みんなでそれを
宴の後。
案の定酔いつぶれたティアを運び、海明とあかりはタクシーに乗り込んだ。
笹崎や他の所員達が見送る中、タクシーはティアの自宅に向けて発車する。
「お疲れ様、あかり」ティアを挟んで向こう側、海明が笑う。
「お疲れ様です、海明さん」あかりも笑った。
「や、大変でしたね」
「ええ。でも、楽しかったわ」
海明の笑顔が、このごろ更に魅力的になったと思う。角が取れたのか、どこか張り詰めていた糸が適度に緩んだのか。
「で、あかり。あなたこれからどうするの?」
少々唐突な質問。あかりは面食らって、それでも考えを巡らせる。
窓の外、自動運転の車が走る道路。
さっきまで居た、ホログラムドーム。
ほんの少し前まで想像もできなかった光景。
あかりは語り始める。
「えっと、未来を創りたいって思います。大学で色んなことを目一杯勉強して、ティアや海明さんが繋いでくれたこの世界を、もっともっといい未来にしたいなって」
それはあかりの中にいつしか芽生えていた思いだった。
自分が生き返った意味があるとすれば、ティアや皆に出会った理由があるとすれば、そういうことなのではないか、と。
海明はにこりとする。あかりの緋色の髪をしず、と撫で下ろす。
「それはとってもいい考えね。もちろん私も付き合うわよ」
「――海明。あなたがいてくれて良かったよ」
目を覚ましたティアがよく通る声で言った。
「ノン、あなたはあたしのかけがえのない人。だから、死なないでね」
海明の声に温かな笑気が満ちる。
「無理言わないでちょうだい。あなたと違って人はいつか死ぬのよ。まあ、心配しなくても私が死ぬまでは付き合ってあげるわ」
微笑むその顔は澄み渡った青空のようだ。
彼女にはとっくに分かっている。
ティアよりも先に寿命を迎えるのは自分で、それは仕方ないと。
「そうか、そうだね」
対照的に寂しそうなティアの声。
長さの違う二人の寿命、別れの時は、いつか確実に訪れる。
「そんな顔しないでティオ。大丈夫よ、言ったでしょ? 死ぬまでは付き合うって」
「あははは。うん、そうだね。取り敢えずはそれで良しとするよ」
あかりは二人のやり取りを黙って聞いていた。
ふと思う。
パラメーターのことだ。
人体に関する数値、それがパラメーター。
もし、その中に、寿命に関わるものが見つかれば?
――そうだ。私が、いや、皆でそれを見つければいいんだ。
あかりは密かに決意した。
「そうだ、あかり」
ティアは気持ちを切り替えるように声を出す。
「なに?」
「いつかあたしに訊いてくれたことだけどさ――いいよ。あかりになら」
何の事だろうと考える。
海明はああ、あのことか、と微笑した。
やがて、あかりも思い当たる。
「じゃあ私、これからは時々、あなたのことをティオ、って呼ぶね」
「いいよ。でも、頻繁にはやめてね?」
少し顔を赤らめておどけるティアの声に、海明もあかりも声をあげて笑う。
あかりは二人を交互に見た。
――みんなで創ろうよ、未来。それってきっと、楽しいよね。
「あかり、あたしを起こしてくれてありがとうね」
ティアが呟くように口にした。
「どういたしまして」
あかりが応じる。
「私もあの時、起こしてくれて本当にありがとうね――ティオ」
ティアは顔を真っ赤にして、子供のように無邪気に、白い歯を見せた。




