』の結末をどう思う?」
「救いがなさすぎるな。ジーンの眼が治って、セルマも死刑にならないような方法も、絶対にあったと思う。それでも、ジーンの眼が治ったことだけは良かったと思うよ」
涙で前が見えない。
心臓が走り出しそうに動く。
上半身の産毛がいっせいに逆立つ。
下半身がジンと痺れる。
下着が熱くなった。
わたしは、声に出して言っていた。
「本物だ……」
fin